ワタミが公表している離職率は、果たして信用できるのか?
昨日3月27日、ワタミ過労死裁判の第2回口頭弁論が東京地裁で行われた。開始前、ワタミ関係者と思われるスーツ姿の方々が傍聴席の多くを占め、遺族側支援者が抗議して騒然とする場面があった(※1)。
それはともかく、渡辺美樹氏が意見陳述(こちら)において言及した「労働環境改善の対応策」(※2)(こちら)に記された離職率の数値に注目したい。というのは、これまで公表されてきた離職率の数値と、なぜか異なるからだ。
【「労働環境改善の対応策」(2014年3月27日)に記された離職率】
第2回口頭弁論とタイミングを合わせるかのように同日の3月27日にワタミ株式会社 代表取締役社長 桑原 豊の名前で発表された「労働環境改善の対応策」。その中の「5.目標指標について」では、「新入社員の過去の離職率は、以下の表のとおり業界水準並みではありますが、2014年4月入社新入社員において全産業平均でもある3年後の離職率30%以下を目標指標といたします」と、目標指標が設定されている。そこで記されている表は下記の通りだ。
このうち、「宿泊業・飲食サービス業」と「全産業平均」については、厚生労働省「新規学卒者の離職状況に関する資料一覧」(こちら)の大卒のデータに基づいており、数値に間違いはない。
気になるのは、ワタミフードサービスの3年後離職率の数値だ。渡辺氏が参院選前に言及していた数値と異なるのである。
【渡辺氏がブラック企業批判に反論する中で語っていた離職率の数値】
参議院議員選挙出馬表明後の2013年5月31日、渡辺氏は選挙に向けて開設したホームページ(こちら)のQ&Aのコーナーに「『ブラック企業』と呼ばれることについて」という文章を掲載した。
この文章は、残念ながら現在はホームページから削除されている模様だ。筆者は当時、その内容と画面を保存しておいたので、「わたなべ美樹候補【「ブラック企業」と呼ばれることについて】への疑問点」(こちら)からご覧いただきたい。
「『ブラック企業』と呼ばれることについて」は、ワタミグループが一部で「ブラック企業」と呼ばれていることに対し、事実としてのデータを示すことで反論する、という形になっている。
その中で当初、離職率については次のように記されていた。
ワタミの外食事業の離職率(平成24年4月入社社員の3年以内離職率42.8%)は、厚生労働省公表(平成23年統計、以下同じ)の宿泊業・飲食サービス業の離職率(同48.5%)を下回っています。
そもそも飲食サービス業の離職率は、全産業(同28.8%)と比べると高い水準にあります。これは深夜勤務などの事業特性による影響が大きいためであり、単純に、ほかの産業と横並びで論じることは、適切ではありません。
平成24年(=2012年)4月入社の社員は2013年5月時点ではまだ1年あまりしか経っていない。まさか1年後の離職率を「3年以内離職率」として提示し、厚生労働省の3年後離職率と比較しているわけではないだろうが・・と疑問に思った筆者は、翌6月1日にツイッター上で渡辺氏に事実関係を質問した。
そうしたところ、同日のうちに「平成24年4月入社社員の3年以内離職率42.8%」という記述は「平成22年4月入社社員の3年以内離職率42.8%」と訂正された。筆者には特に返信はなく、また、ホームページ上にも訂正した旨の表記はなかった。単なる記載ミスであったにしても、数値の訂正であれば修正した旨の表記をしていただきたかった。以下では公表された事実は「平成22年4月入社社員の3年以内離職率42.8%」だとして話を進める。
既にお気づきの通り、平成22年(=2010年)4月入社社員の離職率42.8%という数値は、上掲の表のワタミフードサービス(株)の3年後離職率52.2%と一致しない。42.8%は「ワタミの外食事業の離職率」であり、52.2%は「ワタミフードサービス(株)」の離職率である。同じ対象についての離職率であると思われるのだが、数値に10ポイント近くの違いがあるのだ。いったいどちらが正確な数値なのか?なぜこのような違いが生じるのか?別の資料も見てみよう。(※3)
【2013年6月8日の総会資料に記された離職率】
