機械が「におい」を覚える日がやってくる? グーグルのAI研究チームが取り組むプロジェクトの価値

グーグルの人工知能AI)研究チームである「Google Brain」が、分子の構造を基ににおいを推測させようと、機械学習アルゴリズムにトレーニングを続けている。研究が進めば、色のような指標が存在しない嗅覚の分野において、カラーホイールの香りヴァージョンがついに完成するかもしれない。

Close-Up Of A Dogs Nose

ESTHER KOK/EYEEM/GETTY IMAGES

グーグルには自社ブランドの香水がある。社内のある研究チームのオリジナル香水と呼んだほうがいいかもしれない。熟練のフランス人調香師たちの指導を受けて、ヴァニラ、ジャスミン、メロン、ストロベリーを組み合わせてつくった香りだ。

「出来は悪くありませんでしたよ」と、グーグルのアレックス・ウィルチコは言う。彼はこの香水の小瓶を自宅のキッチンに置いているという。

いまのところ、この香りの販売は予定されていない。だがグーグルは、またひとつわたしたちの暮らしにかかわる新たな分野に鼻を突っ込もうとしている。においの研究だ。

グーグルの人工知能AI)研究チームである「Google Brain」は10月24日、査読前論文の掲載サイト「arXiv」でひとつの論文を発表した。分子の構造を基にそのにおいを推測させようと、機械学習アルゴリズムに施したトレーニングの過程を記した論文だ。

世界のほとんどの場所を見せてくれる「Google マップ」と比べれば、さほど役には立たないかもしれない。だが、嗅覚の分野で長いこと解決されずにいる数々の難題に、この技術が答えを出してくれるかもしれないのだ。

においには目安がない

嗅覚の研究は、ほかの多くの分野に後れをとっている。例えば、光については何世紀も前から解明が進んでいる。17世紀には、すでにアイザック・ニュートンがプリズムを使った実験によって、太陽の白色光が誰もが知る赤、オレンジ、黄、緑、青、藍、紫の7色に分かれることを証明している。

その後の研究によって、わたしたちが色の違いとして認識しているのは、実際には波長の違いであることも明らかになった。色相を円環状に並べたカラーホイールを見ると、それぞれの波長の関係性や、波長の長い赤や黄が波長の短い青や紫へと移り変わる様子がよくわかる。しかし、においにはそんなふうに目安となるものがない。

波長が光の基本要素だとすると、香りを構成しているのは分子ということになる。分子はわたしたちの鼻の中に入り込んで感覚器官に作用する。すると脳内の「嗅球」と呼ばれる小さい部分に信号が送られるのだ。

わたしたちは、たちまちピンとくる。「うーん、ポップコーンのいい匂い!」。波長を見るだけで、それがどんな色に見えるかを言い当てる科学者たちも、分子を見てにおいを当てることはできない。

実際のところ、分子のにおいをその化学構造から推測するのは、非常に困難であることがわかっている。原子をひとつ、結合部分を1カ所、変えたり切り取ったりしただけで、「バラの香りが腐った卵の臭いに変わってしまいます」と、このプロジェクトのリーダーを務めるウィルチコは言う。

グラフニューラルネットワークを応用

機械学習を利用して、ニンニクのようなにおいの分子と、ジャスミンに似せた香りの分子のそれぞれの構造の違いを突き止めようとする試みが、かつて行われている。15年に研究者たちが立ち上げた「DREAM嗅覚予測チャレンジ」と称するプロジェクトだ。

研究者たちは、まずクラウドソーシングを通じて数百人の協力者に香りの特徴を記述してもらい、そのデータを使ってさまざまな機械学習のアルゴリズムをテストした。トレーニングによって機械に分子の構造からにおいを予測させることが可能かどうか調べたのだ。

AIを使ってデータ処理を実施し、においをうまく予測できた研究チームがほかにいくつかあった。しかし、ウィルチコのチームが選んだのは別の方法だった。グラフニューラルネットワーク(GNN)と呼ばれる手法を用いたのだ。

機械学習のアルゴリズムでは、ほとんどの場合に情報を長方形のグリッドに入力する必要がある。しかし、すべての情報がこの形式に適しているとは限らない。これに対してGNNを使えば、グラフからデータを読みとることができるのだ。グラフというのは、例えばソーシャルメディアサイトの友人間ネットワークや、学会誌から引用した学術論文に関する情報ネットワークの図表といったものである。

この手法は、ソーシャルメディア上で次に誰と誰が友だちになるかを予測するために使われたりする。ウィルチコのチームがGNNでさまざまな分子の構造を分析した結果、例えばある分子では窒素原子が炭素原子から原子5つぶん離れた位置に並んでいることがわかった。

