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初音ミクは「歌手」なのか?
OPENING
BUMP of CHICKEN feat. HATSUNE MIKU <ray> 2014
このバンドは同年3月にこの曲のミュージックビデオも発表していますが、初音ミクの映像をプロジェクションしながらライヴで「共演」したのはこれが初めて。
最初は単なる「音源」として人気を博した初音ミクが、映像も含めた「リアルな存在」としてライヴ・パフォーマンスの場にも登場する流れは、この数年前から始まっていました。
たとえば2012年11月には冨田勲の『イーハトーヴ交響曲』 世界初演で、初音ミクが「ソリスト」としてオーケストラと共演。
同年12月には渋谷慶一郎による世界初のボーカロイド・オペラ「THE END」初演。
翌2013年8月にはライヴで初音ミクの「パフォーマンス」を楽しむイベント「初音ミク マジカルミライ」初開催。
そんな流れの中、バンプ・オブ・チキンとのコラボは「初音ミク」というプログラミングされた合成音声が、もはや「歌声」として完全に認知されたことを示していました。
── が、合成音声についてはまた最後に触れましょう。まずは、音楽における様々な「声」の表現について、基本から学んでいきたいと思います。
目次
1. 歌唱形態の分類
「声」と言われてまずイメージするのは、やはり「歌」でしょう。まずは様々な歌の形態を、「歌う人数」と「メロディ (旋律) の数」によって分類してみます。
● 独唱(ソロ)
1人で歌う歌です。当然 メロディも1つ。
たとえば西洋の歌芝居 = オペラの中には、「アリア」と呼ばれる部分(曲)があります。とにかく声の名人芸を聴かせまくる、ソロ歌手の見せ場です。
ここでご紹介するのは、モーツァルト作曲のファンタジー・オペラ「魔笛」(1791) の中の有名なアリア『復しゅうの心は地獄のように胸に燃え』。
夜の女王のアリア (魔笛) 復しゅうの心は地獄のように胸に燃え ルチアーナ・セッラ
歌手にとっては、楽器のように正確にハイ・トーンを歌い上げなければならない難曲として有名なアリアです。
ところで、先ほど「メロディは1つ」と言いましたが、特殊な例外もあります。
たとえば、1人で複数のメロディを歌う「喉歌(倍音唱法)」。ユーラシア大陸 中央部に広く伝わり、モンゴルでは「ホーミー」、トゥバ共和国では「ホーメイ」などと呼ばれる、伝統的な歌唱法です。
伸ばしている低い声に重なって、高音域でもファルセットのようにメロディが動いているのが、聞き取れますか?
6 methods of the khoomii(Throat Singing)
● 重唱
複数の歌い手それぞれが、別のメロディを歌います。
俗に「ハモり」と言われる、声の重なりや響きが楽しめます。また、オペラやミュージカルのように演劇的な作品の中では、登場人物が別々の旋律を重唱することで、会話のような表現も可能となります。
[Frozen] For the First Time in Forever (reprise)
● 斉唱
複数の歌い手が、同じ1つの旋律を歌います。次に挙げる「合唱」と混同されがちですが、全員で声を合わせて同じメロディを歌うのが斉唱です。
大勢の心が一つになるような高揚感を与えてくれるため、国歌や校歌、聖歌や宗教歌、応援歌など、しばしば共同体の結束を表現する場面で用いられます。
全員が同じ旋律を歌うことで、一人一人の声の「個性」は平均化され、声量や上手い下手といった個々の差は1本の太いメロディに溶け込み、強い表現力が得られます。
そんな効果を利用するためか、アイドルグループの楽曲などにも斉唱は多用されます。
もちろん、実際の演奏やアレンジの中では、これらの形態が組み合わされて楽曲の展開が作られたりもします。たとえば先ほどのSMAP『世界で一つだけの花』も、独唱パートと斉唱パートが交互に組み合わされた構成でした。
2. コール & レスポンス
1曲の流れの中で、独唱と斉唱を対比する表現です。たとえばリードボーカルがコールすると、他のメンバーがレスポンスします。
