第6章
81.邪神、弟たちを勇者と勘違いし敗北
転生勇者ユリウスが、ダンジョンに潜ってから数日後。
とあるダンジョンの奥地にて。
邪神【ポイズンアヌビス】。
顔は犬、体は人間。
全体的に毒々しい紫色をした邪悪なる神だ。
アヌビスは地中深くに隠れ潜み、復活の時を狙っていた。
その邪神のもとに、【4人編成】の冒険者パーティがやってきたのだ。
『よくぞこの我の居場所を突き止めた、ほめてやろう、下等生物ども』
邪神の発する言葉には、魔力が宿る。
通常なら声を聴くだけで、人間は立っていられなくなるはずだ。
『ほぅ、この邪神を前にして恐怖せぬか。なかなかではないか』
「あいにくと、化け物は見慣れてるからね」
冒険者パーティの、金髪の少年が、臆することなくアヌビスを見返す。
彼がこのパーティのリーダーであろう。
『この場所を突き止められた以上、生かしてはおけぬ。死ぬが良い、矮小なる存在よ』
アヌビスは両手を広げる。
手のひらには穴が開いてあった。
そこから毒ガスが噴出された。
ぶしゅぅううう……!
『ふっ、下等生物ごときに、万物を溶かす【呪毒】は少々大人げなかったかな……』
「は? この程度の毒で、何を得意がってるんだよ? 【
カッ!
突如として、聖なる光が邪神の住処を照らす。
あたりを漂っていた毒ガスが、一瞬にして晴れたではないか。
『なっ!? なにぃいいい!?』
毒ガスは地面をドロドロに溶かしていた。
しかし冒険者パーティたちは、無傷。
「こんなのあにうえが練習用に使った毒と比べたら、赤ちゃんみたいなもんです!」
『バカなっ!? 天使だと!? 人間の分際で、天使を従えるなんて!』
天使の少年を中心に、防御結界を張っているようだった。
確かに強力な天使の魔法なら、邪神の毒を防げるかもしれない。
だが先程の浄化の魔法、威力が桁外れだった。
『そうかわかったぞ、そこの金髪!』
ビシッ! とアヌビスが金髪少年を指さす。
『貴様……【勇者】だな!』
そうとしか思えなかった。
万物を溶かすと言える、この最強の邪神の毒を、たかが人間ごときが消せるわけがないのだ。
「みんなアホばっかです。眼科大繁盛です?」
「行くぞ! 兄さんが来るまでに……倒すんだ!」
金髪少年、天使、黒髪女、エルフの【4人】。
『勇者パーティだな、なるほど、相手にとって不足なし! こちらも全力でいかせてもらおう!』
「なんか哀れです。おまえメガネいるです?」
邪神は手をパンッ! と突き合わせる。
彼の前後左右に、巨大な棺が出現した。
棺桶からは、見上げるほどのミイラが出現。
金髪勇者たちに襲い掛かる。
「ミカエル、結界をエリーゼたちに張れ、サクラは式神の用意!」
天使ミカエルは、エルフ女エリーゼのそばに移動。
光の結界を貼る。
一方で黒髪女サクラは、懐からお札を取り出す。
「おいでませ、【
サクラの放ったお札は、空中で変形し、1匹の獣となった。
翼を生えた虎のような化け物は、少女の出した式神。
高速で飛翔した鵺は、ミイラ男の巨大な腕を、爪でたやすく引き裂く。
『なんだと!? われの使い魔は魔族と同程度の強さを持つというのに!』
「
獣は次から次へと、ミイラ男の体に食らいついては、捕食していく。
『術者だ! 式神使いの女を殺せ!』
ミイラ男たちが、いっせいに、黒髪少女たちに押し寄せる。
手を伸ばすが、光の壁に阻まれる。
ボシュゥウウウ……!
『そ、そんな馬鹿な!? 能力【死をいざなう魔手】、触れたものを即死させる強力な能力が、たかが結界に阻まれただとぉおお!?』
邪神は天使の結界を見て、目を見開く。
『即死攻撃を防ぐ防御結界なんて……通常の天使では無理、ま、まさか熾天使!? 最上級天使を勇者は従えてるというのかぁ!?』
金髪勇者は、双剣を構え、邪神に近づいてくる。
『召喚魔法で攻撃だ! いでよ、
アヌビスの足元に、巨大な魔法陣が出現する。
中から巨大な毒蛇が、無数に湧き出てきた。
『ふはは! Sランクモンスターの大軍を呼び寄せたぞ! 勝ったな!』
「ガイアス君! 準備オッケーだよ!」
「ミカエル、発動と同時に結界を解け! サクラは式神に仲間を載せて空中退避! エリーゼ、5秒後に撃て!」
勇者ガイアスの指示に従い、流れるような連携が行われる。
結界が解けたその一瞬、エリーゼは無防備になる。
だがサクラの式神がそれをカバーしつつ、女は魔法を使う。
「【
突如、大量の毒蛇の足元に、闇が広がる。
深淵から無数の、影の手が伸びてくる。
それらは毒蛇を1匹残らず捕まえると、影の中に引きずり込んでいった。
『きょ、極大魔法!? 失われし最強最古の闇魔法を! あんな小娘が! し、しかも詠唱時間が短すぎる! ありえないぃい!』
動揺するアヌビスをよそに、ガイアスが疾風のごとく肉薄する。
バッ! と飛び上がり、双剣を振り上げる。
『バカめ! 邪神の体を人間ごときの剣で切れるわけがないだろう! 返り討ちにしてやる!』
アヌビスは猛毒を、ガイアスに直接噴射する。
だが金髪勇者の瞳は微塵も揺るがず、2本の剣を振り下ろす。
ズバァアアアアンッ!
