COVID-19関連追加(2020年5月18日)
PCR偽陰性の時期,医療従事者へのPCR拡大スクリーニング検査,出産を控えた妊婦へのPCR拡大スクリーニング検査,介護施設入居者における感染拡大,4編の報告.PCR検査の適応を考えるうえで重要な論文と考える.
【PCR偽陰性の時期についての報告】
Kucirka LM, et al. Variation in False-Negative Rate of Reverse Transcriptase Polymerase Chain Reaction-Based SARS-CoV-2 Tests by Time Since Exposure. Annals of Internal Medicine. May 13, 2020.
https://doi.org/10.7326/M20-1495.
<Objective>
感染後の日数によるRT-PCR検査の偽陰性率を調査する.
<Design>
文献検討とpooled analysis.
<Setting>
7つの主要文献から得た上気道検体(1330検体)データを用いて,SARS-CoV-2曝露あるいは症状出現からの時間経過によるRT-PCR検査の結果を検討する.
<Measurements>
階層ベイズモデリングを用いて,SARS-CoV-2曝露あるいは症状出現からの時間経過によるRT-PCR検査の偽陰性率を算出する.
<Results>
Figure 1:各報告におけるRT-PCR検査の感度と発症からの日数の関係.左:鼻咽頭,中央:口腔咽頭,右:上気道(部位は不明).
発症日をday 5とする.発症4日前(day 1)における偽陰性率は100%(95% CI, 100% to 100%),発症1日前(day 4)はmedian 67%(95% CI, 27% to 94%)であった.発症日(day 5)はmedian 38%(95% CI, 18% to 65%),発症3日後(day 8)はmedian 20%(95% CI, 12% to 30%)であった.そして発症4日後(day 9)はmedian 21%(95% CI, 13% to 31%),発症16日後(day 21)はmedian 66%(95% CI, 54% to 77%)であった.
<Discussion>
潜伏期間がmedian 5日とすると,偽陰性=1-感度なので,SARS-CoV-2曝露直後の感度は0%,すなわち曝露直後のRT-PCR検査はほとんど意味がないことになる.発症1日前でも感度33%.よってRT-PCR検査陰性で感染を除外することは感染性のある患者を見逃すリスクになる.
<Limitation>
結果ベースの各研究のデザインの不均一性による不正確な推定であること.
<Conclusion>
RT-PCR検査の結果をもって感染対策の警戒を解く際は,特に感染早期のRT-PCR検査の解釈には注意が必要である.もし医師が強く感染を疑った場合は,RT-PCR検査のみでCOVID-19を除外するべきではない.
【ロンドンの病院に勤務している無症状医療従事者に対するPCRスクリーニング】
Treibel TA, et al. COVID-19: PCR screening of asymptomatic healthcare workers at London hospital. Lancet. May 7, 2020.
https://doi.org/10.1016/s0140-6736(20)31100-4.
COVIDsortium(NCT04318314)というstudy.無症状医療従事者(HCWs:医師,看護師,コメディカル,管理者など)400人に対して2020年3月23日から毎週,計5回,鼻腔スワブでSARS-CoV-2 PCR検査を行なった.ロンドンでは3月30日が感染者のピークであった.1週目は28/396 HCWs(7.1%; 95% CI, 4.9-10.0),2週目は14/284(4.9%; 95% CI, 3.0-8.1),3週目は4/263(1.5%; 0.6-3.8),4週目は4/267(1.5%; 0.6-3.8),5週目は3/267(1.1%; 0.4-3.2)であった(Figure).7人は2回連続で陽性,1人は3回連続で陽性だった.50人は症状があり(必ずしもPCR陽性ではない),自己隔離した.PCR陽性であった44人のうち12人(27%)は陽性が判明した検査前後の週で無症状であった.HCWsの陽性率はロンドン全体の陽性率の傾向と一致した.この結果は無症状HCWsの感染は院内曝露よりもコミュニティにおける感染曝露の可能性を示唆する.そして,流行期間中はHCWsに対してmulti-timepoint surveillanceを行うことが重要と考えられる.
