トランプが書き殴った「手書きメモ」は、こうして激写された

米議会においてトランプ大統領の「ウクライナ疑惑」に関する弾劾公聴会が開かれ、そこでの内容について大統領自らが反論した手書きのメモが撮影された。マーカーによって大きな字で書き殴られた文章は、大統領自身がその瞬間に自覚していたより多くのことを物語っている。そんな歴史的な1枚は、いかに撮影されたのか。

Trump

MARK WILSON/GETTY IMAGES

それはシンプルな写真だった。マーカーで書き殴った、すべて大文字の“叫び”で埋まったメモ帳のクローズアップ。それはドナルド・トランプの手書きメモであり、事実に反論する内容だった。

この写真が公表されると、すぐにトランプ大統領の弾劾手続きを最も象徴する1枚になった。この瞬間を捉えたゲッティイメージズのフォトグラファーのマーク・ウィルソンは、写真を撮った経緯について『WIRED』US版に答えた。

はっきりと見えた黒い文字列

ウィルソンはゲッティの仕事を20年ほど続けている。その間、彼はビル・クリントンやジョージ・W・ブッシュ、バラク・オバマといった歴代大統領を撮影し、現在はトランプを追っている。最近はトランプの側近だったロジャー・ストーンの裁判に出向き、陸軍中佐のアレクサンダー・ヴィンドマンや外交顧問のジェニファー・ウィリアムズによる議会での弾劾証言にも居合わせた。

そんなウィルソンは11月19日(米国時間)、ホワイトハウス南側の芝生にいた。そこでトランプが、大統領専用ヘリコプター「マリーンワン」で飛び立つ前に短いコメントを出したのだ。

「いつもなら記者会見にいる多くの記者が議会の弾劾聴聞会を取材していたので、このときは雰囲気が少し違っていました」と、ウィルソンは振り返る。「それでも、大統領の背後は記者やフォトグラファーたちでごった返しており、誰もがスペースを求めて押し合いへし合いしていました」

ウィルソンはキヤノンのデジタル一眼レフカメラ「EOS-1D X」と、100–400mmのレンズと24–35mmレンズを持ってきていた。望遠レンズは、万が一トランプがメディアにまったく話さないと決め、待機しているヘリコプターへまっすぐ向かったときのものだった。幸運なことに、大統領は立ち止まった。

President Trump

MARK WILSON/GETTY IMAGES

大統領の話が始まったが、特に注目すべき内容ではなかった。トランプは経済について、いつも通りのテーマを話した。しかし、そこから会見の状況が変わった。大統領がメモを読み始めて腕を振ったため、黒い文字列がはっきりと見えたのだ。

「わたしはすぐ、マーカーで手書きした大きな文字がメモ帳にあることに気付き、カメラのフォーカスを合わせてそのページにあるものを撮ろうとしました」とウィルソンは言う。

ページにあったのはトランプが主張する内容だった。米国の駐欧州連合(EU)大使のゴードン・ソンドランドが9月の電話で語ったとされる内容を置き換えたもののように見えた。

「わたしは何もいらない。わたしは何もいらない。見返りは求めない。正しいことをするようにゼレンスキー(ZELLINSKY:原文ママ)に伝えろ。これはアメリカ大統領からの最後の言葉だ」

多くを物語っていた大きな文字

その内容は、大統領自身がその瞬間に自覚していたよりも、トランプの発言やソンドランドの証言について多くを物語っていた。

大使はウクライナが「見返り」の対象だったと、議会ではっきりと述べている。「アメリカ大統領からの最後の言葉」は、民主的に選ばれたリーダーの発言というよりも、偉大で権力もあるオズの魔法使いの宣言のようにも聞こえる。

そしてウクライナ大統領であるウォロディミル・ゼレンスキー(Zelensky)のスペルの間違いは、最も基本的な事実に対してすら無関心かつ無頓着であることを示している。大きな文字は、トランプがメガネを切実に必要としているにもかかわらず、それを拒んでいるという有力な仮説を裏付けるものだ。