『ぬぐわぁああああああ!』
ガイアスの双剣は、邪神を十字に切り裂いた。
その剣には莫大な魔力と、そして闘気が載っている。
『こ、これはまさか、け、剣聖の奥義【虚空剣】!? 万物を切り裂く破邪の一撃だとぉおお!?』
体をバラバラにされ、アヌビスは地面に、横たわる。
『か、完璧なコンビネーション……個々の強さも恐ろしいほど。なるほど、これが勇者パーティの強さということかぁああ!』
「なんかもうギャグでやってるです、おまえ?」
首だけになっても、邪神は生きている。
だがもう瀕死だ。
『見事だ勇者よ……しかし! この邪神、ただでは死なぬ! こうなったら奥の手だ! ぬぅん!』
突如として、邪神の体を、黒い煙が包んだ。
「おー、邪神でっかくなったです」
『ぬはははははは! これぞ命と引き換えに、一度だけ巨大化できる邪神の秘術よぉおおお!』
ボス部屋の天井に頭がつくほどに大きくなったアヌビス。
邪神は両手を下に向けて、毒ガスを噴射した。
「! がいあす危ないです! 退避!」
「くっ!」
ガイアスは邪神から離れる。
ミカエルが両手を広げ、先ほどよりもレベルの高い防御魔法を使う。
ブシュウウウウウウウウウウウ!!!!
迷宮の堅い壁や床を、瞬時に溶かしていく。
ミカエルの結界も徐々に削られていく。
「くっ! なんて強力なんです!」
「ミカエル! くそっ! 結界を張っているから、こっちからじゃ攻撃できない……ボクが毒のなかを突っ込んで斬る!」
「あほ抜かせ! 死ぬ気か!」
バシッ! とサクラが頬を叩く。
「でも、このままじゃじり貧だ……」
『ぬははは! 絶望しろ勇者ぁ! 死ねぇええええい!』
アヌビスが、巨大な腕で、ミカエルの結界を殴り飛ばそうとした、そのときだった。
パシッ!
巨大化した邪神の拳を、黒髪の少年が片手で受け止める。
『なっ!? わ、われの一撃を受け止めるだと!? 何者だ貴様!?』
「え、ただの冒険者だけど?」
「ユリウス君!」「良かったぁ……」「あ、これで終わりです。お疲れさまでしたです」
「わるい、トイレ混んでてさ。転移して戻ってくるのに時間かかった」
「め、迷宮内は転移が使えないはずなのに……」
呆然とするガイアス。
「え、次元の壁切って転移すればいいんじゃないの?」
「もう訳わかんないよ!」
ユリウスと呼ばれた少年は、邪神の腕をひねり、投げ飛ばす。
『ぬぐわぁああああああ!』
どしぃいいいいいいいいん!
「あ、あの巨体を軽々と! さすがはユリウスはんやで!」
『くぅ! そんな馬鹿な!? 強化した猛毒のなか、どうして平然としていられる!?』
天使の最高結界術すら溶かす毒ガスのなかも、ユリウスはケロッとしている。
「え、これ毒だったの? 2000年前の毒使いなら、星を一瞬で溶かすほどの毒を使ってたし、毒への耐性なんて必須だったぞ?」
『そんな人外の魔境が存在するわけないだろぉおおおおお!?』
「邪神がツッコんでるです。2000年前にいなかった邪神ですねきっと」
驚愕するアヌビスに、ゆっくりとユリウスが近づいてくる。
『ひぃいい! 化け物ぉ! 来るなああ!』
ユリウスは飛び上がり、一瞬で邪神の顔面付近までいくと、拳を振る。
ドゴォオオオオオオオオオオオオオン!
少年の一撃は、毒ガスを吹き飛ばし、邪神を吹っ飛ばす。
さらにその余波でダンジョンの分厚い壁をすべて破壊。
それどころか地下に蓋をしていた巨大な山脈すらも、一瞬で消し飛ばす。
そして空を覆っていた分厚い雨雲も、文字通り雲散霧消させ、晴れやかな空を出現させた。
「「「…………」」」
まっさらな青空の下で、ガイアスたちは呆然としている。
「おー、あにうえすげーです! 何の奥義使ったんです?」
「え、ただのパンチだけど?」
仲間たちは、深々とため息をつく。
「あかん、桁が違うわ。すごすぎる」
「わたしたちも、もっともっと強くならないとね!」
「ぼくもあにうえみたいに、強くなるですー!」
一方で、ガイアスは頭を抱えて、こう叫ぶ。
「みんな目を覚まして! このままじゃ全員化け物になるからぁああああ!」
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え、テイマーは使えないってパーティから追放したよね?~実は世界唯一の【精霊使い】だと判明した途端に手のひらを返されても遅い。精霊の王女様にめちゃくちゃ溺愛されながら、僕はマイペースに最強を目指すので