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転生王子は錬金術師となり興国する 作者:月夜 涙(るい)

第三章:転生王子は強国する

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プロローグ:錬金術師は見守る

 昨日、迫害されていたクロハガネの民を、自然が豊かな無人島へ移住させることに成功した。

 誰一人欠けずに来られたのは僥倖と言える。

 俺やヒバナも頑張ったが、クロハガネの皆が俺を信じ、全力を尽くしたおかげだ。


 しかし、手放しに喜んでいられる状況じゃない。

 予定を数日前倒した分、準備ができていない。

 そのため、昨日からてんてこ舞いだった。

 昨日は移住成功を祝って、とっておきの酒で乾杯した後、すぐに仕事に戻っている。本来なら、そのまま盛大な宴をしたいところだが、まずは生きていける環境を整えないといけない。

 せめてもの救いはドワーフたちの圧倒的な建築能力により、瞬くまに全員が安心して眠れる場所と寝具が用意できたこと。

 しかも、畑作りも土魔術を使ってあっさり終わらせるチートっぷり。

 おかげで二日目には、男は個別住宅とインフラ作り、それから少人数がクロスボウをもって狩猟にでかけ、女性と子供は食料の採取で食料を集めるという分担ができた。


「冬が来るまでになんとかなるか」


 こちらは気候がカルタロッサと若干違い、冬の訪れが少しだけ遅いものの、一月もしないうちに冬がくる。

 そのわずか一ヶ月で冬越の準備をしないといけないのは非常に苦しい。

 食料を集めないといけないし、防寒具だっている。

 この島の自然は非常に豊かで農耕をせずとも二百人程度の食い扶持はどうにでもなりそうだし、問題なく狩猟で毛皮と肉も集まるだろう。海に囲まれた島で魚と塩が取り放題なのも大きい。


 とはいえ、生活が落ち着き次第、農耕もきっちり行う。

 採取だけに頼っていれば、今は大丈夫でも徐々に資源は減っていき、生態系を壊してしまうのだ。

 ……作物がろくに育たず、採取と狩猟に依存しすぎて、森の恵みを枯らせ、獣と魚を狩り尽くしたカルタロッサ王国の二の舞を彼らには踏ませない。

 そのために、この島に自生する植物を手に入れ、それをベースに強く美味しい品種に改良した種を用意してある。


 そして、今は完成したばかりの食料庫でドワーフの仕事を見学していた。

 眼の前でキツネの尻尾が揺れている。


「こっちは食べられます。こっちは駄目ですね。うわっ、この木の実一口で人を殺せちゃいますよ。便利そうなので捨てずにとっておきましょう。って、あっ、リンダ、捨てないもののところに置いちゃったけど、もっていっちゃ駄目です!」


