第十六話:世界最強の暗殺者、レベル5と対峙する【七】
ステラとの決闘を軽く流したルインは、十五分ほど特別派遣魔法小隊からの業務連絡を受けた後、ロンドマルスの食堂へ足を運んだ。
手早く日替わり定食を注文した彼は、食堂の端――最も目立たない席に着く。
「――いただきます」
胸の前で両手を合わせ、食前の挨拶をすると、
「――相席、いいかしら?」
前方からそんな声が掛かった。
声の主はステラ=ノーブルバース。
つい先ほど、一戦を交えたばかりの相手だ。
「すまない。遠慮してくれると助かる」
ルインはそう言って、付け合わせの味噌汁をすすった。
「残念、遠慮しないわ」
ステラは「べーっ」と舌を小さく出し、そのままルインの対面の座席に腰を降ろし、料理の載せられたトレーをゆっくりと机に置く。
(かつ丼・うどん・菓子パン・スパゲッティ・蒸かした芋……凄まじいな)
十五歳の――年頃の少女がとる昼食にしては、あまりに過大なカロリーだ。
そのうえ栄養がかなり炭水化物に偏ってしまっている。
「ステラ、それは一人で食べるのか?」
「そうよ。悪い?」
「別に悪くはないが……太るぞ?」
「う、うるさいわね! あなたには関係ないでしょ!」
彼女は顔を赤くしながら、菓子パンをパクパクと頬張った。
「それで、いったいなんのようだ?」
「悪いけど、ルインのこと監視させてもらうわ」
アイリスに引き続き、二人目の監視宣言。
さすがのルインも、これには顔を
「一応、理由を聞いてもいいか?」
「……悔しいけど……。今の私じゃ、天地がひっくり返ってもあなたには勝てない。だから、弱点を見つけるの。そしていつの日か必ず、リベンジを果たすわ!」
「勘弁してくれ」
「いーや! 私を辱めた責任は、しっかりと取ってもらうんだから!」
ステラはそう言って、蒸かした芋にかぶりつく。
「さっきも言っていたが……。その『辱めた』とかいうのは、いったいなんのことなんだ?」
「はむはむ、んぐ……ふぅ……っ」
彼女は芋をごくりと呑み込み、乾燥した口内を水で潤した。
口の端に芋の欠片がついているが、本人に気付いている様子はない。
「――いいわ。そんなに知りたいのなら、特別に教えてあげる」
「いや、別にそこまで知りたいわけじゃない。今回は遠慮しておこう」
「ちょ、ちょっと……普通、ここで遠慮する!? 今のはどう考えても、話を聞く流れだったでしょ!」
盛大な肩透かしを食らった彼女は、ガバッと身を乗り出し、抗議の声を上げる。
「わかったわかった。それじゃよろしく頼む」
「むぅ、なんか釈然としないわ……」
彼女はちょっとした敗北感を覚えつつも、ゴホンと咳払いをした。
「――全ての始まりはそう、今から一か月前のことよ」
それからステラは、自分がどれだけ悔しい思いをしたか、どれほどの恥辱を味わったか、身振り手振りを加えて懇切丁寧に説明した。
「――なるほど、事情はよくわかった。つまりは、『逆恨み』というやつだな?」
「う、ぐ……っ。と、とにかく! 当分の間、あなたの行動は逐一監視されているものと思ってちょうだい! いいわね!?」
図星を突かれたステラは、一方的にそう宣言し、今度は勢いよくかつ丼を食べ始めた。
「もう好きにしてくれ」
入学早々、二人の女生徒から監視されるのは、気分的にいいものではないが……。
なんと言っても、ルインは超一流の暗殺者。
素人の監視が一つや二つ増えたところで、さしたる問題もない。
その後、ルインとステラが黙々とお昼ごはんを食べていると、
「……ねぇ、ちょっと……」
ステラはキョロキョロと周囲を見回し、ルインの袖口をクイクイと引っ張った。
「どうした?」
「もしかしたら、気のせいかもしれないんだけど……。なんか私たち、注目されてない?」
「そうだな。大方、カップルにでも見られているんだろう」
「かぷっ!?」
ステラは思わずバッと立ち上がり、あちらこちらに目を向けた。
「どうした、顔が赤いぞ」
「か、かかか、カップルって、私とあなたが!?」
「他に誰がいるんだ?」
ルインはいつも通りのテンションで、ほどよく冷えたお茶に口をつけるのだった。
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