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映画『セブン・イヤーズ・イン・チベット』(1997年)主演のブラッド・ピット。この映画に出演のため、中国入国禁止リスト入りPhoto: Mandalay Entertainment / Getty Images

映画『セブン・イヤーズ・イン・チベット』(1997年)主演のブラッド・ピット。この映画に出演のため、中国入国禁止リスト入り
Photo: Mandalay Entertainment / Getty Images

ニューヨーク・タイムズ(米国)

ニューヨーク・タイムズ(米国)

Text by Amy Qin and Audrey Carlsen

中国がハリウッド映画作品に資金提供をはじめ、その影響力を強めて久しい。さらに、2018年第一四半期には、映画興行収入で中国が初めてアメリカを上回るまでになった。

なぜこのようになったのか、中国の影響によるハリウッド映画の具体的な変化とはなにか。米メディア「ニューヨーク・タイムズ」があらためてスポットライトを当てる──。

中国批判のハリウッド映画はもうない?


悪者の中国人が登場する映画をあなたが最後に観たのはいつだろうか?

思い出せないとしても、それほど不思議ではないかもしれない。

冷戦ドラマ映画『若き勇者たち』をリメイクした2012年の『レッド・ドーン』を挙げてみよう。敵の中国軍がアメリカのある町を侵略する筋書だった──少なくとも、この脚本の内容がリークされ、中国国営メディアが怒り出すまでは。

結局、「MGM」は100万ドル(1億円超)をかけて中国陸軍の登場部分をひとコマずつデジタル消去し、北朝鮮軍に置き換えていったのだ。

映画『レッド・ドーン』予告編動画より


中国は、アメリカ人が製作し鑑賞する映画が自国をどう描写するかをめぐって、多大な影響力を行使している。

それは、グローバル・ナラティブを統制し、中国は友好的でそれほど強面ではないというイメージを世界に示すために政府が展開している幅広いキャンペーンの一環だ。

中国の活気ある興行売り上げと無尽蔵かと思われる手持ち資金は、米国内での興行不振や「アマゾン」と「ネットフリックス」の追い上げに悩むハリウッドにとって頼みの綱となっている。

だが、それは綱だけに「ひも付き」だった。

そんなわけで、『ピクセル』の製作側が、万里の長城を宇宙人が爆撃して穴を開けるシーンの撮影を望んだとき、製作会社の流出メールによれば、そのシーンのせいで2015年の中国公開は無理かもしれないとソニーの役員陣が心配した。だから、宇宙人は代わりにタージマハールを爆破したのだった。

映画『ピクセル』予告編動画より


1960年代、マーベル・コミックは「エンシェント・ワン」と呼ばれる魔術師のキャラクターを登場させた。彼は高齢のチベット人という触れ込みだった。

「エンシェント・ワン」
Photo: Wikimedia Commons


しかし、2016年の映画『ドクター・ストレンジ』では、エンシェント・ワンは白人女優ティルダ・スウィントン演じるケルト人になっている。製作側が早い段階でこのキャラクターの人種を変えることにしたのは、中国政府を怒らせないためだったと言われている。

たかだか20年前、おもなハリウッド映画は中国を辛辣に批判していた。

1997年の高収益映画トップ100にランクインした『セブン・イヤーズ・イン・チベット』は、中国人兵士によるチベット民族への残忍な仕打ちを描いている。

同年、ディズニーは、毛沢東時代の中国で過ごしたダライ・ラマの幼少期と、その後のインドへの亡命を同情的に描いたマーティン・スコセッシの『クンドゥン』を、中国政府の抗議をものともせずに発表した。

映画『クンドゥン』(1997年)より
Photo: Buena Vista / Getty Images


「『セブン・イヤーズ・イン・チベット』のような作品はもう観られなくなります」

そう語るのは、「ハワイ東海インターナショナルカレッジ」教授でアジアおよびアジア系アメリカ研究を専門とするラリー・シナガワだ。

彼によれば、中国に批判的な映画を製作する会社は、中国で映画公開を禁止されるおそれがあるという。

中国に左右されているのは、ハリウッドのパワーブローカーやスターたちの選別だけに留まらない。

プロパガンダよりハリウッド映画で中国を宣伝!