 ドワーフの女性たちが集めた食料を、キツネ耳美少女がより分けている。

 ぱっと見て、匂いを嗅いで、すぐに後ろの籠に放り投げる早業。

 キツネ耳美少女の正体は、ドワーフたちの姫にして先祖返りのサーヤ。


 ドワーフは錬金術師が助手にするために創造した種族。

 故に錬金術師の都合がいいようにデザインされている。


 ドワーフは成長が極めて早いくせに、成人後の老化が異常に遅い。

 そして、筋力と魔力量に優れ、錬金術のサポートに有用な火と土魔術の適正を上げるため妖狐の因子を取り入れており、それが見た目にも現れている。

 しかし、何代も重ねることで血が薄まり、ドワーフたちから力と共にキツネの耳と尻尾は消えていた。

 先祖返りで濃い血を引いたサーヤにだけ可愛らしいキツネ耳とキツネ尻尾が生えているのだ。


「あっ、こっちはびっくりするほど美味しいキノコですよ! よし、一通り終わりました。思ったより食べられるのが多くていい感じです!」


 なぜ、サーヤが食料をより分けているかと言うと、ドワーフたちにとってここは未知の島であり、出会う食材も知らないものが多い。

 ようするに、食べられるかどうかわからない。

 だから、採取のときにはドワーフ謹製の手袋着用を義務付けつつ、片っ端から持ち帰り、それをサーヤが食べられるか確認しているのだ。


「はいっ、これで終了です。じゃあ、図鑑作りチームさんお願いします。毒があるほう優先で図鑑を作ってください」


 こうして食べれるかどうかの判断をしているサーヤは、もうすぐここを出て、カルタロッサ王国に行ってしまう。

 だから、サーヤの分析結果を、ドワーフたちは図鑑として編集し、彼女がいなくなってからも食べ物を見分けられるように準備しているらしい。

 手先が器用で、図面などを描くのが得意な彼らは絵もうまい。

 下手な写真よりも分かりやすい。

 ただ、不思議なのは……。


「どうして、サーヤはそれでわかるんだ?」


 サーヤはぱっと見、手にとって鼻をヒクヒクさせているに過ぎない。

 なのに、その判別はひどく正確だ。

 俺が錬金魔術の一種、【解析】で確認したのだが一切ミスがない。


「ふぉっくすセンスです!」


 もふもふ尻尾を振りながらサーヤはどや顔をする。


「真面目な話をしているつもりだが」

「私だって真面目ですよ。なんとなくわかるんですよね。毒があるか、それはどんな毒かが。多分、私たちを作った錬金術師がそう設計したんでしょう。素材集めは助手の仕事ですから。あっ、ちなみに先祖返りの私以外には使えない力ですよ」


 そういえば文献でそういう能力があったと書いてあった気がする。

 さすがは錬金術師の助手へと最適化された生命。


「羨ましい限りだ」

「こんな便利な私が手に入るヒーロさんは幸せものです。ちなみに夜もすごいですよ。錬金術師が残したドワーフ教育マニュアル第八巻には、ベッドの上でご主人様を喜ばせる方法もぎっしりと書かれてました。実戦経験はありませんが、たくさん勉強しまたのでたぶん大丈夫です!」

「……そういうことを頼むつもりはない。というか、ドワーフ教育マニュアルってなんだ? 読んでみたいんだが」

「残念ながら持ち出す時間はありませんでした。……実家の地下に専用ケースで埋めてます。見た目をただのでかい岩に偽装しているんで、馬鹿なあいつらは気付かないと思いますよ。いつか取りに行きたいです。もっと、ヒーロさんのために勉強しないと」

「勉強って、錬金術師をどうフォローするかだよな?」

「いろいろです!」


 ……別作業をしていた男ドワーフたちが血涙を流しながら睨んでくる。

 サーヤはあの告白以降、かなり大胆にアピールしてくる。

 サーヤは文句なしの美少女で、一緒にいて楽しく、魅力的。そんなサーヤにこれだけストレートに好意を伝えられると我慢するのが大変だ。

 それでも、けじめはつけなければならない。じゃないとクズに成り下がる。


「物作りにおける助手として俺を支えてくれ」


 だから、そういう言葉を選んだ。


「はいっ! 今はそのポジションを全力でがんばります」


 今はか。

 これからどうする気なのかが怖くもあり、そう言ってくれることが嬉しいとも感じてしまった。

 そうこうしていると、急に周りが騒がしくなった。

 どうやら、俺の船がこの島に帰ってきたらしい。

 とある男を迎えにいったヒバナの帰還だ。

 彼女には今回も負担をかけた。

 一仕事終えたら、一睡もせずにとんぼ返りで働いてくれたヒバナを労わないと。


「仕事に行ってくる」

「気をつけてくださいね。あのヒバナさんより強い相手です」

「大丈夫だ。油断しないし、準備もしている。……投降する振りをして、俺を殺し、サーヤを攫って、船を奪って帰るつもりかもしれないしな」


 冗談めかして言ったが、その可能性は否定できない。

 ヒバナの眼は信頼しているが、盲目的に他の可能性を考えないのは、人の上に立つものとしての怠慢。

 ありとあらゆる可能性を考えておく。


 気を引き締めなければ、手傷を負っているとはいえ、ヒバナが武器の性能差がなければ自分よりも格上、タクム兄さんにすら届くかもしれないというほどの相手だ。

 真正面から向き合い、彼の真意を見抜き、その上でどうするかを判断しよう。


今日から三章!

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