第三話:転生王子は帰還する
カルタロッサ王国を目指した船旅もそろそろ佳境だ。
明日の昼前にはカルタロッサ王国に着くだろう。
風に当たるため甲板に昇る。
エスポワールは大型船故に燃費が悪く、長距離の航行に苦労すると思っていた。
しかし、規格外の魔力持ちである俺、ヒバナ、バルムート、サーヤがいて、若者ドワーフ五人も常人よりもずっと魔力量は上。
おかげで旅は順調で余力がある。
「雪か」
カルタロッサに近づけば近づくほど寒くなっており、今日なんて粉雪が降っている。
まだ入り口だが、いよいよ冬が始まったのだ。
「はははっ、我が主よ。船釣りというのは楽しいものですな」
バルムートが釣りに勤しんでいた。
船の運転は交代制であり、それ以外の時間は自由。バルムートやヒバナは空き時間を訓練と釣りに使っていた。
……まあ、釣りと言っても見えた魚影に銛をぶん投げて、引っ張り上げているだけだが。
彼の後ろには、魚が大量に積まれている
俺が【解析】を使い、毒があるものは捨てており、ここにあるのは全部食べられる魚だ。
目玉はマグロとブリ。
来るときにマグロの魔物は食べたが、ここにいるのは正真正銘の魚。
マグロのほうは百キロを超える超大物であり、ブリも二十キロほどはあった。
冬のマグロやブリは脂がたっぷり乗って絶品だ。
よし、俺も手伝おう。ご馳走にありつくために。
「何をしているのかね?」
「血抜きだよ。こうしておくと長い間、鮮度を保てるし味も良くなる」
魚の急所を撃ち抜いて脳死させ、尾のあたりを切って血を抜く。
これを活け〆と言い、日本では一本釣りした魚を即座に活け〆した魚は最高級品とされ、網引きなどで獲られた魚の数倍高く売れる。
それほど味に違いがあるのだ。
「ほう、食すのが楽しみですな。今日の夕食にでもどうすかな?」
サイズがでかいので逆さ吊りだ。
そうして徹底的に血を抜いた後は、積荷の鉄を使った保冷庫に甲板に積もった雪とともにぶち込んでおく。
これなら、カルタロッサ王国についても刺し身にできる鮮度を維持できる。
また、バルムートが銛をぶん投げて引き上げる。
相手は水の中だというのに百発百中。
圧倒的なまでの感覚の鋭さと技の冴え。
ただ当てるだけでなく急所を撃ち抜いている。おかげで、活け〆が楽でいい。
「いや、こいつを食べるのは明日にしよう。そちらのほうがうまい」
勘違いされやすいが、魚は鮮度がいいほどうまいわけではない。
たしかに獲れたての魚は歯ごたえがいい。しかし、旨みが足りない。死後、熟成されることで旨み成分が生まれるのだから。
「我が主は博識のようだ。では、私はもうしばらく釣りに興じるとしよう」
行きで使った小型船とは違い、エスポワールは積載量が多く、釣れば釣るだけ、土産にできる。
浅瀬では釣れない大型魚は喜ばれるだろう。
美味しいし、マグロやブリなどは保存食にもできるのだから。
◇
翌日、船長室のスコープからついに陸が見えた。
塩田に併設された宿舎が見え、向こうも俺に気付いたのか騒ぎになって、人が集まった。
塩田作業員と、漁師、それに万が一魔物が出たときに備えている常駐の兵士たちだ。
みんなエスポワールを見上げて驚いている。
こんな大型船は想像したことすらないだろう。
甲板に出て手を振る。
やっと帰ってこれた。
出迎えてくれた皆には、いち早くお土産をプレゼントしよう。
◇
久しぶりに陸へと降りる。
ずっと揺れる船上だったからこそ、大地が揺れているかのような錯覚に陥る。
平衡感覚がおかしくなっているのだ。陸になれるまで少しかかるだろう。
俺とヒバナが一足先に上陸しており、すぐに民たちに囲まれる。
