2017年12月のある朝、南極から南米へ向かう船内に流れたアナウンスに、誰もがデッキへ急いだ。
乗客は148人、ほとんどが観光客だったが、博物学者やビデオカメラマンもいた。南極大陸への旅から帰る途中で、彼らは極めて珍しい光景を目の当たりにした。非常に珍しい、「タイプD」のシャチの群れである。(参考記事:「希少なシャチ“タイプD”、実は新種?」)
このシャチは変わった外見をしており、過去70年間で数えるほどしか目撃例がない。他のシャチとは明らかに異なるため、独自の種として認められる可能性もある。
40頭ほどの群れが、船の周りをジャンプしていた。それは信じられないほど壮観だった。「シャチは遊んでいました。私たちの船を追いかけているようにも見えました」と振り返るのは、今回の南極ツアーにゲストスピーカーとして参加していたグレッグ・トレイニッシュ氏。氏は米国の非営利団体「アドベンチャー・サイエンティスト」の常任理事で、ナショナル ジオグラフィックのエクスプローラーでもある。(参考記事:「獲物を追い詰めるシャチの群れ」)
乗客らがこうして船上からシャチの群れを眺めている一方で、水中カメラが海に入り、この謎に包まれた動物を初めて撮影することに成功していた。
本当に幸運でしたとトレイニッシュ氏は話す。このシャチを調べようと特別に計画した遠征でも、見つけられないこともあるという。このシャチの生息する海域が陸から離れているうえ、風が強くて荒れやすいことが原因だ。(参考記事:「【動画】シャチ集団がクジラを襲撃、協力して捕食」)
目撃例がきわめて少ない
タイプDのシャチが確認されたのは1955年、ニュージーランドの砂浜で、独特の外見のシャチの群れが打ち上げられたことだった。頭は丸く、背びれは鋭くとがり、アイパッチと呼ばれる目の周辺の白い模様は、他のタイプのシャチよりはるかに小さかった。
その後の目撃例は非常に少なく、タイプDのシャチの専門家で米海洋大気局の海洋生態学者ロバート・ピットマン氏でさえ、実物を見たことはない。(参考記事:「【動画】シャチが集団で巨大クジラに体当たり」)