他のモデルに劣らぬ正確さ

グーグルの研究チームは、熟練の嗅覚をもつ調香師たちから5,000個に及ぶ分子を取り寄せ、それら一つひとつを慎重に「ウッディ調」「ジャスミンの香り」「甘い香り」といった記述と組み合わせてペアをつくった。そのうちの3分の2ほどを使ってGNNにトレーニングを施したあと、残りの分子の香りをGNNが当てられるかテストしてみた。その結果は良好だった。

実際、初回のテストでGNNはほかの研究グループが考案したモデルに劣らぬ正確さを見せた。ウィルチコは、自分たちのモデルに改良を加えればさらによい結果が得られるだろうと語っている。「これで嗅覚分野の研究は大きく前進したと思います」と、彼は言う。

ほかの機械学習ツールと同様、グーグルのGNNの精度はデータの質に左右されてしまう。それでも、これまでどちらかというと貧弱だったにおいのデータベースに数千もの分子のサンプルを追加できたという意味で、このプロジェクトには大きな価値がある。

このデータベースが「既存のアルゴリズムと今後のほかのアルゴリズムの改良を支える土台を築くだろう」と、コールド・スプリング・ハーバー研究所の研究員であるアレクセイ・クラコフは語る。機械学習モデルから人間の聴覚に関する何らかの学びが得られるかどうかは定かでないと、彼は指摘する。ニューラルネットワークの構造が、人間の嗅覚器官とは違うからだ。

カラーホイールの香りヴァージョンが完成する?

AIがにおいをどう理解するかと、わたしたちがにおいをどう感じるかは、まったく別の問題だ。鍛えられた嗅覚をもつ専門家でさえ、構造を見る限り別々のにおいを放つはずのふたつの分子を、「どちらもウッディな香りだ」とか「どちらも土っぽいにおいだ」と評することがある。「このことは大いなる警告として受けとめなければなりません」と、ウィルチコは言う。

彼はまた、GNNに重大な弱点があることも認めている。同じ原子と結合様式をもちながら配列が左右対称な、キラル(対掌性)ペアと呼ばれる2種類の分子を見わけることができないのだ。配列が逆であれば、両者のにおいは根本的に異なる。キャラウェイとスペアミントがその一例だが、GNNはこのふたつを同じ香りと判定してしまうだろう。

「われわれのデータベースにもキラルペアが何組か含まれています。それらの香りを正しく判別することは、おそらくできないでしょう」とウィルチコは言う。この問題の解決策を見つけることが次の一歩になるはずだ。

またこの研究では、ミックスしたり組み合わせたりした香りについての言及がほとんどない。香りを混ぜ合わせた場合、一つひとつの分子の香りの感じ方は人によって大きく異なるはずだ。しかし、分子のにおい方にどんな特性やパターンがあるのかを解明できれば、嗅覚分野の研究は大きく前進するだろう。

「実現できれば、ものすごい快挙だと思います」と、モネル化学感覚研究所でにおいの研究に従事するヨハネス・ライセルトは言う。どの分子同士が似通っていて、どの分子同士に関連性があるのかを詳細に示す、カラーホイールの香りヴァージョンがついに完成するのかもしれない。グーグルのプロジェクトは始まったばかりだが、「確かな一歩を踏み出した」とライセルトは評価している。

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Beatsのオンイヤー型ヘッドフォン「Solo Pro」は、優れたノイズキャンセリング機能を搭載してやってきた

アップル傘下の「Beats by Dr. Dre」が、オンイヤー型ヘッドフォンの新モデル「Beats Solo Pro」を発売した。最大の特徴は、同ブランドのオンイヤー型として初めてアダプティヴノイズキャンセリング機能を搭載したことだ。

TEXT BY BOONE ASHWORTH
TRANSLATION BY YUMI MURAMATSU

WIRED(US)

New Beats Solo Pro Headphones

PHOTOGRAPH BY BEATS

アップル傘下の「Beats by Dr. Dre」が、同社初のアダプティヴノイズキャンセリング対応オンイヤー型ヘッドフォン「Beats Solo Pro」を発売した。一見すると先行製品の「Beats Solo3 Wireless」と非常に似ているが、ノイズキャンセリングが大きな特徴となっている。

それだけでなく、Solo Proではほかの機能も強化されている。より装着感がよくなったイヤーパッド、バッテリー持続時間の向上、そしてアップル製のカスタムチップ「H1」の搭載などだ。

Beatsの13年の歴史のなかで、ヘッドフォンは大きな発展を遂げてきた。正直なところ、第1世代のSoloはあまりよい製品とは言えなかった。しかしSolo Proは、デザインが改善されたプレミアム製品になっている。