こちらは1930年代に一世を風靡したジャズ歌手、キャブ・キャロウェイのオーケストラ。0:50 ぐらいから、彼とメンバーのコール&レスポンスが始まります。
Cab Calloway - Minnie the Moocher
バンドメンバーだけでなく、観客のレスポンスを煽ることでライヴの一体感を高める場面も、しばしば見受けられます。
こちらは昭和の歌謡グループ、フィンガー5の様子。
一人のコールと、大人数のレスポンスが反復されることで、共感が熱狂となり、声だけのやりとりなのに、前回の講義に出てきた「トランス」状態に導かれていく…… 。こういった様子は、様々な状況で見受けられます。
たとえば、ホストクラブのシャンパンコール。リーダーのコールに、他のホストたちがタイミングよくレスポンスを反復することで、異様なグルーヴ感が生じています。
歌舞伎町ホストクラブ・メンズキャバクラ「メンキャバ・ラファエル」シャンパンコール
こちらはヲタ芸。アイドルコンサートの会場外で自主的に実施されている模様です。
中心の1人が、まるで宗教儀礼における司祭のように集団をリードして、熱狂的なトランス状態に導いている様子が観察できます。
ロマンティック浮かれモード(baka,ahou,crazy,son of a bitch)
男だけの均質な集団が声のチカラによって次第にトランス状態に入り込んでいく ── その様子は、以前に紹介したバリ島のケチャに、どこか通じるものがあると感じるのは、気のせいでしょうか……。
こうした様々なパフォーマンスを見るにつけ、「声」そのものが持つ圧倒的なパワーというか、オーラのようなものを感じざるをえません。
3. サウンドとしての声
ここでは、声そのものの表現力を前面に出した表現をいくつか見ていきましょう。
● アカペラ
響きから、なんとなく「カラ・オケ」みたいな日本の俗語で「アカ・ペラ」と思い込んでいた人はいませんか?
語源はイタリア語の “a capella”(ア・カペラ)。日本語に直訳すると「教会で」「聖堂で」といった意味です。
さきほど「斉唱」の説明で紹介した動画(グレゴリオ聖歌)のように、もとは教会で歌われる無伴奏歌曲を指しましたが、そこから転じて今では、無伴奏で歌われる曲なら何でも「アカペラ」と呼ばれるようです。
声だけでここまで表現できる、という例をご覧ください。
[Official Video] Perfume Medley - Pentatonix
ここでは打楽器のようなサウンドや、「ブシューッ」といった効果音まで、すべてが声だけで表現されています。
● ヒューマン・ビートボックス
この ビートボックス というテクニックは、ボイパ(ボイス・パーカッション)とも呼ばれ、声を用いて多彩なサウンドを鳴らすジャンルとして確立されています。
最近ではHIKAKINやDaichiなど、ユーチューバーとして有名なビートボクサーも多いので、見聞きしたことのある人も多いのではないでしょうか。
もとはドゥーワップのような黒人音楽から、アカペラ・コーラスの一部として発生したという説もありますが、1970年代のヒップホップのようなストリート・カルチャーの中で発生し、後で紹介するラップのようにスタイルが練り上げられてきたと考えるのが自然でしょう。
このジャンルの、日本でのパイオニアといわれるのがAFRA。次のCMは2004年の発表当時たいへん話題になり、ビートボックスが広く知られるきっかけとなりました。
フジゼロックス CM (2004)
ソロ=独唱でありながら、1人で何種類ものサウンドを同時に出す、まるでジャグリングのようなテクニック。楽器など無くても身体ひとつで演奏できる、まさにストリートに最適化した表現方法です。
ビートボックスと言っても、必ずしもドラムのように「ビート」を鳴らすだけではありません。それは、様々な可能性が試される声の実験空間とも言えます。
次の動画は女性ビートボクサー、CYBORG KAORI のパフォーマンスです。
Luciano Berio: Sequenza III by Sarah Maria Sun
ちょっ……、笑ったり叫んだり、怖いよ!
アンタ、気は確か?
