NHKの朝の連続テレビ小説「おかえりモネ」(番組公式HPから)
作品の軸となる「心の傷」が説得力欠いたまま。29日最終回
東日本大震災から10年後の今年5月から始まったNHKの朝の連続テレビ小説「おかえりモネ」が、見る者に躍動感を十分に与えないまま終盤を迎えている。宮城県気仙沼で育ち気象予報士となった主人公・永浦百音(清原果耶)が抱え作品の軸となる「心の傷」が、説得力に欠けるためだ。ドラマの主題につながるエピソードが腑に落ちず、視聴者の想定を超えて弾けていく傑作の領域には迫れず、10月29日の最終回が近づく。
実家を離れ森林組合に就職した百音。人気気象キャスターの朝岡が東京から組合を訪れて交流し、気象予報の力を知る(第5回、番組公式HPから)
百音は震災の日、高校受験の発表で島を離れていた。身近にも犠牲者を出した島の親しい人らに後ろめたさをぬぐえない百音に落とす影が、その後の人生選択や人間関係に及ぼしていく。妹の未知(蒔田彩珠)に「(お姉ちゃんは)津波を見ていないから」と言われ、百音も「私はここから逃げたから」と自責の念を隠さない。
やりたいことが見つからない百音は高校を卒業すると実家を離れ、宮城県北部の登米市の森林組合に就職。そこでの気象予報士との出会いがきっかけとなり、気象を通じて故郷に貢献できないかと予報士の道を歩むというストーリーだ。
「震災時に現場にいなかった」がトラウマになるのか
お盆に帰省した百音が「人助けをしたい」と話した時、妹の未知が「私のせい?」と返して少し気まずくなり、「お姉ちゃん、津波、見てないもんね」と言ってしまった(第20回、番組公式HPから)
しかし、「震災時に現場にいなかったことがトラウマになる」ということが、そもそもあるのだろうか。
脚本を担当する安達奈緒子氏は、「『東北を舞台に現代の朝ドラを』というオファーでしたので、震災を描くだろうとまず覚悟しました」と述べている(NHK出版『連続テレビ小説 おかえりモネ Part1』)。震災時の不在については、「『妹や幼なじみたちと二度と同じ思いを共有できない』という寂しさと隔絶を感じてしまう。そして、何もできなかった、何かを取り戻したい、という思いから人の役に立てることを模索します」と説明している(同)。
阪神大震災が舞台「その街のこども」の説得力―誰のせいにもできない
NHKの阪神・淡路大震災15年特集ドラマ「その街のこども」。森山未來演じる中田勇治と佐藤江梨子演じる大村美夏(番組HPから)
子どものときに阪神大震災を体験した十年余り後の若者2人を描いたNHKドラマ「その街のこども」が、2010年に放送された。脚本を手がけた渡辺あや氏に、この年インタビューしたときの言葉が思い起こされた。
渡辺氏は震災について、「まだ誰も総括していない。戦争とちがい、どう捉えていいかわからない。災害なので、誰のせいにも出来ない」と語っていた。後に朝ドラ「カーネーション」、近作「今ここにある危機とぼくの好感度について」と常に手垢のついていない作風で余韻を残す脚本家の背骨を、発言からすでにうかがわせていた。
阪神大震災のとき夫の仕事の関係でドイツにいた渡辺氏は、兵庫県西宮市の実家が半壊。「その街のこども」は、追悼のつどいがある前日の1月16日夕、神戸市へ久々に戻った男女2人が出会い、翌朝まで神戸をさまよい、思いを語り合っていくというあらすじだ。
実際に神戸市東灘区で震災を体験した森山未来と佐藤江梨子が、説得力をもって演じた。
百音は気象予報士試験に合格したが、思いを周囲に話せずにいた。森林組合での仕事ぶりが認められ、夢があるなら進むよう伝えられると、組合を辞めて東京で気象にまつわる仕事を目指すことを打ち明ける(第45回、番組公式HPから)
リアリティーとは。被災者と支援者との関係では明確な主張が
ドラマはフィクションだから、設定は自由だ。ただ震災後に、「津波を見ていないから」と半ば責めるような台詞が発せられることにいまひとつリアリティーを感じない。震災のとき重大な被災地にいなかったことを、ひけめに感じる人はどれくらいいるのだろうか。
故郷に戻った百音の実家に幼なじみが集まった。なぜ戻ってきたのか問われた百音が地元のために働きたかったからだと答えると、亮は「きれいごとにしか聞こえない」と突き放した(第98回、番組公式HPから)
未知からは「お姉ちゃんはいいね、やりたいことを見つけて仕事にして、好きな人と仲よくて……。順調じゃん、全部持ってんじゃん、私の気持ちなんかわかるわけ?」とも突きつけられる。地域に貢献したいと故郷に帰ってきたことに、漁師となった元同級生の及川亮(永瀬廉)に「きれいごとにしか聞こえない」と言われる。
