第九話:暗殺者は見抜く
ローマルング公爵及び、ファリナ姫との密会が終わり、俺とタルトは部屋に戻る。
すると、ディアが出迎えてくれた。
珍しく、お茶を淹れてくれる。俺の後ろでげっそりしているタルトを気遣ってのことだろう。
「お疲れ、ルーグはいつも通りだけど、タルトはしんどそうだね」
「ううう、疲れました。一言もしゃべってないですけど。空気がすごく張り詰めていて」
「タルトはそういうの苦手そうだよね。それで、面白い話が聞けたの?」
ディアの視線の先は俺だ。
「ああ、面白い話が聞けた。それについて話そうと思う」
暗殺チームには内容を話す許可をもらっている。
その許可を出すなら、初めからディアも一緒に参加させてほしかった。
茶を飲みながら、一通り、第二王子の暗殺について話をし終わると、ディアが顎に手を当てて思考をまとめ、それから口を開く。
「どうして第二王子なんだろ。その話だと、グランフェルト伯爵夫人を狙った方がよくない? 第二王子が正気を取り戻してくれるかもしれないし、王子を殺すよりずっと楽だよ」
「いくつか理由が考えられるな。第二王子は今までローマルング公爵とファリナ姫のいい操り人形だった。だからこそ、第二王子は彼女たちの手口は読める。……下手をすれば、恋人を殺された怒りの矛先がファリナ姫に向けられるかもしれない」
第二王子はあくまで操り人形。
本人に能力はさほどない。
しかし、第二王子という立場があるうえに、ローマルング公爵とファリナ姫のおかげで多くの実績をあげている。
権力だけなら、ローマルング公爵とファリナ姫を上回るのだ。
彼が暴走をして、牙をむけば、あの二人はただじゃすまない。
「たしかにそうかもね。第二王子の立場+実績なら、他の駒じゃ対応できないもん」
他にも王子はいる。
しかし、そちらに乗り換えたとしても、第二王子にぶつけるには弱すぎる駒だ。
ファリナ姫が優秀すぎるからこそ起こってしまったこと。
優秀な彼女は、第二王子を制御し続ける策を用意していたのだろうが、魔族の誘惑はその想定の遥か上をいった。
その策を上回られたからこそ、最大限に警戒していると見るべきだ。
「他にも理由はあるだろう。誘惑されているのは第二王子だけだなんて、あの二人は思っていない。……まずはもっとも有害な第二王子を排除して急場を凌ぎ、それからグランフェルト伯爵夫人の動きを監視し、他の壊れた駒を見つけてそちらも処分。どの駒が壊れているかもわからない状態でグランフェルト伯爵夫人を殺して、向こうの駒が暴走したらこの国は終わりだ。愛というのは怖い。理屈が通じないからな。今の状況で、グランフェルト伯爵夫人は殺せないよ。……即座にグランフェルト伯爵夫人を殺さなければ終わりという状況ならやるが、そうでもないんだ」
それも、グランフェルト伯爵夫人の策略の一つだろう。
簡単には殺されない状況を作り、いずれ自分が狙われても魔族の力による力技でどうにでもする二段構え。
実際のところ、魔族である彼女はここまで深く入り込めた時点で、アルヴァン王国を潰すだけならいつでもできる。
それをしないのは、グランフェルト伯爵夫人という立場を楽しんでいるから。
国を壊すことより、国で力を得て享楽にふけることに重点を置いている。だからこそ、アルヴァン王国を壊すような真似はしない。
俺は舞台裏を知っているから、そのことがわかるのだが、あの二人はそれを彼女の行動から読み、盤面そのものはぶち壊さないと確信したうえで、グランフェルト伯爵夫人とゲームをしているのだ。
「すごい人たちだね」
「まあな、あの血筋は怖いよ。ローマルングが目指すのは人間の進化、その果てに真の人間になること。それを何百年も繰り返した成果が、ローマルング公爵でありファリナ姫だ」
「人間から進化して人間っておかしくない?」
「価値観が違うんだ。彼らからすれば今の人間は未完成で不完全の人間未満。だから、完璧な部分を集め、磨き上げ、そうすることで本当の人間になる。そういう考えだよ」
品種改良ばかりに目が向けられがちだが、ローマルングは才能を磨き上げる、つまり教育にも余念がない。
品種改良にかけた数百年と同じ時間を教育にもかけている。
