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世界最高の暗殺者、異世界貴族に転生する 作者:月夜 涙(るい)

第三章:暗殺者は受け継ぐ

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第十五話:暗殺者は敗北する

2/1にスニーカー文庫様から一巻の発売が決まりました! 是非、読んでください。

 タルトとの試合が始まる。

 普段の気弱なタルトとは違う。

 そう感じたのは正しかった。

 戦法からして違う。

 タルトは俺相手だと、まずは様子を見る。だというのに、いきなり全力での踏み込みからの片手突きを放つ。

 最速かつ、もっとも間合いを稼げる一撃だ。強引に先手を取ろうとしてくる。


 剣を武器にしている俺がどうやっても攻撃できない間合いからの攻撃は効果的。


『速いな』


【獣化】での速度上昇は想定していた。

 その予想を超える速度で、危うくいきなりもらうところだった。

 ……不思議と、身体能力が向上している状態でさらに【獣化】の力まで上乗せしたというのに十全にタルトの技量が活かされている。

 さっき練習を見ていた感じではぎこちなかったのが嘘のよう。


 かろうじて、突進突きを剣で滑らせるが、すぐに引き戻し、連続突きへと切り替えてくる。

 いい間合いだ。剣の届かない、一方的に攻撃できる距離、槍の利点を生かしている。

 そして、速く……重い。

 これだけの連続突きでありながら、手打ちになっていない、一撃一撃に腰が入っている。

 手打ちであれば、弾き飛ばして隙を作り、一気に距離を詰めるのだが、これだけの重さと速度があればそれはできない。


 槍をさばきながら、距離を詰めようとするが、こちらが詰めただけ、下がられる。

 冷静で、正しい動きだ。

 息が上がるのを待とうとしたが、体力面も強化されている。さばいているだけのこちらのほうが先に参ってしまいそうだ。


 手が痺れてきた。これ以上は受けられない。じりじりと敗北が近づいてくる。


「今日のタルトは一味違うな!」


 だが、負けてはやらない。

 距離が詰められないなら、いっそ下がる。

 全力で後ろへ跳んだ。

 槍すらとどかない間合いへ。仕切り直しだ。手のしびれと息の乱れをなんとかする。

 タルトが一瞬硬直した。

 槍と剣との戦いでは、剣側はいかに間合いが詰められるのかが重要。

 だというのに、俺はあえて距離をとったことが想定外なのだ。

 しかし、その迷いも一瞬で、当然のように広がった間合いを加速に使った突進突きで詰めてくる。

 ……ふむ、冷静で効率的ではあるが単調、俺相手に、まったく同じ戦法を取るのはあさはかだ。

 これは矯正が必要だろう。

 俺はタルトが突進突きのための踏み込みとあわせて、全力で踏み込んでいる。


「なっ」


 タルトがろうばいする。

 タルトの突進突きは威力を出すために踏み込みつつ槍を突き出す。

 しかし、こうして距離を詰められれば、槍を十分に突き出す距離が潰され、威力が激減する。

 まあ、それでも剣の間合いに持ち込めるほどには距離が潰せていない。


 しかし、俺は初めからそちらが狙いじゃない。

 こちらもただの踏み込んだだけでなく、突進突き。

 タルトには届かない、狙いは中途半端な一撃となった槍。

 槍の先端と剣の先端がぶつかる。


 そして、槍が砕けた。

 もとより、短い分剛性は剣のほうが強い。

 ましてや、タルトの突きは間合いを潰され中途半端なもの、ぶつかり合えばこうなる。

 加えて、ここで武器を壊され狼狽するタルトと、初めから壊すつもりだった俺との差がでる。

 タルトが硬直した時間を利用し、一歩前へ、超クロスレンジで、左でのショートアッパー。

 剣を引き戻すより、こちらのほうが数段早い。

 顎を揺らし、意識は刈り取れたはず。

 しかし、手ごたえが軽かった。


「まさかな」


 苦笑する。拳が顎を捉える瞬間、タルトは自分から首を逸らした。そのせいで、衝撃は弱まり、さらに打点をずらされ、脳震盪を起こせなかった。

 タルトはまったく反応できていなかった。完全に理外の一撃であり必中。そのはずだったのに、これは獣の本能、第六感による反射で防がれた。


【獣化】でそこまで強化されるとは。

 のけぞったタルトの眼が光ったように感じ、次の瞬間には鈍い衝撃がして体が九の字に曲がる。

 タルトの膝が腹に叩き込まれていた。


「かはっ」


 そこに追撃がくる。この状態では身動きがとれず鈍い衝撃と共に転倒。

 そこにタルトが馬乗りになり、俺の両肩を押さえつける。


「ふう、ふう」


 タルトが息を荒くしながら、俺を見下ろす。

 表情は猛獣のそれだ。

 可愛く見えていたキツネ耳の印象ががらりと変わり、まるで本物の肉食獣のように見える。


「負けたよ。まさか、タルトに一本取られるとはな。どいてくれないか」


 タルトは肩に手を置いて押さえつけるのでなく、喉元に一撃を加えれば俺を殺せていた。

 つまりは、この試合はタルトの勝ち。

 とうとう、負けてしまったか。俺もまだまだ甘い。ショートアッパーを放った瞬間、勝ちを確信した。

 そのせいで、膝をもらった。


 ……どこかで慢心していたのかもしれない。また研ぎ直さないと。相手を死を確認せずに、終わった気になるなんて暗殺者失格だ。


「ルーグさまぁ」


 試合が終わったのに、タルトはどいてくれない。

 それどころか、興奮状態は続いているし、肩に加わる力はむしろ強くなっていく。

 獣の闘争本能か、いや、何か違う。本能には違いないが、これはもっとぎらついた何かだ。


 そんなことを考えていると、服が引き裂かれた。

