95話 おっさんと少女、新『豚の夜鳴き亭』誕生を喜ぶ
再建工事がはじまって約一ヶ月。
雲一つない空が広がる真夏日に、新『豚の夜鳴き亭』は完成した。
「すごい、これが『豚の夜鳴き亭』だなんて……」
完成した宿を見上げて、エイハブが感動のため息を吐く。
うれし涙を浮かべている友人の横で、俺も充足感を覚えていた。
ひとつの仕事をみんなでやり遂げられた。
とにかくそれがうれしい。
最高級の木材が余すことなく使われた宿など、バルザックでは他に1軒もない。
それでいて、圧迫感があるわけではないのが不思議だ。
豪華というより、ずっしりと構えて、客を優しく出迎えてくれるような外観だった。
女性特有の繊細な感性で作られたデザインのお陰なのだろう。
きっと、ぬくもりを与えてくれるいい宿となるはずだ。
正面玄関の前に広がったポーチには、ラビ、ダイアナ、ニキが植えてくれた向日葵が咲いている。
太陽に向かって伸びたオレンジ色の花が、笑顔で客人を迎え入れてくれるとは。
これもカトリの案だったことを思い出し、さすがだなと思わされた。
「なんて素敵なの……」
「見てラビちゃん、屋根が赤色で可愛いの!」
「うん! すごく綺麗……!」
目をうるうるとさせているエイハブの妻。
その周りではラビとダイアナが手を取り合って飛び跳ねている。
「ラビもダイアナも、はしゃいじゃって子供だな。ま、でも、俺も結構役に立ったよな」
「これだけやると、達成感がありますね。人間と初めて共同作業が出来たのも、私たちにとっては大きな経験になりました。ダグラスさん、手伝わせてくれてありがとうございます」
ニキとルーイも満たされた顔で、豚の夜鳴き亭を見上げている。
「みんな、ここまで本当にありがとう」
エイハブは目に浮かんだ涙を拭って、俺たちに礼を言ってくれた。
そして最後に一歩離れたところで見守っていたカトリのもとへ向かって、彼女の手を取った。
「カトリちゃん。あんたに頼んで本当に良かった。最高の宿を作ってくれてありがとう」
「あ、えっと……き、気に入っていただけましたか……?」
カトリはどこか自信のなさそうな顔でそう尋ねた。
ただ出会った頃のように、自分の存在に対する自信のなさを感じているわけではないようだ。
精一杯やった誇りはある、それでも作り上げたもので本当に誰かを喜ばせることができたのだろうか。
きっと今彼女が感じている迷いはそういう類のものだ。
エイハブはそんなカトリの不安を、大きな声で吹き飛ばした。
「気に入ったかだって? 当然だ! あんたの建ててくれた『豚の夜鳴き亭』は世界で一番の宿だ!」
「……っ」
赤い目からぶわっと涙が湧き上がり、カトリは慌てて両手で拭った。
「わ、わ、どうした!?」
「あなたが強く手を握りすぎたんじゃないの!?」
慌てるエイハブ夫婦に向かい、カトリが笑って首を振る。
「違います!! すみません、うれしくて……」
カトリを見守りながら、俺は微笑んだ。
「これで実家の両親のもとに元気な姿を見せに行けるな」
「はい……!」
カトリの顔には、庭のひまわりにも負けない笑顔が咲き誇っていた。
「雇ってくれてありがとうございました、エイハブさん。ダグラスさん。ラビちゃん。そして皆さんが手を貸してくれたから、素敵な宿を作ることができました!」
「今度ご両親を招待してやるといい。カトリちゃんの家族ならいつでも無料で最高のおもてなしをしてやる!」
「うわーっ! 父も母もすっごく喜びます……! ぐすっ」
まだ鼻を啜っているカトリと、みんなが握手を交し合う。
そこへ新たな客人がやってきた。
あの大工たちだ。
「おーい、祝いの酒を持ってきたぞ!」
「今日完成だって聞いたからな!」
あれ以来、しょっちゅう差し入れを持ってきてくれていた彼らは、すっかり俺たちの仲間になっていた。
「よしみんな、今日は祝いだ! 久しぶりに腕を振るうから、中に入ってくれ!」
「ふふ、新築記念パーティーといきましょう! 今日は私も夫の横で、腕によりをかけて料理を振る舞いますよ!」
エイハブ夫婦の言葉に、みんなから大歓声が上がる。
楽しげにわいわいと盛り上がりながら、仲間たちが夜鳴き亭の中に入っていく。
最後尾は俺とルーイだ。
「ダグラスさん。連れてきてくださって本当にありがとうございました。今回のこと、いろいろ勉強になりました」
「こちらこそ、ルーイとニキがいてくれたお陰で本当に助かった」
「私たちも、人間に対する苦手意識が随分と変えられたような気がします。正直、私たちが他種族とうまくやれないように、彼女が差別を乗り越えることなんてできないんじゃないかと内心思っていました」
「ああ……」
それに関しては、少々複雑な思いだった。
「きっと、完全に乗り越えられたわけじゃない」
これから先も、今回のようなことが起きるかもしれない。
「でも、はっきりと言える。今回はカトリの勝ちだと」
涙を拭い、もう一度立ち上がった。
それこそが、重要なのだ。
「もしまた辛いことがあっても、一度勝ったという事実が、彼女の心を支えてくれると信じたい」
「そうですね……。道の先に待つものを恐れず、進むことに意味があるんですね。誰にとっても」
「ああ」
道は険しいかもしれない。
けれど乗り越えた先にあるものは、きっと人生において掛け替えのない希望に繋がる。
そのことを、俺はラビに教えていきたいと思った。
雨のあとも、嵐のあとも、ひまわりのように笑える強さを手に入れるために――。
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