本音をぶつけるというより、毒を吐くような言葉に対し、他者に思いを寄せる百音は寛容に受け止めるが、心の傷をえぐっていくような展開がずっと続いた。
安達氏は被災者とボランティアら支援者の関係について、脚本で百音に語らせている。
百音の母から勉強を教わった中学3年の少女が「助けてもらってばかりで悪いから」と話すのに対し、百音は「助けられているようで、こちらも助けてもらっている。助けてばかりだったとしても、それはそれでいい世の中の方がいいんじゃないか」と返す。気仙沼にあいさつに行く恋人の菅波光太朗(坂口健太郎)に、「助けてください、といわれるのも幸せなもんですね」と言った。
母の元教え子の中学生あかりとの交流が続いたある日、勉強を教わることを、「助けてもらってばかりで悪いから」と遠慮しようとするあかりに、百音は「助けてるようで、こっちも助けてもらってるから」と話しかけた(第105回、番組公式HPから)
恋人の菅波が百音との電話で、両親への結婚の挨拶について相談。「僕ひとりで乗り切れるような案件じゃないので助けてください」と伝えられた百音は、「助けます。いや、助けてくださいと言ってもらえるのもすごく幸せなもんですね」と応じた(第106回、番組公式HPから)
助けられる方が負担を感じるという一方的な関係ではない、ことをはっきりと伝えている。震災時の不在に対する脚本家のメッセージが最後に示されるのかもしれないが、まだ見通せない。
迷走の原因は、描きたい「被災者の核心」があとづけになったからか
フジテレビドラマ「コード・ブルー ドクターヘリ緊急救命」の一場面。山下智久演じる藍沢耕作と新垣結衣演じる白石恵(番組公式HPから)
安達氏は、17年7月から放送されたフジテレビの人気ドラマ「コード・ブルー ドクターヘリ緊急救命」(シーズン3)の脚本を担当した。病院の救急医療を担う若い医師たちの群像をくっきりと描き出す、心のうちの言葉が見事だった。
それぞれが目ざす命を救うアプローチをめぐる苦悩と行動を、ひとりひとりのモノローグを通じて表現し、作品全体の共振をもたらせていた。
ところが、「おかえりモネ」では百音が就職した東京から故郷に帰ることを決意、地元の気象予報を発信することで漁業などに役立つ仕事に志を定めたものの、「心の傷」が癒えたのかはっきりしない。むしろ、女性の自立、地方への回帰という方向性が前面に出て、自家中毒状態ともいえる「震災時の不在」の克服もぼやけているように映る。
テレビ朝日ドラマ「時は立ちどまらない」の一場面(テレビ朝日発表資料から)
東日本大震災の被災地を舞台にしたドラマでは、山田太一氏が脚本を書いた14年の「時は立ちどまらない」(テレビ朝日)が記憶に残る。婚約者を亡くした娘は家も家族も無事だったが、相手の家庭からは3人も死者を出していた。避難所に身を寄せながら無事だった元婚約者一家からの支援を拒否する心情を描いた。
「絆」という言葉でくくれない姿を提示し、見る者を巻き込んで考えさせた。
「日本沈没」―初回から不都合な真実に葛藤する姿
TBSドラマ「日本沈没―希望のひと―」で、小栗旬が演じる主人公・天海啓示(番組公式HPから)
今年10月10日からTBSの日曜劇場で始まったドラマ「日本沈没―希望のひと―」は、在野の研究者が唱える関東沈没説をめぐる騒動から始まった。
田舎に生まれ野心を持ち環境省官僚として国家の中枢に駆け上がった主人公の天海啓示(小栗旬)が、否定したい不都合な真実に目を背けられない自らの明晰さとともに葛藤する姿に立ち上がりから期待を抱かせた。
「おかえりモネ」の迷走の原因は、「東北を舞台にした震災もののドラマ」から出発したため、描きたい「被災者の核心」があとづけとなったからと思えてならない。脚本を中心に批評してきたが、安達氏の責任を問うのが真意ではない。関わったスタッフ全員が番組を作り上げたのだから、問いかけは制作者総体に向けられている、と考えてもらいたい。
百音は東京のウェザーエキスパーツ社でキャリアを重ねる中で、故郷への思いも手伝い地域密着型の気象予報士を活用する企画を提案。企画は通らなかったが地方営業所スタッフの立場で気仙沼へ戻り、コミュニティFMで気象情報を伝え始めた(第97回、番組公式HPから)(川本裕司 朝日新聞記者)
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