 すごいな、この服は魔力を織り込んだ糸で紡いだ防具だというのに。


 タルトがもたれかかり、全身を擦り付けてくる。

 尻尾がぶるんぶるんと揺れており、時折太もも辺りに触れてくすぐったい。

 可愛らしい仕草ではあるが、とてつもない力でまったく身動きができない。


 キツネ型の【獣化】は脚力特化だと思っていたが、しっかり腕力も強化され、俺の筋力を上回るようだ。


「はぁはぁ、ルーグ様ぁ」


 信じられないほど体が熱い。

 それに、脳をくらくらさせる匂いがして、俺までおかしくなりそうだ。

 ようやくわかった。


 タルトの眼にある熱い何かは狩猟本能などではなく、ただたんに発情しているだけだった。

 ……ようするに、今の俺はタルトにとって獲物で、襲われている真っ最中のようだ。


 さて、どうしたものか。

 横を見ると、ディアと目があった。

 こちらをガン見している。

 さすがに恋人の前で別の女性に襲われるのは男としてまずいな。


 タルトにとっても、初体験が外で昼間から逆レイプしたなんてものは喜ばしいものじゃないだろう。

 ただ、なんとなくわかる。ここで抵抗すれば理性を失ったタルトに、ひどい目にあわされると。

 獣と化した動けなくなるまで痛めつけて、ゆっくりといただこう。そんなふうに考えているのだ。


 ……仕方ない、俺も【獣化】を使うか。

 あれなら、【獣化】したタルトにも筋力で勝り、押しのけられる。

 ……できれば、いろいろな意味で使いたくないが、そんなこと言っていられない。

 そうこうしているうちに、タルトがもぞもぞと動き、体を擦り付ける段階から先へ進もうとしている。

 そろそろ貞操がまずい段階に来ている。急ごう。

 しかし……。


「ひゃっ、あっ、あっ、わっ、わたし、何を、ごめんなさい! ルーグ様、ぜんぜん、そんなつもりなくて! その、えっと、その」


 タルトのキツネ耳とキツネ尻尾が消えた瞬間、獣欲にぎらついた目からいつもの目に戻り、煙が出そうなほど真っ赤になり、顔を手で覆っている。


「その、なんだ、まずはそこから下りて着衣を直してくれ」

「ひゃっ、ひゃいっ!」


 あられもない姿で、馬乗りになっていたタルトが慌てて降りようとしてこけて、さらに情けない姿をさらす。

 うん、いつものタルトだ。

 いそいそと着衣を治し、それから思いっきり頭を下げた。


「申し訳ございません、ルーグ様、私、目の前が真っ赤になっちゃって、気がついたらあんなことしてて」

「わかってるよ。【獣化】のデメリットだ」


 タルトに逆レイプ願望があるとは思っていない。


「ううう、こんな力もう使わないです」

「もしかして、最初嫌がっていたのは、こうなるって予感がしてたのか」


 てっきり、俺とディアが可愛い可愛いと連呼したせいかと思っていた。


「そっ、その初めて【獣化】したとき、ルーグ様みてたら、変な気持ちになっちゃって、それで」

「そうか。だけど、訓練次第では理性で押さえつけられるはずだ。覚えていないかもしれないが、タルトは俺に勝ったんだ。それほどの力、使いこなさないともったいないだろう」


【獣化】したタルトは強かった。

 身体能力向上、野生の勘。それだけでなく、迷いがなかったことが強さに繋がっている。

 タルトは優しすぎるし、臆病すぎる、相手を気遣ったり、自信のなさからくる躊躇が邪魔になっていた。

 それを【獣化】は取り払ってくれる。


「がんばります。でも、もし私が変なことしそうになったら、そのときは止めてください」

「約束しよう」


 今回のは俺にとって痛い教訓にもなった。

 俺もまだまだ精進が必要だ。

 そんな俺たちのところにディアがやってくる。


「なんか、ルーグさ。あのとき、抵抗らしい抵抗してなかったよね。もしかして、タルトに襲われたかったの? ああいうの好きなんだ。ふうん」


 怒っているのかと思ったが、むしろ表情や仕草を見る限り、俺をからかいたいのが主成分、でもちょっぴり嫉妬という感じか。


「あの状態で下手に刺激したら危険だった。それだけだ」

「……そうなんだ。わかったよ。でも、私はルーグがどんな性癖だろうと受け入れてあげるからね」

「信じてないだろう」

「別に、妙にタルトのキツネ耳ともふもふ尻尾を気に入ってたことなんて気にしてないよ」


 それか。

 たしかに、キツネ耳タルトは可愛い。もふもふ尻尾枕をしてほしいと思うほどに。

 ただ、もふもふ尻尾枕は危険だ。タルトが能力を使いこなせるのを待とう。


 ◇


 そして、それから一週間が過ぎた。

 そのころにはタルトもディアも新しい能力を使いこなせるようになってきたし、鑑定紙の手配も済み、五日後には届くことになった。

 そして……。


「いよいよ来たか」


 魔族らしきものが北の領地で発見されたらしい。

 聖騎士としての派遣依頼。

 魔族と戦かう準備は整っている。

 さて、魔族殺しの魔術、どこまで通用するか、試してみよう。

 これに成功することには大きな意味がある。

 それは、エポナを殺さずにこの世界を救うためにも、勇者以外に魔族・魔王を殺しうるものが次々に現れれば、勇者の負担は軽くなり、エポナが災厄へと変わる可能性は激減する。

 無事、成功させたい。

 改めて、そう思う。

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加筆・書き下ろしも多く、なろう版よりもかなりパワーアップしていますので是非読んでください。下の画像から特設ページに跳べます! いろんな情報盛りだくさんですよ。


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