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悪役令嬢は引き籠りたい~転生したら修羅場が多い~ 作者:フロクor藤森フクロウ
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悪意の襲撃2

 攻防編。

 ちょっとジュリアスの役得ターン。でも命がけ。



 ――『レナリア』



 悍ましいけれど哀切や懇願すら感じる叫び。

 カチリ、と私の中で符合した。

 お父様は言っていた。この魔物のような異形は、相当魔力の高い人間を素体にしている。そして、該当しそうな人物に心当たりがあった。恐らく、その魔力の多い素体の正体はカイン・ドルイット。

 そして、その裏でそれを糸を引くのはレナリア・ダチェス。

 推測だが、あの少女は同じく転生者。それをはっきりと断定する材料は彼女の迂闊な証言くらい。でも、本来の『レナリア・ダチェス』から離れすぎた人物像。あの不可解な言動や、やたら目の敵にされるアルベルティーナ。ほぼ確定だろう。

彼女は、今更すぎる破綻したルートを無理やり修正しようとしているのだろうか。

 ここまで来てしまったら私を殺しても、彼女の罪状は消えない。

 いえ、寧ろ重くなる。今の私は無辜の令嬢。血筋と家柄だけは立派な、ポンコツですわ。

 しかもその血筋と瞳の色に妙なプレミアがついています。

 王家と元老会はわたくしになんとしてでも王家の瞳をもつベビーを産ませたいらしいですわ。本当に気持ち悪い。あの、わたくし四大公爵家のうち二つにかなり縁深い高貴な立場ですわ。しかもお父様は娘LOVEガチ勢です。普通に怒ります。

常識を求めるのは陛下以外には無理なのでしょうか。

 元老会もですが、レナリアもかなり危険人物ですわ。

 レナリアである人物は何を求めて、何のためにここまで悪辣を極めるのでしょうか。

 ルーカス殿下やレオルド殿下とは離れてしまったでしょうけれど、カインやグレアムはレナリアを慕っていたはずです。フィンドールは教員として仕事に戻っていることをジブリールからそれとなく聞きました……

 あくまでゲーム内の知識ですがカインは依存気味とはいえ、拙く幼い愛情を精一杯向けてくるキャラクターです。呪いに苦しみながらも、レナリアを懸命に愛します。

 彼のルートでなくても良き友人としてあるはずです。

 そんな彼をこのように惨い姿で捨てるようなことをしてまで、レナリアは何を求めているのでしょうか。

 この惨状は……カインのバッドエンドの解呪失敗に似ています。

 カインルートがグッドエンドやトゥルーエンドであれば解呪が成功し、同じくらいの年齢の少年とも青年ともいえる若者になるのです。子供ではないのです。

 ですが、失敗すると呪いに飲まれ、ライバルキャラに陥れられて魔法を暴走させられてしまうのです。

 前世の私は初期バージョンやりこみ型であり、ファンディスクやバージョンアップや追加ルートは知らないのですが……中には化け物のような姿にされてしまうものもありました。

 えっと……治すには確かかなり高品質の特別な聖水による解呪、もしくは生命活動の停止――要するに殺すこと。我が国には聖者や聖女といった、解呪に優れた人間はいません。

 怪我や普通の呪いや状態異常くらいなら治せる聖職者はいますが、カインの保持する魔力量はキシュタリアにも負けず劣らず規格外の物。それに伴い呪いも強力です。

 メギル風邪対策の、魔力を散らしたり抑えたり薬を服用させれば、一時的にもカインの魔力は落ちるはず。そうすれば呪いの弱体化も可能かしら?


「アルベルティーナ様」


「は、はい!」


 私が色々考えていたことに気づいたのか、私を抱き上げ見下ろした状態のジュリアスが目を冷ややかに眇めた。

あ、あうう……これはお説教?


「アレをどうにかしようなどとは思わないでください。そんな温い状況ではありません」


「あ……でも、あの魔物の様なものも元は人間なのでしょう? 言葉を使っていましたわ!」


「だから何だというのです? 呪いは精神を蝕むものも珍しくありません! 素人が手を出したら火傷じゃ済まないのですよ」


「で、ですが……っ! 成功すれば他の方の治療にも使えるのでは……っ?」


「狙われているのは貴女ですよ! 俺や周りを見殺しにしてでも、自分を優先させなさい!」


「いやです!」


「即答するな、このポンコツ!」


 舌打ちもばっちりしましたわね! このエリート従僕!

 わたくしイズ! お嬢様! 主人! 公爵令嬢! 何故そんなに辛辣ですか!

 そういっている間にも飛んできた瓦礫を避け、触手の様なものをナイフで絶つ。わたくしを罵りながらも器用に立ち回るジュリアスです。

 あ、あの? 今更ですが戦場帰りのお父様や、騎士の位があり護衛の意味もあったミカエリスが武器を持っているのは解ります。どうしてジュリアスまでも武器を? いえ、深く考えるのは止めましょう!