と言いたくなるかもしれません。
そこまでいかなくても、この女性が即興的な思いつきで、いろんな声を披露しているように見えるかもしれません。しかし実はこれ、レッキとした芸術音楽。
1965年に、イタリアの作曲家ルチアーノ・ベリオが楽譜を書いて「作曲」した「セクエンツァⅢ」という楽曲です。
こちらがその楽譜です。
笑ったり叫んだりしてるように見えたのも、全ては楽譜に記された「曲」だったのですね。
こうした作曲ではなく、今度は本当にその場の「即興」で、様々な声を出し続ける演奏をご覧ください。巻上公一のパフォーマンスです。
Koichi Makigami at Colour out of Space 2008
多重人格的な一人演劇のようでもあり、楽器のように声を使った演奏のようでもあり、どう定義して良いかわからない世界ですが、そもそも定義など必要ないのかもしれませんね。
黙って耳を傾け、声というサウンドの無限の可能性を楽しもうではありませんか。
4. ラップ
先ほども話を出しましたが、1970年代に生まれたヒップホップは、その後の世界中のポピュラー音楽にきわめて大きな影響を与えたストリート・カルチャーです。
グラフィティ、ダンス、DJ、そしてラップといった様々な要素を持つこのカルチャーについては、語り出したらキリがないので、興味のある方は最後に挙げる参考文献で自習してくださいね。
ここではあくまでも「声を使ったパフォーマンスの一つ」として、簡単にラップを紹介しておきましょう。
それにしても、ビルボードHOT100のような海外ヒットチャートを見れば、現在のポピュラー音楽シーンにラップがどれほど大きな割合を占めているか明らかです。
こちらが先週(2021年5月2- 8日)のビルボード・シングルチャートですが……
1. The Weeknd & Ariana Grande - Save Your Tears
2. Bruno Mars, Anderson .Paak, Silk Sonic - Leave the Door Open
3. Justin Bieber - Peaches ft. Daniel Caesar, Giveon
5. Dua Lipa - Levitating Featuring DaBaby
6. Doja Cat - Kiss Me More (Official Video) ft. SZA
7. Lil Nas X - MONTERO (Call Me By Your Name)
8. Masked Wolf - Astronaut In The Ocean
10. Olivia Rodrigo - drivers license
4位から9位までの6曲、つまり過半数がラップ、あるいはラッパーをフィーチャーした作品です。アメリカでは(ということは世界的なポピュラー音楽シーンで)ラップがいかにメジャーな音楽ジャンルか、おわかりでしょう。
ここで簡単にラップの歴史を振り返ってみましょう。
ラップを含む「ヒップホップ」という音楽スタイルは、1970年代のニューヨーク、アフリカ系アメリカ人(いわゆる黒人)のコミュニティで生まれました。
メロディを歌い上げるのではなく、ただ詞を読み上げるだけでもなく、ビートに合わせて歯切れ良くグルーヴ感あふれる言葉を乗せていくラップのスタイルはこの頃、確立されました。俗にオールドスクールと呼ばれる時代です。
こちらはオールドスクールの代表曲、シュガーヒル・ギャングの「ラッパーズ・ディライト」(1979)
The Sugarhill Gang - Rapper's Delight
狭いコミュニティのローカルな音楽だったヒップホップは、1980年代以降、人種を越えて人気を得ていきます。
その象徴が、86年に Run-D.M.C. が発表して世界的ヒットとなった『ウォーク・ディス・ウェイ』。
白人ロックグループ エアロスミス の同名ヒット曲 (1975) を伴奏にしてラップを繰り広げるこのコラボ曲は、ロックとラップの融合を世界に印象づけました。
RUN DMC - Walk This Way (Video) ft. Aerosmith
初期は他愛もない詞が多かったラップですが、政治的メッセージを熱く主張する作品も増えていきます。こちらはパブリック・エナミーの『ファイト・ザ・パワー』(1988)。(和訳つきの動画で歌詞をご覧ください)
【和訳】”Fight The Power” (権力と戦え) / Public Enemy 【by メック】
ストリートを舞台にした政治集会ふうのミュージック・ビデオ。編集で挿入されている映像は、この曲がテーマソングの映画『ドゥ・ザ・ライト・シング』の一部です。