「お帰りなさい、ヒーロ王子」
「すっげえ船だなぁ。こんなもん作っちまうとは信じらんねえ」
「こいつなら、海の魔物だって怖くねえだろうなぁ」
「ヒバナ様もよくご無事で」
口々に俺たちの帰還を喜ぶ声を投げかけられて、くすぐったい。
そして、俺に続いて仲間たちが降りてくる。
サーヤ、バルムート、五人の若者ドワーフ。
民たちが少し動揺する。
「みんな、紹介しよう。海の向こうから来てくれた新しい仲間たちだ」
サーヤははにかみながら手を振り、バルムートが会釈し、ドワーフの若者たちは緊張して表情が硬い。
民たちはサーヤのキツネ耳を見て驚くも、すぐにその可愛さに見惚れた。
兵士たちはサーヤ以上にバルムートに興味を持っている。兄に鍛えられているからこそ彼の力を見て戦慄しているのだ。
「必ず、彼らはこの国をよくしてくれる。期待してくれ」
俺の言葉に民が沸く。
「うわっ、いきなりハードルあげすぎですよ!?」
「ふはは、期待されているなら応えてみせよう」
この調子なら、すぐにでもサーヤたちはこの国に受け入れられるだろう。
「みんな、さっそくで悪いが仕事を頼む。すぐに馬車を用意してくれ、土産を運びたいんだ」
民たちが塩の運搬に使う馬車を取りに行った。
船の積荷は一回や二回じゃ到底運びきれない量であり、あとで人を手配する必要があるとはいえ、兄たちと再開したときに手土産があったほうがいい。
馬車を貸してもらう礼に、船旅の間に釣り上げた魚を彼らに渡していく。
あれだけあれば、今日は豪勢にやれるだろう。
◇
地下トンネルを通り抜け、いよいよ街にたどり着く。
サーヤたちは街並みに興味があるようで、馬車の窓から顔を出している。
「この街の建物、だめだめですね。一回、家とか全部叩き壊して作り直したいぐらいです」
「否定できないな。だが、ドワーフ基準で見るのはやめてくれ」
ドワーフから見れば、カルタロッサ王国の家々なんて玩具のようなものだろう。
「うーん、私が知る人間の街と比べてもかなり駄目なほうですよ」
それもまた否定できない。
もともと隣国からの侵略で領地を切り取られながら逃げ延びて、やってきた不毛な土地に時間も金も資材もないなか無理やり家を建てたせいで質は良くないのだ。
「はははっ、聞いていた以上の貧乏国ですなぁ。だからこそ、やり甲斐があるというもの」
「バルムートも遠慮がないな……。おまえたち失望したか?」
世界中を旅をしていただけあって、王都を見ればだいたい経済状況はわかる。
「今が駄目でも問題ありません。私が来たんですからね」
「我が主も人が悪い、この国はこれからなのでしょう」
「やっぱり、おまえらは頼りになる」
戦争になっても勝てるだけの準備が終わるまでは、隣国を刺激するわけにはいかず、故に金を稼ぐ手段があるのに、侵略する価値がない貧乏国でいる必要があった。
春になれば、もはや遠慮はない。
一気にこの国を盛り上げていく。
街を抜け、王城が見えてくる。
「あれ? お城だけは立派ですね。技術的には微妙ですけど、時間をかけて丁寧に作られてます」
「あの城を落とすのはなかなか骨が折れそうだ」
「あれはもともと砦だったのを改修したんだよ。まだ領地を切り取られる前、カルタロッサ王国に国力があったころ、魔物がやってくるのを防ぐ目的で作っていたんだ。だから金と時間をかけられた」
だから、急ごしらえの家々とは違って、唯一マシな出来なのだ。
「へえ、そうなんですね。でも、もっとよくできますよ。私たちに任せてもらえませんか?」
「ああ、任せる。もとから依頼するつもりだったからな。ただ、俺も設計に口をはさむ」
