第十三話:転生王子と男の誓い
溝を掘り終わり、ようやく鉱脈とドックを結ぶレールが完成した。
レールのあとはトロッコ作りなのだが、こっちは極めて楽だ。
レールに沿って走るだけなので、方向転換する必要がない。だからこそ、シンプルな設計にできる。
シンプルなのはいい。壊れにくいし直しやすい。
それに、魔力モーターがなくとも最悪手押しができるほどの軽量性。
手押しでも、荷車を引くよりもずっと楽だ。
「相変わらず、信じられないわ。たった一時間でトロッコが完成するなんて」
「もともと必要なパーツは船に積み込んできていたしな」
トロッコのようなものが必要になるとは読んでいた。
だから、予め小型の魔力式のモーターを作成して持ってきている。
トロッコは先頭車両のみが魔力モーター搭載で、後続車を牽引するようにしている。
「早速乗ってみようか」
「ええ、わくわくするわ」
先頭車両に乗り込み、実験ように後続車を二つジョイントして発進する。
すぐに加速が始まる。
「ぜんぜん揺れないわね」
「レールと車輪の精度が高いおかげだ。レールにゴミが置かれなければまず揺れない」
今は作ったばっかりだから問題ないが、定期的なレールの掃除は必要かもしれない。
ぐんぐんトロッコが加速していく。
「だいぶ速くなってきたわね」
「緩やかとはいえ下りだからな」
鉱脈が埋まっているのは地下百メートルよりも深い場所だ。そことドックを結ぶ際に、なるべく緩やかな坂を作るようにした。
数キロもあれば、これだけ深くとも、大きな角度はつかない。
とはいえ、下りには違いがないし、駆動系にロスがほとんどないため、どんどん加速していく。
「ちょっと怖い速度よ。レールがあってよかったわ。そういうのがないと壁にぶつかってしまいそう」
「それもレールを作った理由だ。どうしたって鉱石を積むとハンドルが重くなる。レールでしっかり進行方向を固定したほうが安全だ。速いだけじゃなく視界も悪いしな」
カルタロッサ王国のトンネルは等間隔に魔力灯を用意したが、そんなものを用意する時間も材料もない。
だから、トロッコの先端に取り付けた魔力灯だけが頼りで薄暗い。
そんな中をこの速度でまっすぐ走るのは意外と難しい。
だから、レールが必要になる。
鉱石をがっつり載せて、スピードが出た状態で壁にぶつかるのは最悪だ。
そうこうしているうちに、鉱脈に近づく。
魔力をカットし、ブレーキレバーを押し、緩やかに減速を始める。
問題なくブレーキも作動した。
「よし、いい感じだな」
「危なげなく止まったわね」
「次は限界重量で試したいな。というわけで、楽しい採掘作業だ。鉄を限界まで詰め込めば良いテストになる」
「わかったわ。早く終わらせて戻りましょう。そろそろ、サーヤたちが来る頃だし」
二人で鉄鉱石集めを始める。
二台まで牽引できる、いっきにかなりの量を運べるだろう。
◇
鉄鉱石を集め、その場で鉄鉱石を鉄に変えてから隙間なく詰め込み出発する。
行きが下りということは、帰りは当然のように上りになる。
なかなかきついが、限界まで荷物を積んだ状態でも問題なく走る。
一般的なドワーフたちの魔力に力を抑えると時速十二キロ程度まで落ちるが、十分速い。
そうして、ドックに戻ってくる。
そこには、すでに来客がいた。
「あっ、おかえりなさい。ヒーロさん、ヒバナさん」
サーヤが手を振る。
彼女の後ろにはすでにドワーフたちがいた。
今日から、彼らには船造りのために働いてもらう。
「ただいま。サーヤ、確認させてくれ。彼らはどこまで知っている?」
「全部です。昨日のうちに父が集落の主要人物に話を通して、彼がさらにという感じで情報が回ってます」
「……そんな大雑把でいいのか」
普通は、もう少し慎重にする。
こういう被支配地域の場合は身内の裏切りものを警戒しなければならない。
大抵は金か恐怖かで、寝返っているものがいるものだ。
「大丈夫です。みんな家族ですから」
その言葉や表情に一切の不安がなかった。
作り笑顔の得意なサーヤだけど、今の言葉は本心からだ。
ならば信じよう。彼らが俺を信じてくれたように。
「そうか、じゃあ、そのあたりの説明はなしにしようか。みんな、聞いてくれ」
ここをドックとして使うためにいくつか必要な道具を用意していた。
壁に取り付けた黒板とチョークなんてものもその一つ。
意外と身近な材料で作れるし、共同作業ではこういうものが必須だ。
黒板を叩いて注目を集める。
俺の隣にサーヤが並んだ。
「……みんな移住計画のあらましを聞いているので、ざっくりと説明をしよう。サーヤと俺が設計した船で、クロハガネの役二百名が海を渡って移住する。君たちには船作りを行ってほしい。まず第一段階は材料の確保だ。これだけの材料が必要になる」
必要な材料を黒板に次々に書き出す。
「鋼材については、このトンネルの先にある鉱脈から採掘できる。そこへの移動と運搬はこのトロッコという乗り物を使う。あとで実際に操縦してもらうから気にしておいてくれ」
ドワーフらしく、知的好奇心があるのか俺が鉄を運んできたトロッコを注意深く見ていた。
「材料集めが終われば、船のパーツ作りだ。後でこちらで手直しするから、大雑把でもいい、速さ優先で仕上げてほしい。材料集めとパーツ作り、この二つを任せる。疑問があるものはいるか?」
誰も声を上げない。
サーヤに視線を送るとコクリと頷いた。
おそらくはすでに設計図を見せているのだろう。
