愛媛県松山刑務所で起きた脱獄事件。脱走した平尾容疑者は「刑務官からいじめられ、つらかった」と供述しており、刑務所内でのいじめが逃走の直接的な原因のひとつであると考えられている。そんな平尾容疑者も今後は再び刑務所に逆戻りだ。22日間、羽を伸ばすことができたと考えているのか、それとも「また刑務所か」と落ち込んでいるのか……。
おそらく後者だろうが、気になるのはそんな平尾容疑者が心の底から嫌がる刑務所内の日常である。娯楽などはあるのか、はたまた24時間苦しみ続けるのか。いじめがあったと言われているが、受刑者たちの間にもヒエラルキーなどが存在するのだろうか?
今回は、過去に薬物での逮捕・服役歴がある男性・五十嵐さん(仮名・40代)に話を伺った。
◆受刑者たちのヒエラルキー「ヤクザは別格」
刑務所のなかでは様々な罪を犯した者たちが生活している。だが、受刑者にもヒエラルキーが存在するらしい。犯罪者は犯罪者。元エリートサラリーマンだろうが貧乏人だろうが同じ受刑者である。しかしそんな刑務所のなかでもひと際目立つ存在がヤクザであると五十嵐さんは話す。
「ヤクザはな、ほかの受刑者よりしっかりしとるんや。刑務作業も真面目、普段の生活も真面目や。だから刑務官に好かれとる。かといってほかの受刑者になめられているかっていうとそうでもないんや。やっぱオーラがあるし、俺らに対してはデカい態度をとって威厳を保とうとしとる」
刑務所にまできてちゃらんぽらんな態度を取っていたらたしかにカッコ悪い。「ここまできて何しとるんや」という話である。
「ヤクザはやっぱ肝の据わった男なんや。筋通すべきところはちゃんとしとる」
そんな彼らは刑務官には好かれ、ほかの受刑者からは一目置かれる。ヤクザは絶妙なサジ加減で自らのポジションを確立し、上手いことやっているらしい。
◆禁断症状で暴れ出す薬物中毒者は疎ましい存在
ヤクザに比べて疎ましく思われてしまうのが薬物中毒の受刑者であるという。身体的依存・精神的依存がともに高い覚せい剤で捕まった者などは禁断症状で苦しむことになる。薬物依存症はしっかりとした手順を踏んで直すべきもの。いきなりクスリを断ち切られるのだからそりゃ大変だ。
「中毒者はまず個室に入れられるんや。もちろん、そのうち禁断症状で暴れだすやろ? そしたら保護房に連れていかれて隔離や。手錠をかけられたまま暗闇に放り込まれるんや」
保護房に入れられた中毒者は暴れる、ドアを蹴る、刑務官にとびかかる、叫ぶなどもう地獄。疲れ果てておとなしくなったところで個室に戻されるそうだ。そして2~3日経つとまた暴れだすので再び保護房へ。それを延々繰り返し、退所後すぐにクスリに手を出すことが多いという。
「2~3人どころじゃないで? そんなやつがいっぱいおるんや。これホンマの話やで?」
保護房の話になると一気に語気が強まる五十嵐さん。彼は重度の依存症ではなかったため相部屋だったというが、覚せい剤での逮捕である。刑務所内でよっぽどつらい思いをしてきたのだろうか。
◆底辺は性犯罪者、下着泥棒は「おい、おパンツ!」と呼ばれる
薬物中毒者と積極的に関わろうとする者はいない、というよりも重症な人間はそもそも隔離されているので接点がない。数ある犯罪の中でもっとも肩身が狭い者。それは性犯罪者だそうだ。
「強姦や児童関係は人間として終っているからみんな相手にせんけどな、下着泥棒は格好の餌食や。みんなバカにしよる。下着泥棒さんとは呼ばんで。敬意を込めて『おパンツ泥棒さん』と呼ぶんや」
話しかけるときは『やあ、おパンツ泥棒さん』というらしいが、遠くから呼ぶときは『おい、おパンツ!』と叫ぶらしい。薬物に比べるとよっぽど軽い罪な気もするが、バカにされるという観点で見るとぶっちぎりで底辺のようだ。
もともと窃盗罪で服役していた平尾容疑者。逃走中も窃盗を繰り返し、誰もが知っている「泥棒」となったわけだが、これから服役する刑務所では一体何と揶揄されるのだろうか。ともあれ、おパンツ泥棒での逮捕だけは絶対に免れたいものだ……。<取材・文・撮影/國友公司>
コメント