第二十六話 さあ、決着だ
前回のあらすじ:
マグナス、静かに怒る。
紅蓮渦巻く覚醒〈歴戦のフレイムソード〉を掲げ、ユージンが得意絶頂斬りかかってくる。
「ギャハハハハハ! よけるなよ、マグナス! よけたらあの女が死ぬぞ~? ほーら、死んじゃうぞ~~~~~~~っっっっ?????」
対して俺は、総ミスリル製の〈大魔道の杖〉を握り締め――
無言で、ユージンの顔面を殴り倒した。
ノロくさいレベル20足らずの〈勇者〉風情の、ナマクラ剣法よりも速く、鋭く、的確に、痛烈な逆撃をお見舞いした。
たとえ
「マグナス、テメエエエエエエエエエエエエ!? ヒルデ、殺れえええええええええええ! このバカに後悔させたれええええええええっっっ」
腫れ上がった頬を押さえたユージンが、ワガママ放題育てられた愚にもつかない幼児のように癇癪を起こす。
ヒルデがその命令に愚直なまでに従い、アリアの首を絞める両手に力を込めようとした。
「バカも、後悔するのも、おまえたちの方だ」
俺は吐き捨てた。
そして、静かすぎるほどに静かな――感情を押し殺した声で命じた。
「起きろ」
そのたった一言が、状況を激変させる。
最初に気づいたのはヒルデだった。
ヒルデは今、アリアとともに晩餐会会場である中庭外縁、贈答品の巨大オブジェが林立する一角にいた。
巨大オブジェには余興のため、全て白い布がかぶせられている。
その一枚が、勝手に、内側から払いのけられた。
そして、その下に隠れて――否、潜んでいた「モノ」が姿を現した。
至近距離から見上げて、ヒルデが絶句する。
「でっ、
そう――
その巨人は間違いなく、俺が「死の山」の魔城で斃した、デルベンブロの本体だった。
ユージンよ。「ずいぶんと顔色が悪いじゃねえか?」と笑ってくれたな?
優しいアリアは「あちらで少し休憩しましょう」「膝枕してあげますよ?」と心配してくれていた。
晩餐会の間ずっと、俺は疲労を隠せなかった。しばしば〈マナポーション〉に頼っていた。
その理由を教えてやろう。
俺は五日前にデルベンブロ本体を斃し、すぐさま〈屍竜の王錫〉でアンデッド化し、支配していたのだ。
今日この日までずっと、〈MP〉を消費しつづけながら、その状態を維持してきたのだ。
レベル36の〈魔法使い〉であり、〈精神〉をフルドーピングした俺だからそれができる。
無論、テンゼンとの決戦を見据えた上での布石だ。
このレベル40アンデッドモンスターは、そのための決戦兵器だ。
だが、俺はまた静かな声で告げた。
「アリアから汚い手を離せ、ヒルデ」
たちまちアンデッド・デルベンブロが、俺の命令を忠実に実行した。
杭状の右腕を振るい、ヒルデを殴り飛ばした。
例えるならば、一点に凝縮された嵐の如き暴風。
最高峰ボスモンスターの、理不尽なまでに暴力的な一撃が、前衛職でもなければレベル20ちょっとの、ヒルデの体を十数メートルも吹き飛ばしたのだ。
ヒルデは一発でズタボロにされ、白目を剥いて泡を吹いていた。大股をおっぴろげた格好のまま、無様に痙攣していた。
これから始まる恐怖も惨劇も見ずに済む。
神霊タイゴンに感謝あれだな。
俺は視線をゆっくりと動かし、ひたとユージンを見据えた。
ユージンは腰を抜かさんばかりに怯え、泣き叫んだ。
「ひぃぃぃっ。ひいいいいいっ。どうしてデルベンブロがここにいるんだよおおお!? なんでマグナスが使役してんだよおおおお!?」
「おや、おかしな話だな? 俺のことをデルベンブロだと糾弾したのはおまえだぞ? 当然、デルベンブロと戦うことも覚悟の上で、弾劾したのだろう?」
「うるせええええっ。俺は聞いてねええええ! そんなん聞いてねえええええええ!!」
「そうか。じゃあ己の愚かさを後悔し――清算しろ」
俺が顎をしゃくると、それだけでアンデッド・デルベンブロがユージンへと突進していく。
亡者特有の、この世の全てを恨むような、おどろおどろしい呻き声を上げながらだ。
それでもうユージンは恐慌を来たし、目から鼻から口から股間から、体液を撒き散らしながら叫んでわめいた。
「オレが悪かったあ、マグナス! だから許してくれっ。このバケモノを止めてくれっ。な? な? オレたちの仲だろ? 一緒に旅した仲間じゃねえかよっ」
「はて? 俺とおまえはもう仲間ではないはずだが?」
「もう二度とテメエにはちょっかい出さねえ! 誓う! だから許してくれよおおなあああ」
「おまえ如きが俺にいくらちょっかいを出そうと、別に構わん。だが、おまえはアリアの命を脅かした。絶対に許さん」
「オレは勇者だぞ!? 魔王を斃し、世界を救う運命を背負った男だぞ!? そんなオレを殺したら、どうなるかわかってんのか!? 世界終了だぞ!? テメエ責任とれんのかよ!?」
「おまえ程度が、世界を救う戦力になれるものかよ。責任? ああ、とってやるさ」
俺はとっくにそのつもりだ。
アンデッド・デルベンブロが、ついにユージンに肉薄し、右腕を高々と振り上げた。
〈勇者〉ユージンは抵抗する勇気すら出せず、へたっ、とその場に尻餅をついた。
アンデッド・デルベンブロは容赦も斟酌もなく、そのユージンへ右腕を叩き下ろした。
一撃。
二撃。
三撃――!