ワタミ株式会社は2013年6月8日に第27期定時株主総会を開催し、ホームページのIR情報欄で当日の説明会資料を公表している(こちら)。
その24ページにある下記の表では、外食事業の3年内離職率(2010年4月入社社員対象)は42.8%と記されている。渡辺氏が「『ブラック企業』と呼ばれることについて」の中で提示したもの(訂正後)と同じ数値だ。
【2014年1月17日の有識者委員会調査報告書に記された離職率】
2014年1月17日、ワタミ株式会社は「外部有識者による業務改革検討委員会」(以下:有識者委員会)から調査報告書を受け取り、その内容を、一部を除き公表した(こちら)。
そこには「なお、他社への転職との関係で離職率について会社に確認をしたところ、次のとおり、業界平均と同等かそれを若干下回る程度であり、特に高いという事実はないことがわかった」という文章と共に、下記の表が示されている。
この表には、平成22年(=2010年)4月入社のワタミフードサービス社員の3年後離職率は示されていない。既に渡辺氏が2013年5月31日にホームページで42.8%だと言及し、同年6月8日の総会資料にも42.8%だと記されているのだから、未公表ではないはずなのだが、掲載されていない。
ちなみに、厚生労働省発表の「宿泊業、飲食サービス業」の平成22年(=2010年)4月入社者の3年後離職率も掲載されていないが、2013年10月には既に公表されている。その数値は、冒頭の表にあるとおり、51.0%だ。
厚生労働省が把握している「宿泊業、飲食サービス業」全体の離職率の推移は、2010年4月入社者の場合、「1年後24.2%→2年後40.0%→3年後51.0%」(※4)となっている。そのような傾向と乖離してワタミフードサービスの場合には「1年後21.7%→2年後40.4%→3年後42.8%」と、2年後から3年後にかけての離職率の上昇を低く抑えることに成功しているとは考えにくい。
既に公表されている「宿泊業、飲食サービス業」の3年後離職率51.0%をあえて提示しなかったことは、もしかしたらそのような矛盾を顕在化させないためではなかったか、という疑念が生じる。
【離職率の公表データを整理してみると・・】
そして冒頭に記した2014年3月27日発表の「労働環境改善の対応策」に記された離職率のデータが、最新の公表データである。平成22年(=2010年)入社社員の3年後離職率について整合性に疑問が残るだけではなく、平成21年(=2009年)入社社員の3年後離職率についても、有識者委員会の調査報告書では47.5%となっているのに対し、その有識者委員会の指摘を踏まえて作成されたはずの「労働環境改善の対応策」では48.9%と、数値に齟齬があることにお気づきだろうか。
ここまでの公表された離職率の数値を整理すると次の通りとなる。
さて、ワタミの外食事業について、正しい3年後離職率はいったい何%なのだろうか。筆者は途方に暮れる。
【離職率のデータ開示には大賛成?】
渡辺氏に対してBLOGOS編集部が行ったインタビュー記事「わたなべ美樹氏『離職率や平均残業時間といったデータを開示することには大賛成だ』」(2013年6月6日。記事はこちら)の中で渡辺氏は、「ブラック企業」との批判に対し次のように反論していた。
ただ、「ブラック企業」ということにあえてコメントさせていただくと、何をもって「ブラック企業」なのでしょうか。仮にワタミが法律に違反しているのであれば、それはブラックでしょう。しかし、法律には違反していません。では、離職率の高さなのか。これは業界平均より高くないわけですから、ブラックではありません。では、給与が低いのか。これも平均よりも高いので、ブラックではありません。さらに、メンタルヘルス不調により休職している人間が多いのか。これも平均を下回っています。
僕は、様々な企業の数字をオープンにすることで、それこそ新入社員が入ってすぐやめてしまうような事態を防ぐことには大賛成です。例えば、先日共産党の議員が安倍首相に「離職率などの数字をについて企業はディスクローズするべき」と意見していました※1が、僕は賛成です。大賛成ですよ。