 大剣振り回しているフォルトゥナ公爵も同じく騎士団長というくらいだから、護衛の任務もあったのでしょう。ですが、あの怪力に負けたのかぼっきり折れました……あれ? ちょっと溶けてる? もしかしてあの魔物は酸攻撃みたいなものをするのですか!?

 ですが、熊公爵あわてず騒がず、壁に掛けていた巨大な斧を無理やり剥ぎ取りました。壁がごっそり壁紙ごと一帯の壁画が抉れてなくなりました。どういう腕力ですの……?

 わたくしをしつこく狙う魔物。熊公爵が戦斧を振りかざしてドッカンと一発ブチ当てて、漸く遠のきました。

 タコよりも軟体っぽいのですが、あれはなんなのでしょうか。


「わたくし、防御力には自信がありますわ!」


「黙れ。すっこんでろ。この戦闘ど素人」


 手伝いますとジュリアスの襟元を引っ張りますが即却下。

 そこまではっきり言わなくてもというくらい、語呂よく、取りつく島もなくバッサリと却下。

 なんかレオルド殿下の視線がドン引き気味にジュリアスを見ているような? あら、いやですわ。盗み聞きなんて、はしたなくてよ。


「緊急事態ですのよ!」


「そんなことは分かっています、あのグレイル様が貴女を俺に預けるくらいには」


「……何がおかしいの? 貴女はわたくしの従僕でしょう?」


 ずっと今までも一緒だったじゃない。

 キシュタリアが学園に行っている間はあちらに赴いている時間が多かったけれど、もともとはわたくしの従僕でしてよ?

 頭にクエスチョンマークを乱舞させていそうな私に、ジュリアスは白けた視線を向けてきた。

 だから! わたくしは貴方より目上ですのよ!? なんでそんな残念なモノを見る目で見るのですか!? いえ、これは小馬鹿にしているというより……もはや、憐れんでいるような……?


「これでも公爵様にかなり嫌われているという自負はあります」


「えっ?!」


「アルベル様が私を気に入ってなかったら、即刻首と胴体が離れている程度には嫌われている自信がありますよ」


「お父様、そこまで極端じゃありません……わ?」


「いいえ、やります。というより、セバス様にも『死ねばいいのに』という視線で見られている自覚はあります」


「セバスに何をしたの? セバスはとっても優しいおじいちゃまよ?」


「貴女にとっての優しいおじいちゃま執事は、孫愛とお嬢様愛を相当拗らせています。

 その手の輩はラティッチェ公爵邸に探せば探すほど湧いて出てきます。よぅーっく覚えておいてください」


 呆れを隠そうともせず、ため息をつくジュリアス。

 あの優しいセバスがそんなこと? ジュリアスが無意味に嘘をつくとは思いませんが、あの優しいイケボの執事が? 年甲斐もなく寝ぼけて絵本の朗読を強請るお馬鹿娘にも寛容に鷹揚に、受け入れてくれるセバスおじいちゃまですわよ? むしろお父様に振り回されて心労が多い不憫な家宰だと思いますわ。

 だが、次の瞬間には横に飛んだ。そして私たちのいた場所に魔法弾のようなものが飛んできて、派手に床が抉れた。

 埃を巻き上げた爆風が飛んできて、小さく咳き込むとジュリアスが顔色を変えた。


「……無駄口が過ぎました。お怪我は?」


「けほっ、ちょっと咳き込んだだけですわ。問題ありません」


「場合によっては、窓から脱出します。入り口の扉も、玉座側の通路もまだ空きそうにありませんので」


 ちら、と豪華なステンドグラスになっている巨大なガラス窓を見る。

 あの……わたくし知っていますわ。離宮の本で読みましたが、謁見の間のステンドグラスは数千年前の古代遺跡から発掘した喪われた高度文明時代に作られたものを運び出して張り合わせたもの。特殊な光の反射による輝きと特殊な変色、耐衝撃、耐魔法などという今の技術では再現しきれない、それはそれは稀少価値の高いものです。


「大丈夫ですよ、アルベルお嬢様。怪我などするへまはしません」


「ですが、物理攻撃耐性もあり、魔法攻撃耐性もある特殊ガラスをどうやって割りますの?」


 床も壁も柱もカインとの戦闘でだいぶ被害を受けていますが、あのガラスはいまだに無傷ですわ。

 すっとジュリアスの顔が厳しくなった。


「あのガラス、普通ではないですね?」


「古代遺跡の遺物と書物に記載がありまし……」


 ドォンと爆音がして騎士の一人がガラスに叩きつけられたが、壊れるどころか日々一つなくピカピカのステンドグラスが輝いております。

 普通のガラスなら木っ端微塵ですわよね……?


「なるほど、腐っても謁見の間。美麗なだけでなく外敵の強襲の防犯もあるんですね。

 最悪あの人ごみに突っ込みます。我慢なさってくださいね」


「あの、ジュリアス? ずっとわたくしを抱き上げていては腕が疲れるのでは?」


「むしろ役得です。相変わらず無駄にお育ちがよろしいようで」


「嫌味ですの!? わたくしの身長などここ一年伸びなくほとんど止まっていますわ!」


 おのれーっ! 男子というものはすくすく育ちやがりまして!