「うわぁ、そこまで行くとちょっと引いちゃうね」
「こんなもんじゃないがな。いろいろと伝説が残っている」
有名な逸話がある。血を得るためだけに、公爵家の戦力だけで戦争を起こし国一つを滅ぼしたことがある。
そこまでしなくても血を得る方法はあったが、遺恨を残せば、国家間の問題となり、王国への不利益になり王家の利益と相反する。だからこそ、完全に潰し、そのあとの周辺諸国へのフォローも完璧に行った。
加えて、あそこは同時並行で物事を為す。とくにその時代の最高傑作が男であれば、それこそいいと思った女性がいれば、とにかく子を産ませる。
そうして、その最高傑作以外は優秀な家臣として本家に尽くす。最高傑作に選ばれなかったローマルングは失敗作として、上位数人以外はローマルングの名を語ることはできず、子を為すにも制限がある。ローマルングの純度がさがるからだ。
例外は最高傑作が壊れた場合の予備での繰上り。
それを一族すべてが受け入れている。あそこまで純粋な一族は他に知らない。
今の世代の最高傑作が女性で良かったと思う。もし、違えばタルトやディア、マーハまでも目をつけられる可能性があった。
もう少しローマルング公爵が若くてもアウトだったかもしれない。……もし、彼女たちを狙うなら俺は彼と敵対していただろう。
「私、ルーグ様の後ろにいても怖かったです。それぐらい、纏ってる空気が違う人で。あと、マーハのことが知られているのには驚きました」
「驚きはしたが、あそこまでならいい。俺とマーハが恋人だという情報、それは俺とマーハが用意した囮だよ。人間、こちらが隠している秘密を見つけると安心してしまうからね。そこから踏み込んでさらなる真実を見つけようとはしない」
俺とマーハが恋人だというのは、ダミー情報。
超一流の諜報機関が本気で動けば、見つける程度に隠蔽している。
それを見つける苦労が大きければ大きいほどに信ぴょう性が増す。ここまでして隠している情報なら本物だろうと思い込んでしまうのだ。
加えて、俺とマーハの関係は、そうとも見れるものだし、オルナとトウアハーデの取引は隠すべき情報。向こうが満足するだけの俺の弱みだ。
だからこそ、イルグ・バロールと俺が同一人物とつながらせないためのストッパーになってくれる。
「相変わらず、用意周到だね。でも、一方的にやり込められて面白くないかも。一番大事な情報を隠しているって言っても、オルナやマーハが狙われたら痛いってことは変わらないし。なにか、向こうに弱みとかないのかな」
「あるな。さっきの会談で、ファリナ姫とローマルング公爵の秘密を見つけた」
「うわぁ、よくそんなことができたね」
向こうは気付かれたことにすら気付いていないだろう。
この魔眼、トウアハーデの秘宝があったからこそ気付けたことだ。
その秘密をここで告げる。
「ファリナ姫の父親はローマルング公爵だ」
「あの、ルーグ様、影武者がローマルング公爵令嬢だってことは秘密ですが、別に脅しにはならないんじゃ、王家の人ならみんな知ってますし」
「ネヴァンも娘だが、ファリナ姫もローマルング公爵の娘だ。あの二人は双子だよ」
「えっ、ええええええええええ!」
タルトが驚いた声を上げる。
「この眼は魔力が見える。魔力にはそれぞれ色があるんだ。親子だとある程度似てしまうし、双子ともなるとほぼ同一。ファリナ姫はローマルング侯爵の姪のはずだが似すぎている。ネヴァンとはほぼ同一だ……表向きは、ファリナの母親の婿養子にローマルング公爵の弟が収まっている。しかし、間違いなくファリナ姫の父親はローマルング公爵本人だ」
いったい何でそんな回りくどいことをしたのか知らないが、そこは間違いない。
王族との不倫なんて話、それも体を重ねただけじゃなく子まで産ませたともなれば大スキャンダルだ。
……ローマルング公爵が王女に双子を産ませ、王族の証たる桜色の髪であるファリナを王家に残し、王族の証がないネヴァンを自分の子として引き取った。
ファリナに肩入れするはずだ。自分の娘なのだから。
それは親の愛なんて理由じゃない。ファリナ姫自体が、ローマルング。あの家の本懐たる真の人間への到達を果たすのに便利だから。