【出産するために入院した女性に対するSARS-CoV-2拡大スクリーニング検査について】
Sutton D, et al. Universal Screening for SARS-CoV-2 in Women Admitted for Delivery. New Engl J Med. April 13, 2020. doi: 10.1056/NEJMc2009316.
ニューヨーク市のColumbia University Irving Medical Centerからの報告.我々は,入院時は無症状であったが出産後にSARS-CoV-2 PCR検査が陽性になった2例を経験したため,2020年3月22日~4月4日までに新生児を出産した女性215人にPCRスクリーニング検査を行った.
4人(1.9%)は発熱やCOVID-19を疑う症状がありPCR陽性であった(Figure).211人は,入院時は無症状であり,210人(99.5%)にPCRを行い,29人(13.7%)がPCR陽性であった.結果としてSARS-CoV-2が陽性であった33人中29人(87.9%)は,入院時は無症状であったことになる.入院時は無症状であったPCR陽性29人のうち3人(10%)は出産後の退院前に発熱が出現した(median length of stay, 2days).入院時PCRは陰性であった1人は産後に発症し,初回検査の3日後に繰り返して行ったPCR検査で陽性が判明した.ニューヨーク市におけるパンデミック時の出産したPCR陽性妊婦の多くは無症状であった.有病率の低い地域においてはこの罹患率を当てはめることはできないが,無症状妊婦のあいだのCOVID-19リスクを過小評価している可能性があると考えられた.
【スキルドナーシングファシリティにおける前症状SARS-CoV-2感染伝播】
Arons MM, et al. Presymptomatic SARS-CoV-2 Infections and Transmission in a Skilled Nursing Facility. New Engl J Med. April 24, 2020. doi: 10.1056/NEJMoa2008457.
<METHODS>
施設入所者に対して,鼻咽頭あるいは口腔咽頭スワブによるRT-PCR,ウイルス培養,シーケンスを用いて1週間間隔で2回の連続したpoint-prevalence surveyを行った(Figure 1).14日前からの症状を記録した.無症状陽性者は7日後に再評価した.SARS-CoV-2感染入所者は,典型的症状(発熱,咳,あるいは息切れ)を有する有症状者,非典型的症状を有する有症状者,前症状者,無症状者にカテゴライズした.
Figure 1:
<RESULTS>
この施設においてはじめての感染者が認められた23日後,89人のうち57人(64%)がSARS-CoV-2陽性になった.入所者76人がpoint-prevalence surveyに参加し,48例(63%)が陽性だった.この48人のうち27人(56%)は検査の時点では無症状であった;24人はmedian 4日で症状を認めた(前症状感染者).この前症状者24人から得たRT-PCRのCt値はmedian 23.1であり,“生きたウイルス”は17人に認められた(Figure 1,Figure 2).4月3日時点で,57人の感染が認められ,11人は入院した(ICUは3例).そして15人は死亡した(死亡率26%).入所者34人の検体はシーケンスされ,27人(79%)は1つのヌクレオチドの違いをもって2つのクラスターに一致した.
最初のpoint-prevalence surveyの時点ではフルタイムスタッフ138人のうち11人(8%)がSARS-CoV-2陽性だった.3月26日までにスタッフ138人のうち55人(40%)に症状を認め,51人(38%)は検査を行い,26人(19%)が陽性になった.陽性スタッフ26人のうち,看護師は17人,その他の業種者は9例(therapists,environmental services,dietary services)であった.入院を要したスタッフはいなかった.
Figure 2:
Figure 3:
<CONCLUSIONS>
このスキルドナーシングファシリティでは急速かつ広範にSARS-CoV-2感染が広がった.SARS-CoV-2陽性であった入所者の半数以上は検査の時点で無症状であり,このことが感染拡大に寄与した.この施設における有症状入所者のみの厳格な感染コントロールストラテジーは十分に感染拡大を防ぐことができなかった.