理由のひとつは、ヘッドバンド部分がやぼったいプラスティックから、アルマイト処理された頑丈なアルミニウムに代わったことだ。10月に実施された説明会では、Beatsの担当者がヘッドフォンのイヤーカップ部分を両手に片方ずつ持ってきつくねじって見せた。まるで世界中で最も湿ったタオルを乱暴に絞ろうとしているかのようだった。それでもヘッドフォンは壊れなかったのだ。

Solo Proの重量は9.42オンス(267g)。先行製品であるSolo 3の7.58オンス(215g)から、わずかに重くなっている。素材をより強力にするということは、ヘッドフォン自体が分厚くなるということでもある。

ただし、ヘッドバンドの周囲にはたくさんのクッションがあり、頭頂部の圧点1カ所で重さに耐えるのではなく、頭蓋骨全体に重量を分散させる。デモ中にヘッドフォンを着用できた短時間では、このヘッドフォンはとても快適だった。厚みが増したことははっきりと感じとれるものの、きっと慣れてしまうものなのだろう。

困難を乗り越えてのノイズキャンセリング搭載

大きなセールスポイントはもちろん、ノイズキャンセリング機能だ。Beatsにとって、これが初めてのノイズキャンセリングヘッドフォンというわけではない。オーヴァーイヤー型ヘッドフォンである「Studio」シリーズには、長らくノイズキャンセリング機能が搭載されてきた。

しかし、Soloシリーズのようなオンイヤー型ヘッドフォンにこの機能を追加することは、非常に難しかった。主な問題は、オンイヤー型につきものの漏れだ。ヘッドフォンのパッドが耳の上に直に乗っていると、メガネのフレームや髪の毛、さらには耳の形状によってだけでもパッドがずれてしまう。耳とパッドが密閉されなくなると外部の音が入ってきて、ノイズキャンセリング機能全体が損なわれてしまうのだ。

New Beats Solo Pro Headphones

PHOTOGRAPH BY BEATS

ノイズキャンセリング機能は、飛行機のエンジン音という特定の音を聞こえなくするために開発された技術で、音波を反転することで機能する。騒音を遮断するためにマイクで周辺の音を拾い、合成した音波を騒音の上に重ねて耳に流す。この音は環境音の音波パターンと正反対の音なので、騒音が消され、聞こえるのはほとんど無音という素晴らしい状態になる。このため渋滞にはまっていたり、地下鉄やおしゃべりでとてもうるさいオフィスにいたりするときでも、その場の状況に適応する。

BeatsはSolo Pro用に、ノイズキャンセリングのための3つのアプローチをとった。ひとつは、外部マイクを使用して環境音を取り込み、外部の騒音をすべて分離する環境モード。ふたつ目は、外部の音が実際にどれだけ耳に届いているのかを識別するノイズリーク機能。オンイヤー型のデザインは耳を密閉するには不完全な場合があるため、この機能に応じて周波数を調節する。

最後に、このヘッドフォンは聴いている音を分析して、音楽(またはポッドキャスト)における特定の周波数がブロックされないようにする。Beatsによると、こうした計算は1秒間に最大5万回実行され、常に装着具合と周辺環境を監視しながら変化しているという。

外部音にも指向性

Solo Proは「Transparency」モードも備えている。これはノイズキャンセリングと正反対の機能で、マイクによって外部の音を取り込み、聴いている音に重ねる。つまり、通りを歩いたり空港にいたりしながら音楽を聴きたいときに、クルマの流れを見失わず、搭乗案内を聞き逃さないための機能だ。

この機能でマイクが拾う音には指向性があるので、空間的な認知力を失わない。ほかの一部のヘッドフォンの同様のモードでは方向感覚が失われることを考えると、これは便利な機能である(サイレンの音が聞こえるたびにくるくる回ってどこから聞こえてくるのか判別するというのは、まったく面白くない話だ)。

Beatsによると、ノイズキャンセリング機能またはTransparencyモード使用時のバッテリー持続時間は22時間で、こうした機能をオフにすると40時間使用できる。また、先行製品のSolo 3と同様に「Fast Fuel」機能を搭載しており、高速充電が可能だ。10分間の充電で3時間の再生が可能だという。

Solo Proに内蔵された「H1」チップは、バッテリー持続時間の向上とBluetooth接続の管理に役立っている。そしてもちろん、すべての新しいアップルのヘッドフォンと同様に、Solo ProではiOS 13.1のオーディオ共有機能を利用できる。

Solo Proの価格は300ドル(日本では税抜29,800円)だ。旧型のSolo 3と同価格だったが、この新モデルにはノイズキャンセリング機能が加わっている。

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