シンセサイザー4号機

2005年05月08日更新

シンセサイザー4号機の写真

[6号機に鍵盤を譲り引退した4号機 ]


<怒涛の全音ポリフォニック>

 1982年、WAVE KITによる3号機(アナログ・シンセサイザー)の組立てに成功し、これでしばらくの間遊んでいました。ここで私はシンセサイザーの何たるかを学びました。

 しかし、しばらくして3号機に対してある不満が高まってきました。それは「和音が演奏できない」ことです。3号機はモノフォニック・シンセサイザーなので当然単音しか出せません。しかし実際の演奏では和音が出せないことは演奏する上ではかなりの制約となります。また3号機は操作性という点でも問題を持っていました。パラメータが多く「何でもできる」けど、ライブでは「そこまではいらない」のです。膨大なパラメータはかえって操作性を低下させてしまいます。

 1983年、山崎製作所は和音が出せるシンセサイザーへの取り組みを開始しました。とは言っても市販品ですらポリフォニック・シンセサイザーはまだ種類が少なく、まともな物は非常に高価な時代です。参考になる資料もなくすぐに行き詰まりました。分かったことは「発音数分のシンセサイザーのユニットが必要で、温度変化に非常に敏感かつ不安定な各回路を全てベストな状態に保つのは神業的なテクニックが必要」ということでした。高価なシンセサイザーになると必要な時にスイッチ一発で全ての回路を校正するキャリブレーション機能を持っていましたが、安価なシンセサイザーではそのような機能ありませんでした。ポリフォニックでVCOをVCOで変調するクロス・モジュレーションやレゾナンスを一杯に上げて発振させたVCFで音階を演奏するといった「大技」は大変難しく、安価なシンセサイザーではほとんど無理だったようです。

 3号機の場合も温度変化に敏感で、2つのVCOの調子をそろえることでさえ大変なことでした。例えばVCOは与えるコントロール電圧に対してオフセットとスパンの2つの調整を行わなければなりません。この苦労が複数台分必要かと思うと気が遠くなってしまいそうです。もちろんキャリブレーション機能など予想もつきません。

 こんなとき雑誌に電子オルガンの制作記事が掲載されました。1、2号機のような単音のオモチャではなく、全音ポリフォニックで発音可能で倍音構成も変えられるという本格的なものでした。また1つの基準周波数を分周して各音階を発生する発音方法なので、無調整ですぐに動きそうです。ポリフォニック・シンセサイザー開発への足掛かりとしてこのオルガンを作ってみるのも悪くはないと思いました。最初はシンセサイザ-の開発を目指しているのに、「オルガン」を作るということには多少抵抗がありましたが、後に述べるようにシンセサイザーへグレート・アップする方法を見い出したので、それに期待して開発に取りかかりました。

 1984年、4号機に改造を施して3号機と接続し、3号機のVCF, VCA, EGを使ういわゆる「パラフォニック・シンセサイザー」に進化しました。この方式はKORG Δ(デルタ)やMono/Poly,POLY-800などで採用されている方式で、VCOの発振部は発音数分あるが、VCF, VCAなど後に続く回路は1系統で構成し、ローコストで和音演奏可能なシンセサイザーを実現する方法です。ただしVCF以降が1系統なので発音中に次の音を発音させると再びEGにトリガが入り、既に出音中の音も再び最初から鳴るため、不自然な聞こえ方をしますが、和音を演奏できるメリットのほうが大きいと思いました。

 この改造により演奏する上では多少制限がつきますが、シンセサイザーらしい音色の変化を持つオルガン、「パラフォニック・シンセサイザー」が完成しました。3号機のおかげでパーカッシブなオルガンの音も作れるようになりました。

<ハードウェア>

 このオルガンの核となっているのがオルガン用LSI "TMS3617"です。1個で1オクターブ(13音)を完全ポリフォニックで発音できます。

 1音につき発音される倍音は1倍(16"),2倍(8"),3倍(5 1/3"),4倍(4"),6倍(2 2/3"),8倍(2")の6種類で、2MHzのX'talで発振した単一のGen ClockをLSI内部で分周し、1オクターブ(13音)ならびに各音毎に1~6倍の倍音をすべて同時に発生させることができます。またこのLSIは、入力したGen Clockを1/2に分周して出力する機能を持っており、LSIをカスケード接続することで、音程が低いほうに2オクターブ、3オクターブと発音数を簡単に増やすことができます。

 このLSIで生成する各倍音のレベルを調整することで音色を作ります。今回はこのLSIを4個(4オクターブ分)使用しました。このような専用LSIのおかげで非常にシンプルな構成でオルガンを制作することができます。ただし、このLSIのピン間隔は400ミル・ピッチで、通常の600ミル・ピッチのユニバーサル基板には実装できません。このLSIはユニバーサル基板上で空中配線して取り付けています。

 このLSIはパーカッション機能を持っていませんが、LSIから倍音毎に音声出力されるので外部回路を工夫することで実現できそうです(今回は未対応)。なおLSI内蔵のエンベロープ機能はreleaseのみです。

4号機の基板



 オルガンなので各倍音の調整にはドローバーを使いたいところですが、そのような部品は入手できなかったので普通のロータリーボリュームを付けました。これは後に小型化のためにスライドスイッチを使った簡単な倍音調整回路に変更しました。スイッチのポジションで各倍音のレベルをOFF,-6dB,0dBの3段階に切り替えます。各倍音の調整がかなりおおざっぱになってしまったので、音色のバリエーションを広げるために3バンドのグラフィック・イコライザを後から追加しました。また、あまり使用しませんでしたが、Gen Clockを2分周する1オクターブDownのトグルスイッチも付けています。

 後に3号機と4号機を接続してパラフォニック・シンセサイザーとするためのI/Fを追加しました。4号機の鍵盤入力から3号機のEGにトリガをかけるためのGATE信号を生成する回路を追加しています。

<機構>

 このオルガンは上に3号機や別のシンセサイザーを乗せることを前提に設計したため、中身の割に筐体が大きくなっております。上に別のシンセサイザーを乗せてもオルガンの操作に支障が出ないようにオルガンの操作系は全て鍵盤左端にまとめました。

4号機の内部 4号機左端にまとめた操作部


<次へ続くシンセサイザー>

 4号機は1983年に完成し、1986年までの長い間活躍しました。実際のステージでは3号機とは接続せず、オルガンとして使用することが多かったです。3号機が出てくるとどうしても操作性の点で不満が残ります。ここまでくると次の目標は「音色メモリー搭載のポリフォニック・シンセサイザー」です。4号機の寿命が長かったのはこの目標をなかなか達成できなかったからです。

 1983年頃から雑誌などを見ても「マイコン」と「シンセサイザー」の結合は運命であり不可避であると感じられるようになってきました。既に発表されているシンセサイザーの多くが「マイコン」を積んでいるということに気づいたのです。これらのシンセサイザーと同等の機能を持つにはマイコンを積むしかないと思いました。

 しかし当時の山崎製作所のマイコンに関する技術レベルはまだまだ低く、簡単なプログラムを実行してLEDを点灯させて喜んでいるのが関の山でした。

 山崎製作所の「マイコン」への取り組みは1982年の「マイコンボード・SHOCK-1」の頃から始まっていますが、どうやったら「マイコン」と「シンセサイザー」を結合できるのか、どうやったら「マイコン」は「シンセサイザー」になれるのか、思案に明け暮れる日々が始まりました。


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