BLM運動にも表れているように、いつまでも変わらないアフリカ系アメリカ人の状況に対する苛立ちや怒りが、ラップという「強くて速くてキレのいい言葉」を生み出したことが、伝わってくるような作品です。
90年代になると、銃や麻薬にあふれた暴力的な日常を描くギャングスタ・ラップが流行します。また歌詞によるディス(罵倒)やビーフ(中傷)合戦も多発するなど、ヒップホップ界内部のトラブルも増えていきます。
こちらは2パックの『Hit 'Em Up』。曲調は甘くメロウですが、言葉はとにかく激烈。ダーティな4文字言葉の連発で、歌詞も対立する特定のラッパーを侮辱した相当ヒドい内容。曲調はメロウなんですけどねー。
2Pac - Hit 'Em Up (Dirty) (Official Video) HD
(ちなみに彼は1996年、何者かに銃撃されて25歳で死去。)
21世紀に入ってからのラップは、もはやそういったアフリカ系コミュニティというイメージから離れて、「歌唱」と何ら変わらない表現手法の一つになりました。
その結果が、ビルボードのようなヒットチャートをラップが占める現状につながっているわけですが、それでもやはり、メッセージ性の強い曲も生まれ続けています。
チャイルディッシュ・ガンビーノの『ディス・イズ・アメリカ』(2018) は、ゴスペルのような古くからの黒人音楽と、現代のラップやベース・ミュージックを混在させながら、資本主義や物質文明に縛られ、銃や暴力が身近すぎる現代のアメリカを描いています。(銃撃などの衝撃的な場面を含むのでご注意ください)
(字幕翻訳:ヲノサトル)
5. 日本語ラップ
ところで、日本のラップはいつから始まったと思いますか? 1980年代から、あちこちで「ラップ的」なサウンドは制作されていたようです。
たとえばこちらは、スネークマン・ショー『スネークマン・ショー』(1981) に収録された『咲坂と桃内のごきげんいかがワン・ツゥ・スリー』(作編曲:細野晴臣)
動画サイトのMADやマッシュアップネタとしても有名な、昭和のコミックソング、 吉幾三の『俺ら東京さ行ぐだ』。
渡米して、当時(時代的にはRun-D.M.C. がデビューした頃です)流行し始めていたアメリカのラップを聞き、これだ!と思いついたという逸話は有名です。
80年代後半から90年代前半にかけては、より本格的なラップを試みるアーティストも次々に登場します。スチャダラパー(1988-) RHYMESTER (1989-) キングギドラ (1993-) RIP SLYME (1994-)など。
そんな中、日本語のラップが、いわゆる「お茶の間」レベルで知られるようになったのは、次の曲の大ヒットがきっかけでした。
EAST END×YURIの『DA.YO.NE』(1994年8月) は、若者たちの「あるあるネタ」をラップしてミリオン・ヒットとなり、翌年末にはヒップホップ・グループ初の紅白歌合戦出場まで果たしました。
こうして定着した「J-ラップ」ですが、近年はアメリカ同様、格差が広がる日本社会の底辺や家庭環境を反映した、複雑で不穏なリリック(詞)を「地元」からリアルに発信するラッパーも増えています。たとえば、川崎の不良社会出身のBAD HOP。2020年には横浜アリーナで無観客ライヴを敢行して話題になりました。
BAD HOP - Bayside Dream feat. T-Pablow, Tiji Jojo & Benjazzy
21世紀以降も無数のラップ・アーティストが活動を続けているわけですが、現在形のMC(ラッパー)たちのスキルがどのようなものか知るには、既に放送は終了していますがこちらの番組がおすすめです。
『フリースタイルダンジョン』(2015-2020 テレビ朝日)
6. 声の加工
ともあれ、人間の声には実に様々な可能性があるものですね。 ── けれども、その程度の振り幅では飽きたらない、ド変態な人々も存在します。彼らはそれぞれ、声そのものを加工し、変調し、拡張する工夫を続けてきました。
たとえば、こちら。トーキング・モジュレーター(トーク・ボックス)と呼ばれる装置です。
Roger Troutman on The Talkbox [Video Soul - 1987]
0:34 あたりから実演が見られます。演奏しているのは、この楽器(?)のプレイヤーとして有名なロジャー・トラウトマン。
果たしてどういう原理で音を鳴らしているか?というと、これが実はおそろしくアナログ……というかフィジカルな装置なんです。