次代の最高傑作はネヴァンだと思っていたが、その実ファリナ姫こそがそうであり、ローマルング公爵は真の人間作りの舞台を公爵家から、王家に切り替えるつもりかもしれない。
ただ、俺の感覚だけでしか、親子関係を示す証拠がないという、今の状況では弱い。
向こうが俺とマーハの関係を調べたように、こちらも調べさせてもらい、証拠をつかもう。
「王族と不倫なんてまともな神経じゃできないよ。そんなのに狙われるルーグってやばくない? というか、どうせなら勇者とくっつけばいいのにね。技術ならルーグが上だけど、向こうが欲しいのって先天的な生き物としての強さだよね」
そうか、ディアはまだエポナが女だとは知らないのか。
しかし、もし男だとしてもローマルング公爵はエポナを選ばなかった。
「いや、ローマルングが目指しているのは真の人間だ。勇者や魔族は化け物で、人間と認識してない。彼らは人間の究極を目指しているんだよ。そこを踏み外せば、化け物に落ちるとね」
ただ力を求めるだけなら、魔族、魔物、そのあたりの強力な生物の因子を取り込めばいい。
……成功例はごくわずかなものの、力を求めてそういったことをした家もある。
だが、ローマルングはそれを選ばない。
彼らは人間を愛している。愛しているからこそ、その可能性を信じ、そこにかけている。混ざりものはいらない、人間のまま究極に至れると。
「そうなんだ。なら、ルーグは勇者になっちゃおう!」
「ディア様すごいです。そしたら、もう狙われることがなくなります!」
「……そんな簡単になれたら苦労しないさ」
女神ですら世界に一人しか生み出せないイレギュラーなのだから。人がどうこうできるものじゃない。
「ともかく、これで王都での用事は終わりだ。一度、トウアハーデに戻る」
「あの、第二王子の暗殺はいいんですか?」
「今すぐできなくもないがリスクが高い。王族殺しの場合、証拠がなくとも疑われた時点で死罪なんだ。期限は二か月もある。万全を期すべきだろう。ファリナ姫から、第二王子のスケジュールが来るのを待つ」
もっとも、そのスケジュールを見なくとも、ほぼほぼ殺すタイミングは決まっているが。
ちょうどお誂え向きのイベントがある。
「ふう、やっと帰れるね」
「嬉しいです。菜園の様子が気になってました」
「タルトはともかく、ディアはここでの暮らしは気に入ってなかったか?」
「快適だけど、やっぱり工房がないから研究が捗らないよ」
……工房、それはトウアハーデの屋敷にある一室をディアが徹底的に改造した魔境だ。
式を書き換えることで行われる魔法開発で、なぜそんなものが必要か、理解できてないが、事実それで成果を出しているのだから文句は言えない。
今度、あそこで何をしているか見せてもらおう。
「そうか、帰ってからも忙しいぞ。前回の魔族との戦いはぎりぎりだった。だから、強くならないといけない。二つやることがある。一つ目は、ようやく鑑定紙を受け取れた。これで二人のスキルを見て、スキル次第で戦闘スタイルを見直す」
「あっ、やっと手に入ったんですね」
「それ、一回見てみたかったんだ」
聖騎士権限で取り寄せを頼んでいたが、向こうでトラブルがあったらしく、ようやくのご到着だ。
二人のスキル次第では、できることも増える。
「もう一つは、俺たちの持つ【可能性の卵】をスキルに変えることだ。こいつは俺たちの心を写す鏡。必ず、必要なスキルになる」
その人物の生き方、渇望、そういったものを読み取り、適したスキルに変化する。
場合によってはSランクスキルにもなる。
だからこそ選んだものだ。
次に魔族と戦う前に新たなスキルは得ておきたい。
「ルーグ、でも、その卵ってどうやって孵すの」
「私もわからないです」
「実は俺もわからない。調べているところだが、手探りでいろいろやってみよう」
エポナに話を聞いてみようか。
もともと彼女のスキルだ。何か知っているかもしれない。
王都を出る前に挨拶をしていこう。
……それにノイシュのことも頼んでいかなければならない。
あの力への渇望、加えて蛇魔族のミーナが彼を気に入ってしまった。
どうしても、彼のことが気になるのだ。
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