習近平国家主席は演説や討論会の場で、繰り返し「中国のストーリーをうまく伝える」必要があると強調してきた──中国が覇権国となった物語を、説得力があって首尾一貫した、そしてなにより「共産党公式」の形で世界中の人々にちゃんと届ける必要があると。

「アジア・ソサエティ米中関係センター」代表のオーヴィル・シェルは言う。

「プロパガンダはうまくいかないという考えが当局にはあって、だから映画産業が関与してきます。ハリウッドの巨大な影響力にはほんとうに敏感なんです」

中国が資金提供をする一流映画は数を増し、そうすることでハリウッドへの影響力を強めている。

1997年から2013年の各年興行売上トップ100の映画のうち、中国が資金援助をしたのはわずか12のハリウッド映画に過ぎない。

だが、その後の5年間では、中国の資金提供は上位41のハリウッド映画に及ぶ。

さらにハリウッドの映画会社は、興行が急成長している中国市場に是が非でも一枚嚙みたいと思っている。2018年の第一四半期に、中国は初めて総収益でアメリカを上回った。

中国での成功は、自国での期待はずれな興行成績の埋め合わせができるし、世界的大ヒットに化ける可能性さえある。同様に、中国市場から締め出されれば、その映画は壊滅的になりうる。

それが中国を怒らせないようにする強い動機なのだ。

中国の映画規制委員のある上層部は、2013年にロサンゼルスで開かれた米中映画サミットのスピーチでそのことを明確にした。

「我が国には巨大マーケットがあり、皆様と分かち合えればと思っています」

ハリウッドの重役たちがひしめく部屋でそう語ったのは、当時、国営の中国映画合作会社の社長だったツァン・シュンだ。

ただしそれは条件付きだった。

「我々が望むのは、中国文化に深く関わるような映画です。1、2ショットで終わるものではなくて、我々は中国のポジティブなイメージを観たいのです」

外国に中国のポジティブイメージを植えつけようとするキャンペーンは、ハリウッドを超えて広がっている。

『グレートウォール』(2016年)は、マット・デイモン主演で1億5000万ドル(約170億円)をかけた中国とハリウッドの合作映画であり、クロスオーバー・ヒットを狙った中国の最も注目を集めた試みだった。しかし、これはどう見ても国際的失敗作だった。

中国入国禁止のセレブたちとその理由


以来、中国は高額な経費のかかる合作モデルから退いて、巨大かつ拡大中の国内市場に迎合する呼び物に焦点を絞っている。そのために、ハリウッドスターを、プロデューサー、技術専門家、そしてトップ俳優に至るまでリストアップしている。

だが、まっとうな路線をいくスターでないとダメなのだ。

多くの俳優やミュージシャンなどの有名人が、その態度が中国共産党にふさわしくないとか批判的だとみなされて入国を禁じられている。以下が入国拒否の理由の数例だ。

ジャスティン・ビーバー:中国当局によれば、「素行不良」。

ビョーク:公演の最後に「チベット、チベット」と叫んだ。

ジョン・ボン・ジョヴィ:コンサート中にダライ・ラマのイメージを使った。

マイリー・サイラス:写真撮影で「つり目」のポーズをした。

レディ・ガガ:ダライ・ラマと会見。

エルトン・ジョン
:中国人アーティストで活動家の艾未未に公演を奉げるとした。

ケイティ・ペリー:台湾での公演で反中国のシンボルであるひまわり模様の衣装を着用。

ブラッド・ピット:1997年の映画『セブン・イヤーズ・イン・チベット』に主演。

ケイティ・ペリー、上海コンサートにて。2015年4月21日
Photo: Feature China / Barcroft Media / Getty Images


「中国の視点」を世界にお届けする


おそらく、中国のソフトパワー・キャンペーンの中枢は国営の「CCTV(中国中央テレビ)」の国際部門「CGTN(中国グローバルテレビジョンネットワーク)」だろう。従業員の出身は70以上の国と地域にわたり、英語、スペイン語、フランス語、アラビア語、ロシア語で放送されており、その使命は世界の視聴者に「中国の視点からの」ニュースを届けることだ。

CGTNの今年の報道で「中国の視点」の特異性が最も顕著だったのは、中国憲法で定められた国家主席の任期制限を撤廃するという突然持ち上がった法案に関してだった。

西側諸国のメディアは、習主席の無期限政権に門戸を開くことになるこの法案が、いかに前例のないものであるかをこぞって説明したのに対し、CGTNのキャスターたちは平然と、薄気味悪いほど皆一様に、この改変を称えるコメントをした。

中国による映画やメディア、文化的プロジェクトを通じた自国イメージ融和キャンペーンが、功を奏してきたかどうか見極めるのは難しい。

中国社会と映画を研究する南カリフォルニア大学教授のスタンレー・ローゼンは言う。

「発展途上国以外で中国のソフトパワーが成功した例はありません。中国になんらかのソフトパワーがあるとすれば、おそらく経済的成功と現在強力に推し進めている中国モデルのおかげでしょう」

© 2018 New York Times News Service

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