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【WEB版】冒険者ライセンスを剥奪されたおっさんだけど、愛娘ができたのでのんびり人生を謳歌する 作者:斧名田マニマニ

3章 緑豊かなエルフの集落フローリア編

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19話 おっさんと少女、何より大切なもの

(はぁ……。しかしまいった)


 酔いが回りはじめてくるとエルフの男たちの言葉はエスカレートした。


「ローズを嫁にしてやってくれ!」

「この集落で世帯を持てばいい。マッスルさんなら大歓迎だよ!」


 そんなふうに騒ぎ出す始末。

 俺は一生懸命彼らを諌めたものの効果はほとんどなかった。


(やれやれ。みんな酒が入ってるからな……)


 このままローズに迷惑をかけ続けるわけにはいかない。


(もうあとは退散するしかないな……)


「すまないが俺はそろそろ……」


 引き留める声が方々から上がる。

 申し訳ないと頭を下げつつ、輪の中から抜け出す。

 ルーイを見るとかなり離れた席でまだ楽しそうに飲んでいた。


(俺は先に帰っていよう)


 そう思って歩き出した時、後ろからパタパタと足音が聞こえてきた。


「待ってください……!」


 呼び止められ振り返る。

 俺の元へ駆け寄ってきたのは、なんとローズだった。


「こんなふうに抜け出してきたら余計誤解を受けるぞ……」


 困惑してそう伝えるとローズは呼吸を整えながら首を横に振った。

 腰までの長い金髪がさらさらと揺れる。


「誤解、ではありません」

「え?」

「私……私……! あなたを初めて見た瞬間、恋に落ちてしまったのです……!」

「……な……ななな、なんだってッッ……!?」


 衝撃を受けすぎて呼吸が止まりそうになった。

 だってまさかありえない。


(俺が……このおっさんの俺が! こんな言葉を伝えらえるなんて……!!!)


 焦りすぎて汗がブワッと湧き上がってきた。

 うれしいなんて思う余裕もない。


「どうか一緒に連れて行ってくれませんか? あなたとふたりで旅がしたいのです。そしていつかあなたのお嫁さんに……」


(……ん……? ふたり……?)


「俺は娘と旅をしているので3人になるが……」

「え」


 きょとんとした顔でローズがぱちくりと瞬きをする。


「む、娘……ですか……?」

「ああ」

「あ……。……そ、そうなんですね……」

「……」


 困ったように彼女が瞳を泳がせる。

 年甲斐もなく混乱してしまった一瞬前の自分を恥ずかしく感じた。


「そ、その……なんだかすまない……」

「い、いえ! 私が悪いんです……!」


 昨日も今日も俺はラビを連れて行かなかったから、一人身だと思われてしまったのだろう。

 ラビと俺が親子なのはバルザックに着くまでの間のこと。

 でもそれを彼女に伝えるのは違う気がした。


 ただ俺なんかに一瞬でも好意を抱いてくれたことは本当にありがたい。

 俺は下手くそな笑いを浮かべて頭を下げてから、彼女の元を去った。



 ルーイの家へ帰りつくと、ラビがすぐさま駆け寄ってきた。


「お、おかえりなさい……!」


 ラビの笑顔に出迎えられ、心がほわっと温かくなる。

 子供の笑顔は癒しだ。


 俺はラビの頭を撫でてから、ルーイの嫁さんに彼はまだ帰って来るのに時間がかかりそうだと伝えた。

 嫁さんは苦笑して「あの人はお酒の場が本当に好きなの。困った人でしょう?」と言った。


 ラビはニキとふたりで一日中、スキル習得の練習をしていたらしい。

 ちなみに爺さんと婆さんの姿はない。

 どこかへ出かけたのだろう。


「俺が先生になって特訓してやってたんだ!」

「ラビちゃんすごくがんばっていましたよ」

「でも、まだできないの……」


 ニキとルーイの嫁さんの言葉にたいして、ラビが恥ずかしそうに笑う。

 俺と目が合うと、目を細めてキュッと口角をあげた。


(……なんだ?)


 なんとなく違和感を覚える。

 ラビが笑うのはいつもうれしいときだった。


(だが今の笑みは……?)


