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『情報未来』

当社の研究、コンサルティング、事例から厳選された、お客様の問題解決に役立つ情報誌です。

No.58(2018年4月号)

特集:多様化するリスクへの対応

“不動産テック カオスマップ”2018年3月版 考察レポート

川戸 温志
川戸 温志
NTTデータ経営研究所 情報戦略事業本部 ビジネストランスフォーメーションユニット マネージャー

かわと あつし
大手システムインテグレーターを経て、2008年より現職。経営学修士(専門職)。IT業界の経験に裏打ちされた視点と、経営の視点の両面から、ITやテクロノジーを軸とした中長期の成長戦略立案・事業戦略立案や新規ビジネス開発、アライアンス支援を得意とする。金融・通信・不動産・物流・エネルギー・ホテルなどの幅広い業界を守備範囲とし、近年は特にネットビジネス(X-Tech)やロボット、AI、ビッグデータ、IoTなど最新テクノロジー分野に関わるテーマを中心に手掛ける。

盛り上がりを見せ始めている国内の不動産テック

 2017年8月、コワーキングスペース開発・運営のスタートアップWeWork(ウィワーク)がSoftbank Group及びSoftbank Vision Fundから44億ドル(日本円にして約4800億円)の巨額投資を受けることを発表し世界を驚かせた。WeWorkの企業評価額は、2017年時点で約200億ドル(約2兆2000億円)を超えるとも言われている。

 スタートアップの資金調達状況など未公開企業のデータベースサービスを提供するCB Insightsによると、グローバルにおける不動産テックの非公開投資額は2014年に約11億ドル、2015年に19億ドル、2016年には26・6億ドルと大きな盛り上がりを見せている。

 一方、日本国内でも2014年・2015年頃より不動産テックのサービスが続々と登場しているが、筆者の実感として2017年は大手の不動産会社は勿論、商社や金融機関、様々なメディアなどから問い合わせを受ける機会が従来よりも大きく増え、盛り上がりを見せ始めたと感じている。

不動産テック カオスマップ 最新版

 日本国内の不動産テックのカオスマップは昨年第2版まで作成され、不動産テック企業のリマールエステート社やQUANTUM社、その他の有識者と共に筆者も携わらせて頂いたが、この度3月に第3版が発表された。

 第3版の特徴としては大きく2つある。まず、第一に新カテゴリーの追加である。第2版で「業務支援」としていたカテゴリーを「仲介業務支援」と「管理業務支援」に分けている。また、新たに「リフォーム・リノベーション」を追加した。第二に掲載サービス数の増加である。第2版の掲載数が91だったのに対して、第3版では82増加して合計173とほぼ倍増している。カテゴリー別の増加数で見ると、「管理業務支援」が22の増加、「仲介支援」が13の増加、「マッチング」が11の増加と顕著である。また、第2版と比べた増加率でみると、「リフォーム・リノベーション」が333%、「管理業務支援」が300%、「仲介業務支援」が263%、「VR・AR」及び「Io T」が250%と顕著である(図1)。

 このように第2版と第3版の比較より言える動向としては大きく3つある。第一に「仲介業務支援」や「管理業務支援」といった所謂B向け(不動産事業者向け)サービスの増加。第二に「リフォーム・リノベーション」の盛り上がり。第三に「VR・AR」「IoT」といったブラウザ上で動くようなソフトウェアやアプリに閉じることなく、ハードウェアも組み合わせたサービスの増加である。早速、これらのカテゴリーについてその動向を見ていきたい。

図1| 「不動産テック カオスマップ」の第2版と第3版の違い

図1| 「不動産テック カオスマップ」の第2版と第3版の違い

出所:「不動産テック カオスマップ」第2版・第3版を基にNTTデータ経営研究所にて作成

仲介業務支援 / 管理業務支援

 「仲介業務支援」及び「管理業務支援」は元々第2版では「業務支援」というカテゴリーであった。「業務支援」の定義としては、B向けの支援サービスが中心であり、業務効率化を支援するシステム・サービス、または不動産情報や顧客情報の管理・運営を支援するシステム・サービスである。こうしたB向けの支援サービスの中で、不動産テックが仲介取引と親和性が高いこともあり、仲介業務に関わるもの・特に仲介業務を支援するサービスを「仲介業務支援」としている。そして、「仲介業務支援」を除くB向けサービスを「管理業務支援」としている。