President Trump

MARK WILSON/GETTY IMAGES

ウィルソンの写真がなければ、これらの補足的な知見が公に知られることはなかっただろう。「わたしはいつも、誰も撮らないような写真を撮ろうと思っています。わたしたちはニュースの視聴者として、記者会見で毎日同じような絵を見せられがちです。ときとして自分の専門スキルを使って、とてもユニークでほかとは違う写真を撮れる状況が生まれます」

この写真を撮影したとき、ウィルソンは象徴となるような瞬間をとらえたという自覚はなかった。「正直なところ、わたしはメモ帳の1ページを撮っただけです」

だが、ゲッティは写真をすぐさまツイートし、多く人もそれにならった。そして彼の電話には突然、彼の写真が拡散されていることを知らせる友人や仕事仲間からの通知が殺到し始めたのだ。

歴史に残る1枚

記者会見のあと、電話は以前の状態に戻った。Getty Imagesのサイトにあるウィルソンのページを確認してみると、彼の直近のアップロードが見られる。その写真のタイトルは「米国議事堂の前に秋の色」だ。ワシントンD.C.の中心部以外で見られるような田園風景で、内側の憎悪とは裏腹に、秋の静けさが議事堂のドームを強調している。

「わたしのフォトグラファーとしての役割は、現政権の取材においてはこれまで以上にそうなのですが、数百年後の未来に人々が振り返る歴史的な記録を提供する務めや義務だと思います」と、ウィルソンは言う。

撮影時には思いもよらなかったかもしれないが、メモ帳のシンプルなクローズアップは、そんな歴史に残る1枚になるだろう。いまというときやこの大統領について、これ以上明確に説明した写真を思いつくのは難しい。

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アストンマーティン初のSUV「DBX」は、ニッチからの脱却という使命を帯びている

アストンマーティンが初のSUV「DBX」を発表した。ポルシェが「カイエン」や「マカン」といったSUVで成功したのと同じ手法によって、高級スポーツカーブランドであるアストンマーティンは顧客層を拡大できるのか。いかにも高級ブランドらしい高額オプションが満載のこのモデルは、そんなニッチからの脱却という使命を帯びている。

TEXT BY ALEX DAVIES

WIRED(US)

Aston Martin

PHOTOGRAPH BY ASTON MARTIN

映画『007 私を愛したスパイ』のオープニングで、ジェームズ・ボンドは散々な目に遭う。真っ黄色のスキーウェアを着せられて、主題歌はディスコ風にアレンジされ、そしてソ連の暗殺者に銃撃される。しかし、これだけの情けない思いをしながらも、温かい部屋でひと晩を過ごしたおかげで、冷たいスキーブーツを履いてゲレンデを滑降することだけは免れている。

アストンマーティン初のSUVである「DBX」でアルプスに行けば、やはり冷たいブーツを履かなくてもいい。基本価格が18万9,000ドル(約2,040万円)するこのクルマは数々の豪華オプションを装着できるのだが、そのひとつである「スノー・パック」には、ルーフに装着するスキーラックとタイヤチェーン、そしてブーツウォーマーが含まれているからだ。

歴史の積み重ねがあるアストンマーティンのような自動車メーカーが、21世紀に生き残るために変身を遂げようとしている──。そう思えば、きっとブーツだけでなく心まで温かくなるだろう。

ニッチからの脱却

アストンマーティンの歴史を振り返ってみると、売れた時期と売れなかった時期の差が激しい。だが、ここ数年を見ると大いに売れている。創業106年のこの自動車メーカーは、2015年には3億ドル強を売り上げた。そのおかげで複数の新型モデルを開発することができたのだ。

新モデルのなかでアストンマーティンにとって最も重要な意味をもつのが、ロサンジェルスオートショーで11月19日(米国時間)の夜に発表されたDBXだ。アストンマーティンは長らく小規模なニッチメーカーの位置づけだったが、DBXはそこからの脱却と売り上げの上昇に加えて、うまくいけば利益率を向上させることも期待されている。