 自分の不甲斐なさを感じてそれを恥ずかしく思うときに、ラビはしょんぼりと肩を落とすタイプだ。


「……」


 何か無理をしているような気がする。

 そしてそれを悟られまいと笑っているような……。


 そう思って改めてラビを見直すと、心なしいつもより頬が赤い。


(まさか……)


 俺は慌てて鑑定スキルをラビに放った。


 《全知全能の神、知識の本のページをめくり我に英知を与えたまえ――鑑定ジャッジ》


 ――――――――――――――――――

 名前:未設定

 性別:女

 種族:人間

 職業:*****

 状態:疲労・風邪

 レベル:1(NEXT10)

 HP:658

 MP:919

 ――――――――――――――――――


「ッッッ……!!!! ラビ!!! 風邪をひいてるじゃないか! しかも疲労までついて……!!!」

「え……!? めちゃくちゃ元気だったぜ!?」


 ニキが信じられないというように俺を振り返る。

 ルーイの嫁さんは俺の言葉を聞き、慌ててラビの額に手を当てた。


「まあ、本当……! 気づけるなんてさすがお父さんね……! とにかくすぐ寝かせてあげましょう」


 ルーイの嫁さんとニキも慌てはじめる。

 ラビは気まずそうに唇を尖らせて俯いてしまった。


「ニキ、あなたは薬師さんを呼んできて!」

「わかった……!」


 ルーイの嫁さんに頷き返し、ラビを抱き上げる。


(ああ……体が熱いじゃないか……)


 頭を撫でたときに気づいてやるべきだった。


 ラビを寝かせて、温かい布団でくるむ。

 ルーイの嫁さんが氷水を入れた桶と手ぬぐいを持ってきてくれたので、それをしぼってラビの額に載せてやった。


「ご、ごめんなさい……」


 小さな手で布団の端をキュッと掴んだラビが、申し訳なさそうに謝ってくる。


「気にしなくていい。とにかくゆっくりと休め」

「でも……私、迷惑ばかりかけてる……。ドラゴンのときからずっと……」


 予想外の言葉に目を見開く。

 なぜここでドラゴンの話が突然出てくるのか。


(……いや、突然じゃないのか?)


「ドラゴン?」


 できるだけ慎重に精一杯の優しい声で尋ねてみる。

 ラビは瞳を伏せて頷いた。


「私が一緒にいたいっていうから……お父さん、どこへでも連れて行ってくれるようになったけれど……そのせいでヒゲのおじさんに怒られちゃった……」

「ラビ……」

「私、何もできない足手まといだから……一緒にいたいなら迷惑かけないように……スキル覚えたかったのに……。そのせいでまた迷惑かけちゃった……。本当にごめんなさい……」

「……っ」


 言葉が役に立たない。

 ただ胸に強い想いが込み上げて来て俺はラビを抱きしめた。


 火事の夜についてこなかったのもそれが理由なのだろう。

 今日の片付けだってそうだ。

 ルーイとニキの会話で「子供にできることはない」と聞いた途端、ラビは家に残るといった。

 その結果、必死になってスキルの練習を続けて、疲労を溜め体調を崩してしまった。

 あのときはニキと一緒に遊びたくなったのかと思ったが、それも俺の勘違いだったんだな。


 何よりも大切にしてやりたいと思っているのになかなか上手くいかない。

 難しいなとつくづく感じる。


(多分、極端な行動をとったのがよくなかったんだな……)


 お互いにひとりで考えているのも間違っている。


「ラビ、おまえを俺は足手まといだなんて思っていない」


 ラビが首を横に振る。

 そうだな。

 いくら俺がそう言っても、ラビ自身が自分を許せないのだろう。


「ラビ、それならこういうのはどうだ? 今後は危険な状況になったとき、別行動をとることも視野に入れる。だが俺はひとりでは結論を出さない。ラビもそうしてくれ。ふたりで話し合って、どういう方法を取るのが一番いいか考えよう」