「みんながその作業をやっている間、俺とヒバナ、それにサーヤは小型船で移住先の下見に行く。三日ほどで戻る予定だ。どんなに遅くとも五日で戻る」
「絶対、私たちで安全な住処を見つけます。だから、待っていてください」
ドワーフたちはざわつく。
この話は知っているはずだが、どうしたのだろう。
「俺もついていく。姫様を一人にはできない」
一人か、俺とヒバナはよそ者と思われているのだろう。
彼のことは見覚えがある。
あの門番をやっていたドワーフだ。
「私は大丈夫ですから、こっちの仕事をしてください」
「ですが」
「この計画は一分一秒を争います。少しでも人手がいるんです。あなたの力は私を守るのではなく、ここでみんなと船を作るのに使ってください。心配しないでください。ヒーロさんは信用できます。信用できないなら、こんな作戦、実行しません」
サーヤの笑みには有無を言わせない迫力があった。
それで門番をやっていた男は黙る。
「そういうわけだ。まずはトロッコの扱い方を教えつつ鉱脈へ案内する。それが終われば俺たちは出発する。それまでに質問があればしてくれ。以上だ」
それからは、特に反対意見はでなかった。
トロッコの荷台に乗れるだけ乗ってもらい、乗れないものは後から歩いてついてくる。
魔力量が多いものには、操縦を覚えてもらうため、動力付きの一台目に乗ってもらった。
サーヤとヒバナにはドックに残ってもらい、出発の準備をしてもらう。
操縦を志願してきたのはさきほどの門番だ。
俺の言うことを素直に聞き、そつなくトロッコの操縦を行い、トロッコが発進した。
サーヤたちが見えなくなったころ、門番が口を開く。
「ヒーロっていったか」
「ああ、そうだ」
「俺はナムルって言う。姫様を頼む。これ以上、姫様を悲しませないでくれ」
「そのためにこうしているんだ。……大丈夫だ、この集落を救う。間に合わせるよ」
「あんた、そこまで聞いているのか」
門番は驚きで声を震わせた。
「ああ、本人からじゃなくて、彼女の父親からだけどね」
「……人間ども、あれだけ姫様を見世物にして、化物だって辱めて、笑っていたくせに、妻に迎えてやるなんて言いやがって」
とある貴族がサーヤに目をつけたらしい。
サーヤの美貌もあるが、ウラヌイの人間が嘲笑するはずのキツネ耳や尻尾をたいそう気に入り、妻に迎えると言い出した。
それが、かなりの大物らしく、それを受け入れれば、クロハガネの待遇は今より良くなる。
その婚姻が行われる日が近づいている。
……サーヤは人間に嫁ぐことを嫌がっているわけではない。
もの好きな貴族が、色物として欲しがっているのだから、そこでの日々は辛く苦しいものになるだろう。
人権なんてものはなく、弄ばれるのが目に見えている。
それでもサーヤは行く。
少しでもみんなが楽に暮らせるならと怖いのも辛いのも耐えて。
彼女は姉と同じ目をしているから、よく分かる。
なら、なぜそれを止めようとしたのか。
それは暴動を止めるためだ。
「姫様のおかげなんだ。俺たちが今まで頑張ってこれたのは。誰よりも働いて、どんな辛いときも姫様が笑顔で励ましてくれた。だから、やってこれた。でもな、姫様が奪われるなら、もうどうでもいい。俺たちは戦う。我慢の限界だ!」
そう、あまりにもクロハガネの民にとってサーヤの存在が大きくなりすぎた。
サーヤが奪われるとなったら、集落の民たちは黙っていない。必ず暴動が起き、力及ばず、今よりももっと悲惨な状況になる。
だからこそ、サーヤは暴動が起こる前に計画を達成したかった。
……まったく、よくもいけいけと計画が遅れたら延期することに同意したものだ。
サーヤが俺のもとで働くことも条件なのに。計画が遅れてサーヤが連れ去られてしまったら、契約不履行になるのに。
きっと言えなかったのだろう、俺が手を引くのを恐れて。
そのことを責めはしない。彼女も必死なんだ。
それに、このことを知った俺に何度も謝ってくれた。
「改めて言っておく。この計画が成功すれば、ウラヌイの連中にサーヤが連れていかれることはないが、俺がサーヤを連れていく」
フェアじゃないので、改めて告げる。
サーヤを奪われないためなら、無謀な戦いすら行う彼に向かって。
「……ああ、知っているさ。でも、アムル様があんたになら預けられると言った。それにな。姫様を俺はずっとずっと見てきた。だからわかるんだ。姫様はあんたを信頼して頼ってる。あの姫様は人を励ますばかりで、誰にも頼らなかった。でも、あんたのことはそうじゃない。だから、あんたのとこになら行ってもいい」
「信じてくれるのはありがたいが、なら、さっきついてくると言ったのはなんでだ」
「まだ、全部許したわけじゃないからな! 姫様に不埒なことをしないか見張るためだ!」
思わず微苦笑してしまう。
「何がおかしいんだ!」
「いや、サーヤのことが好きなんだなと思って」
そう言うと、門番は顔を赤くした。
男が顔を赤くしても気持ち悪いだけだ。
「クロハガネの民は、みんな姫様が好きなんだよ。だからな、頼む」
「わかった、任された。サーヤのこともクロハガネのこともな」
俺が集落とサーヤ、その両方を救うのは決定事項だ。
鉱脈についた。
トロッコの操縦も問題ない。
これで安心して、居住区探しにいける。
この最大の難関をクリアすれば、計画は万全になるだろう。
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