これはポルシェが「カイエン」や「マカン」といったSUVで成功したのと同じ手法だ。ランボルギーニ、ロールスロイス、ベントレーなど、アストンマーティンと肩を並べる高級車メーカーが軒並みSUVをつくっているのも、ひとつの要因ではあるだろう。そしてアストンマーティンにとっては幸いなことに、同社のデザイナーとエンジニアの能力はスポーツカーやGTカーだけでは終わらなかった。

想像通りの豪華さ

2020年後半に納車予定のDBXは、車高が5.5フィート(約168cm)あり、トランクに向けてなだらかに傾斜するルーフをもつ。このルーフ形状は、高級SUVにありがちな塊感を軽減するうえで役立っている。

DBXは、「DB11」や「ヴァンテージ」と同じ4リッターのV8ツインターボエンジンを搭載し、542馬力、516ポンドフィート(約700Nm)のパワーとトルクを生み出す。時速0-60マイル(同約97km)の加速は4.3秒、最高速は時速181マイル(同約291km)だ。この圧倒的なパワーを、9速ATを介して絞り出す。最高経営責任者(CEO)のアンディー・パーマーは、アストンマーティンのスポーツカーにはマニュアルトランスミッションが必須だと口にしてきたが、今回はATのみとなっている。

Aston Martin

PHOTOGRAPH BY ASTON MARTIN

タイトコーナーでボディのロールを抑えるアンチロールバーは、電子制御システムになっている。DB11と同等のレヴェルまでクルマのロールを抑えるが、悪路での走行に対応するために車輪の可動域を広くとってある。このため穴だらけの道を走っても、ある程度は快適な乗り心地が確保できる。

DBXのインテリアは想像通りに豪華だ。レザーに高級ウッド、そしてあらゆるところに反射を抑えたサテンクロームがあしらってある。出力800Wのハーマンカードンのサウンドシステムには、14のスピーカーと10.25インチのセンタースクリーンが組み合わせてある。これなら大型のスマートフォンやタブレットで大音量を鳴らすことに慣れたユーザーも満足させることができるだろう。

高額なオプションも多種多様

DBXを本気で楽しむつもりなら、オプションへの出費を惜しんではならない。スノー・パックに食指が動かなければ、アストンマーティンが提案する「ライフスタイル・アクセサリー・パック」はどうだろうか。さまざまな高級な趣味に対応するように組まれたパッケージだ。

3万3,700ドル(約364万円)する「イヴェント・パック」はリアバンパーに組み込まれた折りたたみ式のベンチと組み立て式のピクニックバスケットを含んでおり、英国の変わりやすい天気を考慮して傘の収納スペースまで用意されている。また、3万1,375ドル(約340万円)の「フィールド・スポーツ・パック」には、アルミニウム製の組み込み式銃キャビネットまで付いてくる。

これらのオプションが高すぎるということなら、1,825ドル(約20万円)の「エッセンシャルズ・パック」も選べる。センターコンソールの収納スペースに加えて、後部座席に座る子どもたち用のタブレットホルダーが付いてくる。

犬を飼うのもある意味では高級な趣味と言える。3,400ドル(約37万円)の「ペット・パック」は、犬が前の座席に飛び出して来ないようにするためのパーティション、犬の爪でクルマの塗装に傷がつかないようにするバンパープロテクター、そして犬の毛並みをいつでも清潔に保てるように、バッテリー式のポータブルウォッシャーまで用意されている。

DBXにとっての真の試練は、来年に訪れることになるだろう。販売実績を上げるために、アストンマーティンは顧客ベースの拡大と多様化が求められる。アストンマーティンはDBXにより、ここ数十年で初めてSUVという新たな分野に進出することになる。変革にはいつでも失敗のリスクが付きまとうが、同社は怖じ気づいてはいない。アストンマーティンを駆るジェームズ・ボンドが、決して怖じ気づかないように。

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