30話 悪徳貴族、全てを失う
テイマーのエレンが、新しい家を手に入れた。
それから1週間後。
ランページ男爵は、王都から、屋敷への帰り道の途中だった。
馬車の中でひとり、苛立ちげにつぶやく。
「くそくそくそっ! なんだ!? この人生最悪の1週間は!?」
爪をかじりながら、この1週間を振り返る。
きかっけは些細な不祥事の発覚だった。
彼の経営する商会の職員と浮気していたことが、ゴシップ雑誌の記者の手によって明るみになったのだ。
そこから芋づる式に、今まで隠してきた数々の不祥事が発覚したのだ。
今までは金でもみ消したり、黙らせたりしてきた。
だが急に正義の心が芽生えたかのように、部下が男爵の悪事の数々を暴露しだしたのである。
あとは転がる岩のように、不幸が連鎖して起きた。
浮気発覚からの、妻子の離婚。
国王からの責任追及と爵位はく奪。
商会においける自分の地位も、築き上げてきた人脈も名声も、1週間ですべてを失った。
あとには、落雷によって半壊した屋敷と、手元に置いてある私財のみである。
「くそ! どうしてこんなに、すべての不都合が、最悪のタイミングで発覚するんだ! 畜生!」
運を天に見放されているとしか思えなかった。
……実際には、運ではなく精霊に嫌われているからだが。
「……仕事も人脈も信用も失った。だが……だが! ワタシは諦めないぞ!」
血走った眼で叫ぶ。
「この程度で諦めてたまるか! ワタシにはまだ、金庫の中に大量の金がある! これを元手に人生をやり直すんだ!」
失ったものは戻らない。
だが金を使えばすべて取り戻せるものだ。
「あの金庫にはワタシが稼いできた全財産が入っている。無論壊されては困るからな。ドワーフどもに大金はたいて作らせた、絶対に壊れぬ金庫がある!」
彼が作り上げた金と金庫は、男爵の精神的な支柱ともいえた。
「そう! とどのつまり金! 金さえあれば人生は何度でもやりあおせるのだぁ!」
野心の炎はメラメラと燃え上がっていた。
「まずは新しく住むところの用意だな」
新しい住居とはもちろん、エレンの住まうあの屋敷だ。
「大金をはたいて買った屋敷だ。そう簡単に手放してなるものか!」
呪いによって退去を余儀なくされた。
だが後になって、呪いが説かれたとのうわさを耳にした。
だから、あの屋敷を自分のものにしようと、戻ってきたのだった。
「そうと決まれば、あのガキを排除しなければな」
男爵は懐から、手のひらサイズの水晶玉を取り出した。
これは、離れた場所にいる相手と通話できるという魔法道具だ。
「ワタシだ。ああ、久しぶりに暗殺の依頼をしたい」
通話相手は、懇意にしている暗殺者ギルドのギルドマスターだ。
「トーカの町の呪いの館があっただろう? あそこに住んでいるガキどもを始末しろ。なに、金はある。いつも通り、後から使い物に金を届けさせる。すぐに殺せ、いいな?」
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精霊使いへの敵対行為を関知しました。
暗殺者ギルドのギルドマスターおよび構成員に対して、ペナルティを実行します。
→スキル【隠密】、および【暗殺者のスキル】を剥奪します。
→近隣の騎士にスキル【犯罪摘発率上昇】を付与します。
→暗殺者ギルドに雷の魔法を落とします。
→成功しました。
→火災発生により騒ぎを聞きつけた騎士が暗殺者たちを逮捕しました。
========
通話を終えて、男爵が邪悪な笑みを浮かべる。
「あそこの暗殺者たちは腕がいい、ワタシのお気に入りだ。今頃あのむかつくガキは始末されている頃だろう」
========
精霊使いへの敵対行為を関知しました。
ランページ男爵へのペナルティを実行します。
→土地神のスキル【震災】が発動します。
→土地神のスキル【火災】が発動します。
→土地神のスキル【台風】が発動します。
→スキル【貧乏神(-S)】を強制遠隔発動します。
→男爵の私財、および天運をすべて剥奪しました。
========
そして……。
「…………」
ランページ男爵は、自分の屋敷へと帰ってきた。
その時には、全てが終わっていた。
「……ワタシの……努力の結晶が……」
もともと住んでいた屋敷は、跡形もなく、消えていた。
周辺住民から聞き取った話によると、急な落雷からの火災、そして局所的な嵐が起きたそうだ。
風に巻き上げられ、炎は屋敷をあっという間に焼き尽くした。
金を入れていた金庫は、確かに無事ではあった。
だが運の悪いことに、今朝金庫に入って金をとってきたあと、鍵をうっかり閉め忘れたのだ。
結果、火事場泥棒に入られた。
火事によって、骨董品など売れば金になるものは、全焼。
金庫の中身は、すべて奪われた。
あとには焼け焦げた屋敷の残骸。
そしてこの大火事でも壊れることのなかった、堅牢な金庫だけだ。
膝をつき、男爵は魂が抜けたように、ゴミとなったそれらを見てつぶやく。
「……なにが、なにが……いけなかったんだよぉ……」
そのときだった。
焼け焦げた残骸の奥に、何かを見つけた。
それは光り輝く、【なにか】であった。
「あ……ああ……」
最初、男爵はそれを、金庫のなかに入っていた金貨だと思った。
金庫の中身は、別の場所に移されていたのだと……。
しかし……。
「あ……お、おまえは……」
輝いていたものは、土地神だった。
エレンの屋敷でみた、彼を守るようにして出現した、あの神だ。
「おまえが……奪っていったのか……ワタシから……なにもかも……」
その瞬間、男爵は理解した。
これは、自分に与えられた……天罰だったのだと。
天罰。
それは、人間の悪行に対して、天が悪人に下すもの。
そう、とどのつまり……。
「ワタシのせいで、全てを失ったのか……」
気づいた時には、もう遅かった。
人脈も信用も家族も、金も地位も名誉も
……男爵は失ったのだ。
全ては自業自得である。
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