「あっ……。えひっ……。いひっ……」
ユージンが殴りつけられるたび、痙攣したような悲鳴を漏らす。
人はあまりの苦痛に悶える時、絶叫すらできる余裕がないのだと、奴の身を以って体現する。
さらに四撃。
五撃。
六撃。
七撃。
八撃、九撃、十撃、十一、十二、十三、十四、十五、十六、十七、十八、十九、二十、二十一、二十二、二十三、二十四、二十五、二十六、二十七、二十八、二十九、三十、三十一――――
俺がやめろと命じるまで、アンデッド・デルベンブロはいつまでも、重量級の鈍器めいたその屈強な両腕を、ユージンへ振り下ろすのをやめなかった。
そして、
もはやユージンのことも、重い殴打音も、肉がひしゃげて潰れる音も、屁のような痙攣した悲鳴も、全部、全部、一顧だにもせず、テンゼンに向き直った。
「……マグナス……貴様、絶対に怒らせてはならぬ人種だったか……」
テンゼン=デルベンブロまでが、
「さあ? 戒めてきたし、最後に怒った記憶もとんと思い出せない。自分でもどこがどうと評せない」
俺は静かにそう答えた。
あたかもそれが合図のように、俺とテンゼンは再び〈サンダーⅣ〉と〈フィストショック〉を応酬した。
だが、ただの殴り殴られでは、人は魔物には勝てない。俺がどんなに
だから俺は、この時のために用意した決戦兵器を投じる。
「行け、デルベンブロの亡骸よ。貴様も自分でしでかした悪事に、清算をつけろ」
アンデッド・デルベンブロが呻き声を上げると、痙攣したまま物も言えなくなったユージンを捨て置き、今度はテンゼン=デルベンブロに突撃する。
レベル40の最高峰ボスモンスター同士のがっぷり四つ。
次元違いの肉弾戦。
互いに〈フィストブロー〉を打ち合い、肉が弾け、骨が砕ける。
それをよそに、俺は悠然と呪文を唱えた。
さあ、決着だ――
「――ティルト・ハー・ウン・デル・エ・レン」
これまでと同じ〈サンダーⅣ〉。だけどここからが違う。
まず、呪文を長文化して〈威力五倍化〉や〈単体攻撃化〉、〈会心率UP〉等々を付与したヘヴィカスタマイズ。
そう、俺が「死の山」でデルベンブロ本体を討ち、得たのは、何も膨大な〈経験値〉だけではない。
もちろんのこと〈ドロップアイテム〉もゲットしていた。
それが今、俺の左右の手に
〈魔拳将軍の対指輪〉だ。
アルセリア世界に、掛け値なしに一つきりしか存在しない、ランクSSS装備。
俺は立て続けに、次の呪文を唱えた。
「――フラン・イ・レン・エル」
ヘヴィカスタマイズ〈ファイアⅣ〉。それを右手に〈保留/ストック〉する。
そして、両手を重ね合わせて握り拳を作った。
そこから、極大威力の炎雷を
炎と雷、異なる〈属性〉を持つ攻撃魔法が混淆し、この世ならざる現象となって顕れた。
真紅に輝き燃え盛る、稲妻の赤竜の如き一撃が、テンゼン=デルベンブロへと一直線に翔けていく。
炸裂する。
まず弱点である〈雷属性〉が奴の〈魔法防御力〉を貫通し、その後に〈炎属性〉が内側から爆裂する。
これこそが、魔法の神霊ルナシティのみが可能としたという、〈合体魔法〉。
神話の故事に事例を当たれば、炎と雷を合わせたこれは、〈フレアバースト〉――とその名が言い伝えられている。
ランクSSS装備の助けのおかげで、人の身でありながら〈合体魔法〉を成し遂げた俺は、〈フレアバースト〉のただ一撃で、テンゼン=デルベンブロを爆発、消滅させた。
そう、跡形も残らなかった。
中庭のど真ん中に、えげつないほど巨大なクレーターを生み出していた。
アリアが呆然となっている。
ミシャが唖然となっている。
国王が愕然となっている。
皆、「この世のものとは思えないような光景」を、目の当たりにしてしまったかのよう。
一方、俺は大きく息を吐いていた。肺の底から嘆息していた。
これだけメチャクチャやって、ようやく溜飲が下がったというか。怒りが失せたというか。
むしろ、冷静になってしまったというか……。
「…………確かに……俺は、怒ってはならない人種かもしれない……な……」
後半はもう言葉にならなかった。
感極まったアリアが駆け寄って、抱きついてきて、メチャクチャにキスされまくったからだ。
ここまで読んでくださり、本当にありがとうございました!!!!
明日からは二夜にかけて、エピローグ的なお話を投稿したいと思います。
その次からは新展開に突入する予定です。
毎晩更新がんばります!