 B向けの業務支援系の不動産テックが多い背景・理由として、B向けとは逆のC向けの不動産テックには大きく3つのハードルがあるため相対的にB向けが増加しているものと考えている。第一に、日本国内の不動産市場ではC(消費者)の意識が十分に育っていない点が挙げられる。例えば、住宅の購入価格は東京都下のマンション相場だと平均4500万円程度、日本人の住宅購入機会は1・3回。35年ローンを組んで住宅を購入したという話が示すように、まさに人生一度きりの大勝負である。大勝負が故に自ずと ”失敗したくない “という思いが強く働くため、認知度の低い不動産テックのベンチャーの利用ハードルは高い。実際、2017年2月に弊社が実施したアンケート調査『企業のX-Techビジネスの取り組みに関する動向調査』※1において、FinTech(フィンテック)などと共に不動産テックの認知度を調査したところ、FinTechが17・9%でトップだったのに対して、不動産テックは最下位の3・1%であった。つまり、イノベーター理論で言うと新聞・雑誌・Webニュースでよく取り上げられるFinTechがようやくキャズム(溝)を超えたのに対して、不動産テックはイノベーターからアーリーアダプターへ差し掛かった程度である(図2)。

 第二に業界団体の影響力がある。日本の不動産業界は、製造業や情報通信業、金融・保険業など他の業界と比べると1事業所あたりの従業員数が極端に少ない産業構造である。これは地場の不動産事業者、所謂 ”まちの不動産屋さん “が圧倒的に多い業界であるため、その代表である業界団体の影響力が強いのは当然である。

 加えて、業界構造の問題もある。日本国内の不動産業界は、マンション・ビル・商業施設が土地と金流を握るデベロッパーを頂点とするピラミッド構造であり、特に旧財閥系に代表されるグループや系列によるエコシステムとなっている。このエコシステムは高度経済成長期のような新たな建物を次々と建てていく時代では大変有効であるが、昨今の不動産テックのような業界の壁が無くなり異業種のプレイヤーと積極的に組んでいく時代においては、不動産や建設の業界だけに閉じた硬直的なエコシステムが支障となっている点も否めない。

 第三にIT環境の視点として、不動産情報基盤や情報流通環境としての整備遅れがある。米国でC向けの不動産テックが盛り上がった要因の1つがMLS(Multiple Listing Service)と呼ばれる不動産情報基盤である。詳しくは別稿※2に譲るが、日本にもREINS(レインズ)が存在するものの情報の網羅性、不足するデータ項目、低い登録率、情報のタイムリー性の点でREINSは課題も多い。

 以上3点より、日本国内ではC向けの不動産テックのハードルが高く、現時点ではB向けの不動産テックのほうが浸透しやすいと言える。更に付け加えると、不動産業界に限らず日本全体の産業において、”攻めのIT “よりも ”守りのIT “のほうがIT導入がし易い傾向にあることも一因であろう。不動産業者としても従来、労働集約的に行っていた業務がITによって効率化・高度化されることは歓迎しやすいことからB向けの支援サービスは今後も拡大していくものと考える。

図2| X-Techの認知度調査結果

図2| X-Techの認知度調査結果

出所:NTTデータ経営研究所 調査レポート 企業のX-Techビジネスの取り組みに関する動向調査

https://www.keieiken.co.jp/aboutus/newsrelease/170210/

  1. ※1 https://www.keieiken.co.jp/aboutus/newsrelease/180202/
  2. ※2 筆者執筆の下記「不動産テック関連レポート」参照。
    ・“不動産テック”(ReTech:Real Estate Tech)カオスマップ2017年版 考察レポート 
    http://www.keieiken.co.jp/monthly/2017/0601/index.html
    ・不動産テック(ReTech:Real Estate Tech)の有望領域はどこか? 
    http://www.keieiken.co.jp/monthly/2016/0921/index.html
    ・不動産業界のプレイヤーは、不動産テックとどう向き合うべきか ReTech:Real Estate Tech 
    http://www.keieiken.co.jp/pub/infofuture/backnumbers/51/no51_report12.html
    ・スマートホームからVR内見まで--2018年不動産テックの行方 
    https://japan.cnet.com/article/35113305/

