第十話:暗殺者はディアのスキルを知る
王都からトウアハーデに戻ってくる。
思った以上に戻ってくるまでにいろいろとあった。
……蛇魔族ミーナとの邂逅。
ファリナ姫からの第二王子の暗殺依頼。
どちらもとんでもなく重い案件だ。
「うーん、懐かしの我が家だね」
ディアが屋敷に戻ると、そう言いながら伸びをする。
ディアがそんなことをいうものだから笑ってしまう。
「ああ、ルーグ笑うなんてひどいよ!」
「すまない。からかっているわけじゃないんだ。あまりにも自然で、本当にディアがトウアハーデになったんだなって嬉しくなったんだ。……二人とも馬車の長旅で疲れただろ? 昼食までゆっくりと体を休めてくれ。午後から、いよいよ鑑定紙を使う」
「どきどきするよね。すごいスキルがあるといいなぁ」
「はい、強いスキルがあればもっとルーグ様のお役に立てます」
馬車のなかではその話題で持ち切りだった。
さっさと使っても良かったのだが、ディアの提案でお預けにした。
スキルを試せる環境で、みんな一斉に使ったほうが面白いと言い出したのだ。
その気持ちは理解できるので同意した。
……俺も一度部屋に戻ろう。
忙しくなる前にやっておきたいことがあった。
◇
母さんが作ってくれた昼食を楽しんで、俺たちは訓練場に集まっていた。
見た目はただの白紙をタルトとディアに渡す。
これが鑑定紙。
非常に貴重なもので、貴族でもなかなか手に入らない。
それを聖騎士としての権限でなんとか譲ってもらった。
「ちゃんと、三つありますね」
「せーので使うよ」
「俺はいい」
「えええ、どうして?」
「使ったことがあって、スキルを知っているんだ」
正確には転生前に女神に教えてもらっていたから知っている。しかし、それを言うわけにはいかないので、誤魔化す。
「うわぁ、ずる。でも、それならどうして三枚も手に入れたの?」
「こういう機会でもないと手に入らないから、一つは予備にとっておこうと思ってな」
今のところ、俺の暗殺チームはタルト、ディア、マーハ含めて四人。
マーハは実働部隊ではないため、スキルを確認する必要性は少ない。
しかし、予定にはなくとも今後メンバーが増える可能性がある。
「ふーん、新しい仲間ね。ルーグ、次も可愛い女の子だったら、わざと女の子ばっかり集めてるって、ちょっと疑っちゃうよ」
「そうなるかもしれないな。仲間は人格と能力を重視する。性別は選考外だ。今までも、これからもな」
まぎれもない事実だ。
ディアが師匠とやってきたのは偶然。
トウアハーデ領で魔力をもっている子を探し回っている最中にタルトと出会ったのも偶然。
ムルテウの孤児院でマーハに出会ったのもそうだ。
俺は一度たりとも女性の仲間を探したことなどない。
結果的にそうなっているだけだ。
「わかってるけど、ちょっとぐらい慌ててよ。昔のルーグはもっと可愛げがあったのに。お姉ちゃんっていつも後ろにくっついて」
なかなか難しい注文だ。そして後半はすごい勢いで過去がねつ造されている。
「とにかく、二人とも鑑定紙を使ってくれ。その紙に思いを込めれば使える」
「いよいよだね……スキルなかったら、どうしよ」
「私、自信がないです。取り柄とかあまりないですし」
「タルトは料理が得意だよ」
「ディア様、せっかくのスキルが料理だったら逆にがっかりしちゃいます……」
期待に不安を膨らませていた先ほどとは違い、いざ使うとなれば不安のほうもやってきたようだ。
それでも、期待のほうもしっかりあるらしく、二人がわいわい言いながら鑑定紙を握り締めて思いを込める。
すると、スキルとその説明文が浮かび上がる。
これはもはや物理法則や、魔法理論、科学的な仕組みではそうなる理由を説明できない。
いわば神秘や、奇跡というべき現象。
この鑑定紙を作れるものは非常に限られているし、厳重に保護されている。
人ではないという噂すらある。
こうして、実際に鑑定紙を使っているところを見るとその噂は正しいと思えた。
こんなもの、人間が作れるわけがない。……人間が作れたとしても、なにか超常的な何かの力を借り受けているはずだ。
「ふう、白紙じゃないってことはスキルがあるってことだね。私は三つ」
「私も三つです」
ディアとタルトがそれぞれの鑑定紙を持って駆け寄ってくる。
「向こうでゆっくりと見よう」
訓練場の備え付きの机に鑑定紙を広げる。
まずはディアだ。
そこには、彼女の持つスキルが描かれている。
どうやら、鑑定紙には【私に付き従う騎士たち】で得たスキルは描かれていないようだ。
「私、魔法が得意だと思っていたけど、こんなスキルがあったんだね。あと天才だって、ふふん、私は天才だったんだよ!」
「いろいろと納得がいったよ。ディアの魔法制御は異常だったからな……」
ディアはAランクスキル、Bランクスキル、Dランクスキルの三つを保有している。
Aランクスキルを得られるのは、百万人に一人。
その時点で、ディアは特別な存在だ。一万分の一のBランクまで持っているのは奇跡と言っていい。
・【虹色の魔術士】
Aランク。