 どこが育ちましたか! どこがー!?

 見下ろすジュリアスの表情の涼しいこと。一層腹が立ちますわ。

 ジュリアスはこんな危機的状況で、すぐそばで熾烈な戦闘が起こっているにもかかわらず、私の言葉にちゃんと返してくれる。

 そして、困ったことに慣れた人間がいるとこんな状況でも気が大きくなるのか、私はピーチクパーチク無駄に抵抗をしてしまいます。

 役に立ちたい。足手まといだと冷静な頭は言うのですが、ここまでご迷惑をおかけしてしまった私にも取り得はあります。家柄、血筋、容姿――そして、この結界魔法。

 防御に掛けては、お父様にも引けを取らない自信があります。

 ……言い過ぎかしら?

 でも、血族継承でかなりレアな魔法なのです。王位継承権が絡むほど。

 心配なのです。

 本来のキミコイストーリーだと、お父様はアルベルティーナの処刑に対して何も出てきませんでした。それは遠方にいっていたのか、それとも連座で責任を取らされてしまったのか――はたまた、死んでしまったのか。

 今更、こんなに破綻した状態で原作補正とかふざけたものが?

 胸がざわつき、思わず抑える。

 アルベルティーナとして転生を果たし、お父様に誘拐から救い出され、ちょっと重めなほどに溺愛され続けてきた。

 剣も魔法も仕事もできて、公爵であり政治家で、元帥で――一番わたくしを愛してくれた父親。

 ずっとわたくしを守ってくださったお父様は、今もわたくしの為に戦っている。

 この力を、今使わずにどこで使えというのか。


「うわああああ!」


 悲鳴が上がる。

 恐ろしい姿となり、力を振るうカイン・ドルイットの馴れの果て。

 天井が崩落する――咄嗟に魔法を発動して瓦礫を防いだ。

 皆が驚いたような顔をして王と私を見比べ、その結界を張ったのが私だと理解すると驚愕に目を見張る。


「おお……っ、なんということだ! 素晴らしい、一瞬でこれ程の精度の結界を展開するとは! 離宮でのお力は知っていましたが、まさに王家の魔力!」


 狂気染みた笑みを浮かべ、こんな状況だというのにわたくしににじり寄ってくる老害。こほん、老人。

やたら豪奢なローブや貴金属を纏っていますけど骨と皮ばかりでミイラっぽい。

 魔法に集中したいのに近寄ってくるので、思わずジュリアスにしがみつく。ジュリアスは無言で豪奢なミイラを見下ろす。その視線は凄く冷たい。


「危ない! 議会長殿! おっと~」


 どことなく地味でモブ顔のおじさまが豪華なミイラローブを踏みつけた。見事につんのめったミイラは謁見の段差を踏み外して転がっていった。

 ミイラはそのまま壊れた柱に頭をぶつけてもんどりうった後、さらに転んで気絶した。

 それを一瞥したモブおじさまは、人のよさそうな顔で振り返る。

 ぱちんと音が鳴りそうなほど軽快なウィンクを飛ばされる。あ、ちょっとジュリアスがイラっとした気配が……


「ややあっ! ナンテコトダァ、いやあ足場が悪くて仕方がないねぇ! ラティッチェご令嬢、御無事ですかな?」


「は、はい……」


「お気遣いありがとうございます、フリングス公爵様。お嬢様も何分気が動転しておられるようで……かわりに恐れながら、代わりにお礼を申し上げます」


「うんうん、お願いだから結界はまだ保ってほしいかな?

 どうやら、先に逃げた馬鹿があの魔物が追いかけてきたら困るって数少ない出入り口を壊したらしいんだよねー。いやー。アッハハハ……基本サンディス王城は籠城向けの作りなんだよ? 出るのも入るのも。

 なにしてくれてんのかなー? 本当、日和ってないでさっさと始末しとけばよかった」


 モブおじさまは、四大公爵家のご当主様のようです。

 なんだか後半は一気に早口になって眼が据わって死んでいった。

 もしかして、意外と怖い人? どちらかといえば、一見気弱そうというか……無害そうな人なのですが。

 ジュリアスは相変わらずしれっとした顔をしている。

 心強くてよ、ジュリアス。わたくし自分のポンコツぶりには自信がありますの。政治的やり取りや貴族的駆け引きは全く自信がなくってよ。

 ジュリアスの首にしっかりしがみついているわたくしを、一見人畜無害なにこりとした、だが食えない笑みで見るフリングス公爵。

 私が小さく「ぴぇ…っ」というと、細く静かにひっそりとした溜息をついたジュリアス。眼鏡の奥の瞳をしんなりと細めると、まるで凍てついたように温度も感情も消え失せさせてフリングス公爵を見る。唇の薄い笑みを湛えているが、寧ろ機嫌が悪そうです。

 それを見たフリングス公爵はやれやれと軽く肩をすくめて下がってくださった。



 読んでいただきありがとうございました。


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