「あれは中村コーチのお手柄です」。8回、2死。球宴でサイクル安打を達成した近本に、中前へ運ばれた。リーグ3位の19盗塁。出すとうるさいスピードスターに、大野雄と木下拓のバッテリーは糸原への2球目を前に、緩いけん制球を連続で入れた。3連発はない-。近本は走った。2球目はピッチドアウト。木下拓から京田への送球で仕留めた。
「(夏休み期間中に)阪神とは12試合もあるでしょ? (神里のいる)DeNAとも10試合。その中でどうするのってことですね」
外したのもけん制球を投げさせたのも、中村バッテリーコーチからのサインだった。試合前のミーティングで話し合われたのが近本対策。その肝は「走らせない」ではなく「走らせる」。6回にも無死から近本に安打を打たれ、けん制球を連発した後の初球を同じように外している。このときは計6球、けん制球を投げたが糸原の内野ゴロで二進した近本に勝ち越しのホームを踏まれた。
俊足の走者の多くは「けん制球はやってくれるほど助かる」と言う。間合い、速さ、クセ…。投手の情報がどんどん増えていくからだ。中日はこれを逆手に取り、近本を走らせた。つまり、6回には食い付いてくれなかったエサに、8回は食い付かせ、釣り上げたということだ。
「こういうこと、やってくるんだ。そう思わせることも大事だから」とは中村コーチ。8月末までに11試合。近本は果敢に走ってくるが、盗塁失敗も12球団ワーストの11を記録する。これまでの中日は加藤バズーカ(柳とのバッテリーで2度刺した)が抑止力となってきた。
捕手が替わっても二塁は盗ませない。チームとしての強い決意と鮮やかな戦略。試合前には「外したときこそ力んで送球は浮くものだ」とピッチドアウトからのスローイングを繰り返していた。ピンチを未然に防いだ大野雄のラストボールから、勝利への歯車は回転を始めたのだ。