リフォーム・リノベーション

 リフォーム・リノベーションのカテゴリーは好調である。矢野経済研究所※3によると、住宅リフォームの2017年の市場規模は約6・2兆円、2020年の市場規模は2016年比約17%増の7・3兆円の拡大と予測している通り市場が大きく後押ししている。実際、カオスマップ中の『リノべる』を提供するリノべるは2017年度の売上が前年比20%増の50億円を超える見通しであり、『Renosy(リノシー)』を提供するGA technologiesは創業わずか4年で売上約96億円と急成長している。当該カテゴリーの不動産テックのサービスは、一部を除いて高度なテクノロジーは特に活用していない。どちらかと言えば一般的なITを活用することで、「リフォームやリノベーションの見積書の妥当性(単価・数量)や適正価格がわからない」や「適切なリフォーム業者を選びたいが、業者を評価する術や情報がなく選べない」といった昔からある課題を解決するサービス、リフォーム・リノベーションの優良物件に特化した物件情報ポータルサイトといったサービスが多い。リフォーム・リノベーションの不動産テックでは、Cとの直接取引の接点を持つことでCの属性情報や物件情報、取引情報など多くのデータを獲得することができる。これはデータが競争優位性の源泉となりうるテック系ビジネスにおいては大変重要であり、またビジネスモデルとしても持続的にLTV(Life Time Value:顧客生涯価値)を高める方向性へと展開しやすい。

  1. ※3 株式会社矢野経済研究所「住宅リフォーム市場に関する調査」

VR・AR、IoT

 VR・AR、IoTについて触れておきたい。VRは、VR技術を活用した物件を擬似内見などで提供するシステム・サービスを指す。不動産会社のWebページ等での活用が一般化してきているが、まだ収益に大きく寄与しているとは言い難く、現時点では新規性のあるプロモーションの意味合いが強いように感じられる。むしろ、VRの活用領域としては設計時のオーナーや業者間のコミュニケーション活用など業務支援的な活用のほうが有望だと感じている。

 IoTは、各種センサー等の連携によりリアルタイムで不動産の状況を確認できるシステム・サービスや、スマートロックを用いた入退室管理システム・サービスを指す。昨今はようやくスマートロックが以前に比べ普及し始めている。その背景として、賃貸物件の無人内覧サービスの広がり、空きスペースのシェアや民泊など所謂シェアリングエコノミーのビジネスの広がりが関係しているものと推察する。また、昨今は『Google Home』や『Amazon Echo』といったスマートスピーカーと連動させて住宅設備や家電が動く所謂スマートホームも広がってきている。詳しくは別稿※2に譲るが、スマートスピーカーとの連動は冒頭のWeWorkも取り組むと発表しており、スマートホームはIT業界、家電業界、不動産業界の各業界の大手プレイヤーが入り乱れる戦略的要所であり、今後注目すべき領域である。

さいごに

 詳しくは別稿※2に譲るが、将来的にはシェアリングやクラウドファンディングなども有望なカテゴリーである。このように日本国内の不動産テックは昨年より盛り上がりを見せ始めている。不動産という特別な商品特性と消費者の価値観、特殊な業界構造によるハードルはあるものの、 ”情報の非対称性 “や ”不動産の不透明性 “といった業界構造上の課題やデジタル化の遅れなど、テクノロジーによる解決との親和性は他業界以上に高い。今後必ずやってくる人口減少や供給過多の時代に向けて、不動産テックは着実に盛り上がっていくものと考える。