まず、シンセサイザーを手で弾いて「ポー」と鳴らします。その音をこのボックスに入れると、ボックス内のスピーカーから出た音が、接続されたチューブを通って口の中に入り、口の中で「ポー」と鳴ります。
この時、鳴らしながら唇の形や口内の容積を変えると「ピー」とか「パー」とか響きが変わるし、その状態でしゃべると「シンセの音色でしゃべる」こともできるわけです。
実際に演奏すると、なにしろ口の中で大きな音が鳴るので、めちゃめちゃうるさくて頭がガンガンします(笑)
一方、こちらの装置は、また別の原理で声を変えます。
Yellow Magic Orchestra - TECHNOPOLIS [Live] (Jun. 2, 1980) HD
YMOの『テクノポリス』(1979) 。発表当時、この「ト・キ・オ!」というヴォコーダー・ヴォイスが大変な話題となりました。
もともとは戦時中、声を無線通信するための実用的な機械でした。声の成分をいったんバラバラに分け、情報量を減らして送信し、受信側で再び組み立てて再生する仕組み。
https://www.wikiwand.com/en/Vocoder
アナログ回路では情報のロスが大きいため、完全なもとの声には戻りません。だが、そこがいい。結果的に生まれた「機械がしゃべっているような声」は音楽用のエフェクターとして重宝され、様々な楽曲で用いられています。
次の作品は、YMOに先駆けるテクノポップの元祖、クラフトワークの『ザ・ロボッツ』(1978) 。1:05ぐらいからヴォコーダーを使った歌唱を聴くことができます。
もともとは単に歌声の音程を補正するためのコンピュータ・ソフトです。歌手がハズしちゃった声のピッチを、画面を見ながらチョチョイと修正できるアプリなんですね。
https://www.autotune.mu/products/auto-tune-pro
ですが、あえて精度を荒く調整すると、音程から音程に移る時「コロッ」「ケロッ」とデジタルな不自然さを残すことができる。そこがいい!となって、わざと使うことが大流行しました。俗にいう「ケロケロ・ヴォイス」です。
ダフト・パンク『ワン・モア・タイム』(2000)
Daft Punk - One More Time (Official Video)
SEKAI NO OWARI 『RPG』(2013) では、曲の中でオートチューン声と生ヴォーカルが使い分けられ、対比されています。
ATM カーナビ
家電
最近ではスマートフォンやスマート家電など、生活のあらゆる場面で、人工音声との会話も可能になっています。
文字を入力して人工音声に読み上げさせるアプリも多数、開発されています。こうしたテクノロジーの発展によって生まれたのが、ボーカロイドでした。
● ボーカロイド
「ボーカロイド」はヤマハ社が2007年に発売した合成音声ソフトウェアの商標名です。
このソフトが画期的だったのは、システムそのものと「歌声ライブラリ」を分けたことでした。
そうしたキャラクターの中でも飛び抜けた人気を得たのが最初に紹介した「初音ミク」。社会現象と言われるほどのブームを引き起こします。
Google Chrome : Hatsune Miku (初音ミク)
ミクの声を使って作られた、初期の人気作品をいくつか挙げておきましょう。
ika_mo 『【初音ミク】みくみくにしてあげる♪【してやんよ】』(2007)
その後も無数の作品が発表され続けていますが、キリがないのでここまでにしておきます。(後期『ミュージックビデオ特集』でまた少し触れることになるでしょう)
これらの作品が投稿サイトにアップロードされ、二次創作や「歌ってみた」「踊ってみた」などが、どんどん共有・拡散されていったのは、ゼロ年代からテン年代にかけてのSNSの急速な普及と無縁ではありません。
また投稿サイトの中でもニコニコ動画が多く利用されたのは、コメントを入れたくなる仕様(俗に言う『弾幕』)や、一種のコミュニティ感が大きな理由と考えられますが ── これ以上の詳しい話は参考資料をお読みください。
ニコニコ動画における「弾幕」の例
● A.I. 歌唱
ボーカロイド以外にも歌声を合成するソフトウェアは開発されていますが(Windows向けのシェアウェア『UTAU』など)、最近は A.I.(人工知能)を用いた研究開発も進められています。
いかがでしょう。何も情報がなかったら、これが人工音声だと気づきますか? ちょっと音程が悪かったり、しゃくれたりする具合も含め、異様にリアルな歌声。
これは 名古屋工業大学国際音声言語技術研究所と(株) テクノスピーチ が2019年に発表した「AI歌声合成システム」です。( ex. 『AIによる歌声合成はここまで来た!これこそ世界に誇るべき日本の先端技術』)