「あっ、それいいですね。ヒーロさんの設計は勉強になりますし。一緒に、私達の愛の巣を作りましょう!」
もう突っ込むのはやめよう。キリがない。
城の強化を頼む予定だったのは、戦になれば籠城戦術を行う可能性が高いからだ。
あの城には、全国民を収納して籠城ができる。人口が少ないからこそ可能な戦法。
ただ、今の城は籠城するには不安がある。いい城ではあるが隣国の猛攻を防ぎ切れるほどではない。
さらなる防御力の向上、武器を設置しての攻撃力向上は必須。
兵力の差が圧倒的で、銃の概念を広めないために重火器を封印するとなると策が必要となる。
なにせ、カルタロッサの人口は老人や子供を含めても千人。
それに対して隣国は、カルタロッサに一番近い街の人口だけで二千人を超え、軍は万をこえる。
全軍を差し向けてくることはないだろうが、少なく見積もって千~二千は兵を派遣してくる。
こちらの人口は千人いるとはいえ、戦える者は二百にすら満たない。戦力差は十倍から二十倍もあるのだから、真正面からぶつかるわけにはいかないのだ。
「あら、城には私たちの帰還が伝えられているようね。お出迎えよ」
城壁の中央にある扉が開く。
そこには二人の兄と、彼らの近衛騎士がいた。
「遅かったじゃないか。おかげでこっちは大変だったよ」
内政と外交を司るアガタ兄さんが爽やかな笑みを浮かべている。
俺が次期国王でありながら自由に飛び回れるのはアガタ兄さんのおかげだ。
政治においては俺の能力を上回る。
俺の不在時には政務のすべてをアガタ兄さんが担当してくれていた。
「悪かったな。それに見合う成果は持ち帰ったよ。積荷を見てくれ、馬車で運べたのは一部だが、鉄と金、それにこっちにはない作物の種と家畜を持ち帰った」
「それはすごいね。でも、一番の収穫は別にあるんだろう」
「ああ、一番の収穫は人材だ」
サーヤやバルムートたちの価値は鉄や金など軽く上回る。
……父を治す薬の材料を手に入れたことはそれに匹敵する成果だが、それはこの場ではなく、アガタ兄さんにだけ一足先に話しておく。
父が目を覚ますのは国の一大事であり、扱い方を間違えると大変な事になりかねない。
そう言えば、もうひとりの兄、武力において俺を圧倒するタクム兄さんが静かだ。
彼の方を見る。
「……」
タクム兄さんの視線は一人の男に釘付けだった。
そして、その男の視線もタクム兄さんに釘付け。
二人共、獰猛な笑みを浮かべ、その手は剣に添えられている。
「我が主よ」
「おい、ヒーロ」
二人の獰猛な笑みがより深まり、闘気が爆発する。
「「この男と戦わせろ」」
それはまったくの同時に放たれた。
お互い、強さを求めて精進し、強くなりすぎ、競う相手すらいなくなり孤独だになった。
その孤独を埋める相手、全力を尽くしてなお勝てないかもしれない、そんな相手が目の前にいる。
我慢なんてできないのだろう。
「タクム兄さんもバルムートも落ち着いてくれ。せめて、自己紹介と食事をしてからにしよう。お互い、万全の状態で戦いたいだろう。食事を食べるころには長い船旅でおかしくなった平衡感覚も戻る」
すぐにでも戦うことを願っている二人が若干もどかしそうにしながらも頷いた。
……こうなると予想していた。タクム兄さんをバルムートに会わせれば決闘になるのは必然。
楽しみだ。
人類最高峰の剣士二人が行う決闘、これほどの見世物などそうそうないだろう。
俺やヒバナではまだ及ばない領域での戦いになる。せいぜい勉強させてもらおう。
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