離職率などの客観的な数値をオープンにする姿勢は歓迎したい。しかし、オープンにするのであれば、信頼のできる数値を開示していただきたい。(※5)
【メディアの伝え方も慎重に】
メディアの伝え方も慎重であってほしい。BLOGOS編集部の上記の記事「わたなべ美樹氏『離職率や平均残業時間といったデータを開示することには大賛成だ』」は、ワタミ側はデータ開示に積極的で実際にデータ開示もしているのに、いわれなき批判を受けている、という印象を読者に与える。
2013年4月16日の日経ビジネスの記事「『我々の離職率は高くない』 ワタミ・桑原豊社長が、若手教育について語る」も同様だ(こちら)。「ワタミの外食事業の離職率は、ほかの外食産業の離職率と比較しても、決して突出して高いわけではありません。平均的な推移です。」「昨年度の入社1年目社員の離職率は、一昨年と比べても半減しました。」という言葉が紹介されるばかりで、具体的な離職率の数値には全く触れられていなかった。具体的な離職率の数値を聞かないままに「我々の離職率は高くない」という主張をそのままタイトルにする姿勢には強い疑問を感じる。
本来、離職率の数値はマギレのない数値であるはずだ。それが上述の通り、説明もなく一致しないのであれば、疑いをもって確認する姿勢が必要だろう。
渡辺氏は昨日の裁判に関して、被告側が傍聴席を占拠したとの指摘を事実ではないとして、フェイスブック上でこう述べている(こちら)。
被告とされると、とかくすべてを否定されてしまいます。
一方的な声にかき消され「事実」が正しく伝わらないことがあります。
何卒「事実」を正しくご理解頂ければ幸いです。
しかし、「事実」と言い立てられることがすべて「事実」とは限らない。これが「事実」だと声高に語られても、改めて事実を確認する目を失わずにいたい。
***
(※1)
朝日新聞デジタル3月27日記事には、「この日弁論があった705号法廷には、開廷時刻の1時間前から、ワタミ関係者と見られるスーツ姿の男性20人強が集まった。当初は42席ある傍聴席の半分近くを占めたが、遺族側支援者の抗議を受けて代理人同士が話し合い、一部を残して退出した」と記されている(記事はこちら)。
毎日新聞(電子版)3月27日記事も「この日、法廷ではワタミ関係者が傍聴席の最前列を埋めるように座ったため、遺族の支援者らが抗議。傍聴者が座り直すなど騒然とした雰囲気となった」と報じた(記事はこちら)。
(※2)
正式名称は「『外部有識者による業務改革検討委員会』の調査報告書を踏まえた当社の対応について」。渡辺氏が3月27日のフェイスブック(こちら)で「労働環境改善の対応策」と呼称していることから、本稿でもそれに従う。
(※3)
なお、2010年4月入社社員の離職率であれば、厚生労働省の2009年4月入社大卒入社者のデータと比較するのは時期が一致しておらず、本来、不適切である。当時は2010年4月入社大卒者の3年後離職率は厚生労働省からまだ公表されていなかった。正確を期すならば、2009年4月大卒入社者同士で比較すべきだっただろう。
(※4)
有識者委員会の調査報告書では上掲の通り厚生労働省のデータとして「1年後24.3%→2年後40.1%」という数値が示されているが、筆者が厚生労働省の公表データから計算すると「1年後24.2%→2年後40.0%→3年後51.0%」になる。
(※5)
ついでに言えば、有識者調査報告書には次の記述がある。
労働基準監督官からの是正勧告及び指導票については、平成20年4月から平成25年2月までであるが、その間に是正勧告が24件、指導票が17件発出されていた。(中略)
これらの是正勧告及び指導票については、ワタミフードサービスから労働基準監督官に対して是正報告が提出されているが、例えば労働基準法32条違反、34条違反、37条違反等の条項で全国各地の店舗で時期を異にして違反を指摘されており、法違反状態の是正が各店舗にゆだねられているのではないかと推察されることが判明した。
つまり、BLOGOSの2013年6月6日の記事で渡辺氏は「仮にワタミが法律に違反しているのであれば、それはブラックでしょう。しかし、法律には違反していません」と語っているが、実際には法違反がその時点までに上記のようにたびたび指摘されていたわけだ。