1-13
――初めてのセックスは、期待していたほど気持ちよくはなかった。挿入はぜんぜんスムーズにできないし、むしろ、ほんのり痛い。
だが、気分は悪くない。
涙の出るような快感が身を包みはしないが、感情は昂り続ける。眼下で微かに悶える丸子の姿が、たしかに大人の女性への変貌を遂げつつあるその身体が、花見の心を昂らせる。
性器への外的刺激でなく、視覚から得られる情報、丸子と繋がっているというこの状況こそが、一歩ずつ、花見を高みへと誘う。
それは、ともすれば、丸子の首を落とす断頭台。
そのことに、よもや気がついていないわけではなかった。
理性に反し、身体は動く。少しずつ、正しい腰の動かし方を理解してゆく。
そして、自分が思っていたより遥かに早く、ゴールの瞬間は近付いてきていた。「期待していたほど気持ちよくない」が聞いて呆れるほど、花見の臨界点は浅くて近かった。
そのことを手に取るように察しているかのように、丸子は、花見の下でふっと笑った。
「ひどいね。ずいぶんあっさりと、私のことを殺しちゃうんだ」
「……黙れ」
「黙らないわよ。これが、私の最期の言葉かもしれないんだから」
「いや、そういうことにはならないだろ」
絶頂の際でも、二人はいつものようにくだらない掛け合いを交わした。
「嫌味を、言うなよ」
花見が、極めて真剣な顔つきをして語る。
「俺は、お前を殺すためにこうしているわけじゃない。これから先もずっとずっと、お前を生かすために、中に出すんだ」
やけに馬鹿馬鹿しいフレーズを、丸子もまた、真剣な面持ちで聞いていた。
「死ぬなよ。丸子」
「……それは、あなたの精液に訊いてみて」
「自殺なんて、するなよ。せっかく……せっかく、楽しくなってきたんじゃないか。お前がいないと、俺、いやだ。父さんの虐待に耐えられないのなら、俺が、絶対に殺してあげるから。約束、するから」
思考の末に出た言葉ではなかった。咄嗟に口を衝いて出る。どうしても、丸子の死を止めたかった。
花見は、祈った。
うっかり果ててしまわぬように。己の精液が丸子を殺してしまうかもしれないということを、強く、強く、意識する。そして、もう一度、
「死なないでよ、丸子」
と繰り返した。
「いいえ、私は死ぬの。あなたに、殺されるの。それが望み。もう、こんな腐った世界で生きていく気は毛頭ないの。一人が嫌なら、あなたも後を追っておいで」
すっ、と両手を花見の首に回した。
「お願い。私を死なせて、花見。あと一歩、死ぬ勇気がないの」
ぞわりと、首の後ろに寒気が走った。
それが、花見の射精の合図であった。
「花見。一足先に、地獄で待ってるわ」
「やばい!」
咄嗟に性器を引き抜こうとした花見の腰に手を回して、丸子がほくそ笑んだ。
それは、長く、深く。花見の射精が、永遠のように続いた。
圧倒的な充足感と、幸福感。
しばし浸ってみたのち、すぐに花見は、やばいと思った。理屈ではない。単に悪いイメージが先行しているだけなのかもしれないが、少なくとも花見は、丸子の妊娠を確信していた。間違いなく、丸子は、死ぬ。己の射精が、丸子を殺す。
そして、その感覚は丸子も共有していた。己の妊娠を確信して、ようやく死を迎えられることにほっと安堵する。
うつ伏せに並んだ二人が、お互いに顔だけを向ける。
「ありがとう、花見」
「馬鹿。まだ、決めつけるなよ」
「ううん、確信してる。これで、花見は人殺しだね」
「……せいぜい、自殺
「自殺幇助は、人殺しだよ」
「いや、まあ、うん……、それは解釈の違いだけど」
花見がそう言うと、一拍置いたのち、示し合わせたかのように二人は笑った。なにやら無性におかしくて仕方がなかった。いつまでも、いつまでも、二人は笑った。
そしてやっとのことで落ち着くと、最後に花見は、潤んだ瞳でまた
「死なないで。丸子」
丸子は、見たこともないような優しげな表情で、小さく首を横に振った。
数週間が、経った。
宣言通り、卒業式を待たずして丸子は消えた。花見の説得にも最後まで折れることなく、本当にあっけなく、いなくなった。たった一言の、別れの挨拶もなく。
丸子が学校からいなくなった日の朝、花見の下駄箱にはコンビニのビニール袋が潜ませてあった。中には、妊娠検査薬の空き箱。そして箱の中には、鍵。
「私がいなくなって、屋上に入れなくなったら困るでしょ?」
そんな憎まれ口が、どこからともなく漂ってきたような気がした。
花見は屋上に上がると、ぼんやり福岡の方角を見上げた。
向こうの空に丸子の顔を思い浮かべて、花見は、泣いた。雄叫びのように、泣いた。
花見倫像が、その生涯で初めて味わう、惜しまれる別れであった。
第2話へつづく
第1話、了。
ここまでお付き合いいただきありがとうございました。
ぜひ、2話以降もお付き合いいただけましたら幸いです。
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