213.学年末試験7
アカデミーの情報収集能力半端ねぇ!と愕然とした日の次の日、私は杖を持ってアカデミーに来ていた。
普段は杖なんて装備しない。いや、戦闘訓練でもなければ、町の中で杖なんて要らないしねぇ…。
試験会場として指定されていたのは、過去に戦闘訓練を行った場所。要するにある程度の広さがある場所、だった。
一年生全員が集まっているのか、100人ぐらい居て、さすがにエリー達全員を探し出す事なんて出来やしない。
せいぜい、アイゼルぐらいだ。でも、我ながらよくアイゼルを探し出せたよなぁ…。
今回の試験官はイングリド先生のようだ。他にも補助なのか数人の先生が一緒に来ていた。
って、知ってる先生はケルヒャー先生だけだけど。多分、イングリド先生が教えた元生徒なんだろうなぁ。
イングリド先生が入ってくるまで煩かった会場は、先生の入場とともに一気に静かになった。
「今から試験の説明をします。今回の試験は、アイテムを使う実技試験です。今から樽を運んできますので、その中身を破壊せずに、外側の樽のみを破壊しなさい。貴方達は始めての人が多いので、助言をしましょう。あまり強い攻撃を樽に加えると、中身ごと破壊されます。アイテムならば強いのを使えばいいというわけではありません。それと、使えるアイテムを増やすごとにアイテムを使う使用回数は減っていきます。よく、考えてアイテムの選定をしなさい」
どうやら、この試験はゲームのままのようである。
確か、先生の大事なアイテムが樽の中には入っていて、破壊したらおしおきだったっけ。
「ちなみに、今回は貴方達の大事なアイテムを中に入れています。破壊したら、貴方達泣く事になりますよ」
「「「「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」」」
……前言撤回。
今回もゲームのままと言う訳にはいかない模様です。
けど、私の家の大事な物……ひ、氷室は朝使ったし、調合用の道具類も、参考書の類もあった筈。
後、他に何かあったかな?
頭を捻っていると、試験は開始された。
どうも、入学試験の順位純らしく、一番手はノルディスだった。
まぁ、ノルディスだからソツなくこなすだろう。
ノルディスと目が合ったので、軽く手を振ってみた。アイゼルも私と同じように手を振った。
それを見たノルディスが私のほうを見て軽く手を振ってくれた。
さすがに公衆の面前で大声で応援なんて恥ずかしくて出来ません。
私の精神は目立つことが苦手な日本人なんだよっ!
アイゼルは、ノルディスが好きだって公衆の面前で言うような事は出来なかったんだろう。
「ノルディス頑張れーっ!!」
そんな私達とは逆に、ノルディスを応援する大声。あの声はエリーだわ。
さすがと言うかなんと言うか…。
ノルディスはフラムとクラフトを選ぶ。
どうやら、フラムで大きく破壊していき、クラフトで微調整と言う手にでたようだ。
目論見通り、ノルディスは危なげなく樽を爆破した。
中には一冊の本。
ノルディスは無事その本を手に取ると、ホッとしたような表情を浮かべた。
どうやら、大事な本のようであった。
それを大事そうに抱えると、ノルディスは私達の方へとやってきた。
「ノルディス、無事成功おめでとー」
「すごいですわ、ノルディス。最初で、何も情報のない中見事にやってのけましたわ!」
「うん。フラムで大きく壊して、クラフトで微調整をしたよ」
笑顔で話していた私達だったが、
「あぁぁぁぁぁぁぁ!!」
ノルディスの次に試験を受けた生徒の悲鳴で慌てて樽の方へと目をやった。
どうも、ノルディスの後に樽の破壊をしようとした生徒は、ノルディスと同じようにフラムとクラフトで破壊しようとしたらしい。
二匹の泥鰌を狙ったようだ。
「あぁ、言い忘れていましたが、樽の固さはそれぞれ違います。前の人と同じように破壊しようとしたら、泣く羽目になりますよ」
「遅いです、イングリド先生」
いや、絶対ワザとだろう。
先入観を持って壊そうとしたら、中身も破壊されるようにしていたのに銀貨100枚。
思わず突っ込んでしまった私にイングリド先生が冷ややかな目を向ける。
「錬金術士たるもの、変な先入観を持って行動をたらどうなるか良い見本でしょう」
哀れ、ノルディスの次の生徒。
「お、俺のジョセフィーヌゥゥゥゥゥ!!」
フラムにものの見事に黒焦げかつ木っ端微塵にされた残骸を手に、号泣するノルディスの次の生徒。
どうも、人形だったらしく残骸に手らしき物体が見えた。
ちなみに、生徒は男。
フィギュアかなんかか?
「以降注意しなさい。次!」
「は、はいぃぃ!」
肩を落として残骸を大事そうに抱えていく生徒の次にはガチガチに緊張した生徒のようだった。
落ち着きがない性格なのか、わたわたとアイテムを選ぶ。そのアイテムは5種類。
あれ、それだと下手したら破壊し終わる前にアイテムの使用回数を超えないか?
案の定、樽は破壊まで至らなかった。
破壊まで至らなかった場合、アイテムは返却される。
樽を破壊しすぎれば自分の大事な物が壊され、手加減すればアイテムは無事だが試験で良い成績は得られない。
性格の悪さが滲み出た試験だわ。
「次、アイゼル・ワイマール」
「はい」
「頑張れ、アイゼル。肩の力を抜いて、良く観察すれば多分大丈夫」
「大丈夫ですわ。アイテムの使い方は錬金術士の基本ですもの」
アイゼルは自信満々に言うと、アイテムを選び樽の前に立つ。
どうやら、フラムとクラフトで対応するようだ。
「今までのデータから、フラム一発で壊された樽はありませんわ。まずは、フラムで様子見ね」
アイゼルがフラムを使い、樽を攻撃。
大きな音がして、煙が晴れた後そこには多少傷ついた樽の姿が。
「結構丈夫ですわね。では、またフラムで」
ここはクラフトあたりで様子見はしないのか。なるほど、だったら、次の次ぐらいかなぁ…。
フラムの爆発の後、そこにあった樽はクラフトの爆発でも耐えれそうにない感じだ。
けれど、アイゼルが選んでいるアイテムはクラフトのみ。
さて、どうするか。
アイゼルは自分が所持している中で一番威力の少ないクラフトを構える。
うん、それしかないよね。フラムなんて使ったら木っ端微塵だし。
けど、クラフトでも威力は僅かに大きい。
アイゼルがクラフトに魔力を込め……って、魔力を込める量が少ない。
「これで終わりですわ」
魔力少のクラフトを使い、クラフトは普通より少しばかり爆発力の少ない爆発をし、見事に樽を破壊した。
中には…なんだろう、アクセサリーっぽいかな?
アイゼルは救出したアクセサリーを所持していたハンカチで丁寧に包み、私に手を振り戻ってきた。
「フレイ、無事終わりましたわ!」
「あとは、私とエリーだけね。って言ってる側から呼ばれたわ」
名前が呼ばれたので、私は小走りでケルヒャー先生の元へと走っていった。