魔力制御・魔力放出量に上昇補正。
また、任意属性への変更が可能。変更手順は望む属性の魔法を詠唱すること。変更後一時間変更不可。
・【天才】
Bランク。
計算力・思考力・記憶力・発想力に優れる天才になる。
・【老化耐性】
Dランク。
第二次性徴期終了後、老化速度が抑制される。
【虹色の魔術士】が目玉スキルと言えるだろう。
魔法の精度と威力、両方を底上げしつつ、任意の属性変換。
俺の場合は四属性使えるが、光と闇は使えない。
しかし、ディアは特異属性である光と闇属性すら使えてしまう。
「すごいですね。ディア様。強くて便利そうなスキルばかりです!」
「今まで微妙に宝の持ち腐れだったけどね。属性が切り替えられるなんて知らなかったよ。だって、自分が使えない属性の魔法なんて詠唱してみようなんて思わないよ。どうせ、使えないんだもん」
「そうだろうな。ディア以外にも、発動条件を知らずに宝の持ち腐れをしている者は多いだろう。鑑定紙を使って良かった。天才も羨ましいスキルだ」
【天才】は非常に汎用性が高いスキル。
転生前に【成長限界突破】とどちらにしようか悩んだぐらいだ。
「……でも、ちょっと微妙な気持ちだね。私は努力ですごい魔法を唱えられるようになったって思ってたし、魔法作りだってがんばった成果だって思ってた。でも、こうしてスキルを知ると、スキルのおかげでしかなかったんだって」
ディアが影を含んだ笑顔になる。
「それは違うな。あくまで才能があるだけだ。いくら才能があっても、それを伸ばさないと意味がない。それをしてきたから今のディアがいる。そんなディアのことを俺は尊敬する」
才能があっても、それに溺れてなにも為せない、そんな人間を何人も見てきた。
正しく才能を伸ばすことはひどく難しく、できるのはほんの一握りだ。
「ルーグってたまにくさいこと言うよね」
「……うっ、自覚はある」
「だけど、ありがと。とっても嬉しいよ。さっそく、属性を切り替えてみたいね。どうせなら、光か闇がいいかな。それ以外のは私とルーグで、一通り使ったことがあるし」
新たな魔法を作る際に、既存の魔法を分析して、ルールを導き出し、オリジナル魔法を開発してきた。
俺たちは手分けをして、四属性の魔法についてはほぼほぼ覚え、分析材料にしている。
しかし、特異属性である光と闇は手付かず。
属性を変更して、光と闇の魔法を何度も唱えて新しい魔法を得ていけば、新たなルールを発見できるはずだ。
それも大きな収穫と言える。
「光の魔法を使える知り合いに心当たりがある。手紙を書いて、光の魔法の式を送ってもらえるよう頼んでみよう」
「驚いた、そんな人いるんだ」
「ああ、最近知り合ったんだ」
……最近、顔を合わせたばかりの人物だ。
その人物はネヴァン。ローマルング公爵令嬢。
彼女は、光の魔法を使える稀少性から、輝きの姫君という二つ名を持つ。
以前なら、こちらから声をかけるなんて恐れ多くてできないが、今は第二王子の暗殺のためという免罪符がある。
協力は得られるはずだ。
二人で盛り上がる俺たちを後目にタルトは最後のスキルをじっとみていた。
「【老化耐性】、羨ましいです。ずっと綺麗なままでいられて。きっと、そっちのほうがルーグ様に喜んでもらえる」
「俺が喜ぶかは置いておくとして、誰だって老いたくないだろうな。すごいスキルだ。……もしかして、ヴィコーネの女性って、これが遺伝していたりしないか? 母さん、絶対このスキルを持っているだろう」
脳裏に四十を超えているのに二十前でも通じる母の姿が浮かび、笑顔で手を振っていた。
ごく一部の特殊な家系ではスキルが遺伝すると聞いたことがある。
そうであれば、母の異常な若作りも説明できる。
「否定できないよ。でも、このスキル要らないかも。だって、きっとこれのせいだよ! 背が低いし、私の胸が大きくならないの! 第二次性徴期ってなんのことかわからないけど、老けないって成長しないってことだもん。これさえなければ、私だってタルトみたいに」
恨めしそうにディアがタルトの胸と鑑定紙を交互に見ている。
……あえて言わないが。おおよそ第二次性徴期は十代後半までだ。
今時点で悪影響なんてあるはずがない。
「あははは、でも大きいのは大きいので大変ですよ」
「……大きい人は皆そういうよ。とにかく、私のほうはこれで終わりだね。タルトのほうを見よ!」
「はい、これが私の鑑定紙です! 良かったです。私もAランクのスキルがありました!」
タルトのスキルはAランク、Cランク、Dランクの三つ。
ディアだけじゃなく、タルトもAランクスキルを持っている。
これはたぶん偶然じゃないだろう。
女神が何かしらの介入をしたのかもしれない。
そこは疑うべきだが、Aランクスキルを持っているのは純粋にありがたい。
しかも強力なスキルだ。
……それに面白い。
タルトのスキルを見たとき、俺は心の底から、タルトらしいスキルだなと苦笑してしまった。
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