● A.I. 音声
ここで最新のトピックを紹介しましょう。今年の4月に東京工業大学の2年生(!)が立ち上げたwebサービス「Coe Font STUDIO」です。文章を入力すると音声で読み上げてくれるというもの。たとえばブラウザにこう入力すると…
わずか数秒で音声ファイルが出力されます。
「不気味の谷」という言葉をご存知でしょうか。
たとえば、人間に似せたロボットを作ったとして、人間に全く似ていなければカワイイ。人間にきわめて似ていればフツーに見える。けれどもその中間、微妙に人間に似ている場合、不気味に感じてしまうといいます。
ボーカロイドの歌声って、けっこう好き嫌いが分かれるものです(この講義でも例年『ボカロの声はちょっと苦手……』というコメントをもらいます)が、それは、合成された電子音なのに人間によく似た、声における「不気味の谷」だからかもしれません。
しかしA.I.による歌声や話し声は、もはや「不気味」を越えて、人間の声と判別できない「リアル」の領域に踏み込んでいるように思えます。
まちがいなく今後も進化し続けていくであろう音声合成の世界。いやあ、目が離せませんね……。
8. おわりに
いつも通り、Google Classroomに小テストを置くので、期限までに回答してください。この講義は出席をとりませんが、小テストで平常点を採点します。
またClassroomでは随時、コメントも受け付けます。ご意見ご感想ご質問、提案、雑談その他なんでもかまいません。成績評価には関係ありませんので、気軽にどうぞ。
個別の返信はしませんが、限定公開も含めて「サトルの部屋」で紹介していきます。変名(ここではレクチャーネームと呼んでいます)希望や、公開拒否したい場合などは、明記してください。
なお前回の小テストの正解は、こちらに掲載しています。
次回配信は5月19日。またWEBでお会いしましょう!
お楽しみに!
参考文献
もっと知りたい人に
1. ブラック・ノイズ(トリーシャ・ローズ) みすず書房, 2009
文化研究者が1993年に博士論文として執筆。ヒップホップおよびラップを、社会現象として本格的に扱った初の論考。歌詞や制作プロセスといった音楽面を、アメリカと黒人の社会問題と結びつけて学術的に考察した、重い一冊。
2. 文化系のためのヒップホップ入門 (長谷川町蔵, 大和田俊之) 2011
ヒップホップを愛するライターと文学研究者がカジュアルなトーク形式で、歴史から専門用語や聴き方の提案まで、幅広いトピックを網羅。ヒップホップってちょっと怖いとか、何から聴いて良いかわからないと思ってる「文化系」の人には、最初の入り口としてオススメ。
3. ライムスター宇多丸の「ラップ史」入門 (宇多丸、高橋芳朗 ほか) NHK出版, 2018
プロのラッパーでラジオパーソナリティの宇多丸が、いとうせいこう、Zeebra、Bose(スチャダラパー)など多彩なゲストとトークしたラジオ番組の記録。なので、これまたサラッと読みやすい一冊。現場に身を置くアーティストならではの裏話、「作り手」目線の話も多く、楽しめます。
4. エレクトロ・ヴォイス ─ 変声楽器ヴォコーダー/トークボックスの文化史 デイヴ・トンプキンズ スペースシャワーネットワーク 2012
ヴォコーダー開発の秘話に始まり、その他の合成音声システムからトーキング・モジュレーターとミュージシャンの話まで、ふんだんな図版や写真で語る「もう一つの音楽史」的な本。正直、分厚さにビビりますが、「へえー」と驚かされる電子音楽がらみのウンチク満載。
5. ボーカロイド技術論 ─ 歌声合成の基礎とその仕組み ─ (剣持秀紀/藤本健) ヤマハミュージックメディア, 2014
「ボーカロイド」以前の音声合成技術に始まり、社内での開発の経緯、内部の仕組みや技術的な詳細など、かなり具体的にヤマハ社とこのソフトの「内側」が記された一冊。執筆に実際の開発プロジェクト・リーダーが加わっているため、他では読めないような裏話も読めます。
6. 初音ミクはなぜ世界を変えたのか? (柴那典) 太田出版, 2014
こちらはボーカロイドの中でも「初音ミク」にフォーカスして開発の経緯、そして「なぜ初音ミクがこれほどの人気を得たか」論考する一冊。ニコニコ動画やMADなどの著作権問題、ネットやSNSといった様々なトピックを結びつけ、開発者やボカロPへのインタビューも交えた考察から、初音ミクが音楽に限らず今の「社会」の象徴であることが浮かび上がってきます。
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