12
「殿下。私は、もう限界です……」
「……右に同じく」
カフェテリアでの騒動の一週間、私の側近であるガルファールとシリウスがぽつりと溢した。
彼らが何に限界を感じているのかは分かっている。……正直私も投げ出したい。
「シルヴィアと過ごせないだけでも耐え難いのに、彼女の視線が日に日に冷ややかなものになっていく様が本当に辛い……」
「セシリアも同じようなものだ。……それも当然といえば、当然なんだが……いつ婚約破棄を申し出られるか不安で堪らない」
「お前もか、シリウス」
「ガルファールもか」
「はぁ」と重々しい溜め息を吐く側近二人を、私は羨ましいと思ってしまった。情けないことに、アンジェリーナの場合はそれ以前の問題だったのだ。
薄々は気づいていた。私と彼女の想いに明確な差があることに、気づいてはいたのだ。
だがそれも婚姻して夫婦として長い月日を共にすれば、いつかは愛に変わるのではないかと期待していた。
……しかし、あの日明確に冷ややかな目を向けられ、「わたくしは殿下のプライベートに口を出しませんが、その代わり、わたくしのプライベートも詮索なさらないでください。お願い致しますわ」と懇願にも似た拒絶をされ、それが幻だと思い知った。
「殿下もさぞお辛いことでしょう。エーデルワイス嬢はあの日以来、精神的に参ってしまって学園にも足を運べていないとお聞きしました」
「挙げ句の果てに自分が被害者なのだと嘯くのだから、教会はとんでもない女を聖女と認定したものだ」
カフェテリアの一件も調べがついている。よくもまあ私に愛されているなどと言えたものだ。更には私がアンジェリーナを嫌っているだと? それこそあり得ない。私は初めて会ったあの日からずっと、アンジェリーナだけを愛しているというのに。
しかも、あの日以来アンジェリーナは学園に通わなくなってしまった。……私がカトリーヌを恨むことがあっても、愛すことなど有りはしない。
よっぽど参ってしまったのだとあのカフェテリアに居た貴族の子息や令嬢からは同情の言葉が上がっている。
……だが、私にはとてもそのようには思えない。普通なら大なり小なり傷つく……セシリア嬢やシルヴィア嬢のように。
……だが、アンジェリーナは違う。私に対して感情がない訳ではないだろうが、それは姉ができの悪い弟に向けるような姉弟愛のようなものだ。恋愛的なものでは断じてない。
公爵に連れられてやって来た六歳のアンジェリーナはアクアブループラチナブロンドのふんわりした髪に、ミルキーレインボートパーズの瞳をした大変愛らしい女の子だった。
同い年ながらとても堂々としていて、当時王太子としての教育に音を上げていた私を優しく慰めてくれた。
そんな彼女に釣り合えるようになるために、私は努力を重ねてきたつもりだ。
『もし他に好きな人ができたら遠慮なく仰ってくださいね。わたくしは王太子殿下の恋を全力で応援しますわ』
お茶会でアンジェリーナから告げられた言葉が今でもトラウマのように蘇ってくる。
姉を慕うような気持ちが、いつしか恋愛的な意味での愛に変わったことも、恐らく彼女は気づいていないだろう。彼女は私よりも優秀なのに、どこかぼんやりとしていて、鈍感なところがあるからな。
だから、そもそもアンジェリーナはあのようなことで心が折れる筈がないのだ。そもそも、私は恋愛対象としてすら認識されていないのだから。
寧ろ、私に好きな人ができることは彼女にとっては喜ばしいこと……いかんいかん、思考が沈みかけていた。
「やはり、アンジェリーナが学園に来ないのは、それとは別件だろうな」
「……それは、どういうことでしょうか? 殿下?」
不思議そうに二人の側近が私の方に視線を向けていた。