 ラビは迷うように潤んだ瞳を泳がせたあと、「うん……」小声で答えた。


「でもできるだけ早く足手まといじゃなくなるから……」

「わかった。だが、ほどほどにだ。あんまり心配をかけてくれるなよ」

「はい……。ごめんなさい……」


 俺は苦笑してラビの額から落ちてしまった手ぬぐいを拾った。

 それを氷水につけて、もう一度冷やす。

 抱きしめたせいで乱れてしまった布団もちゃんと直した。



 それから少しして薬師が到着した。

 やはり疲労が原因で熱を出してしまったらしい。

 煎じてもらった薬を飲ませるために、まずは何か食べさせなくてはいけない。


「ラビ、何か食べたいものはあるか? 出来る限り用意してやるから言ってみろ」

「お父さんのスープ……。お豆の入っている……」

「最初の日に食べたやつか?」

「うん……」

「わかった。すぐ作って来るから待っていろ」


 キッチンを借りて、豆と干し肉でさっそくスープを作る。

 ハーブはニキが裏の共同畑から取ってきてくれた。


「ダグラスさん、もしよかったら林檎も持って行ってあげて」


 ルーイの嫁さんはそう言って林檎をウサギの形に剥いてくれた。


「……!」


(これは……!)


 ラビが喜んでくれるかもしれない。


「お、俺にもやり方を教えてもらえないだろうか。このとおりだ。頼む」


 頭を下げると、ルーイの嫁さんは「そんなかしこまらないで」と言ってクスクス笑った。


「ダグラスさん、あなたは本当にいいお父さんね。娘の体調の変化にもいち早く気づいていたし、甲斐甲斐しく看病までして。お父さんとお母さんの役割をひとりで担うなんて、そんなことなかなかできるものではないわ」

「いや……。俺なんてまだまだ。失敗ばかりで反省の連続だ……」

「それは私たちも。子育てって難しいですね。でも何より遣り甲斐のあることだわ」

「ああ、それは俺も同意する」


 そんな会話を交わしながら、ウサギの作り方を教えてもらった。

 しかし、やはりなかなか上手くはいかない。

 片方の耳のほうが短いし、ガタガタになってしまった。


(ううむ……。これは習練が必要だな)


 俺の残念なウサギは後ろに置いて、キレイなウサギたちを前に出した。



 料理を終えてラビの元へ戻る。

 うとうとしていたラビは目を開けると「おいしそうな匂い……」と囁いてニコニコ笑った。

 頬が真っ赤だからかいつも以上に幼く見える。


 ゆっくりと体を起こしてやり、敷き詰めたクッションの上に座らせる。

 力が入らないらしく、くたりとしている。


(自分で飲ませるのは危ないな……)


 俺はスープをすくったスプーンをふうふうと冷ましてから、ラビの口元に近づけた。

 小さく開いた口にそれを流し込む。


「熱くはないか?」

「うん、とってもおいしい……」

「そうか、よかった」


 余り食欲はなさそうだが、がんばって完食してくれた。


「一応林檎もあるのだが……」


 そう言ってウサギたちを見せると、弱々しかった顔にパアッと笑みが浮かんだ。


「うさぎさんだ……」

「食べるか?」


 こくりと頷く。

 俺がきれいなウサギを取ろうとすると……。


「……そっちじゃなくて、後ろのウサギさんがいい」


 あろうことか俺のガタガタウサギをラビは希望してきた。


(……俺が作ったと気づいたんだな?)


 本当に優しい子だ。

 ラビに気を使わせないためにも、やはり林檎のウサギ作りをもっと練習しよう。

 俺は心の中でそう決意したのだった。

1/22は更新お休みします(´・ω・`)

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『幼馴染彼女のモラハラがひどいんで絶縁宣言してやった』
https://ncode.syosetu.com/n0844gb/

【あらすじ】
一個下の幼馴染で彼女の花火は、とにかくモラハラがひどい。

毎日えげつない言葉で俺を貶し、尊厳を奪い、精神的に追い詰めてきた花火。
身も心もボロボロにされた俺は、ついに彼女との絶縁を決意した。

「颯馬先輩、ほーんと使えないですよねえ。それで私の彼氏とかありえないんですけどぉ」
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俺の人生を我が物顔で支配していた花火もいなくなったし、これからは自由気ままに生きよう。

そう決意した途端、何もかも上手くいくようになり、気づけば俺は周囲の生徒から賞賛を浴びて、学園一の人気者になっていた。
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