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異世界転移~命が『たった一つ』しかない異世界で、最強の『最弱職:コレクター』が行く神器探しの旅~ 作者:月島 秀一
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59:エピローグ


(反省はしているようだし……。さて、どうするべきか……)

 俺がアスフィアの処遇について思案していると、左足にズシリと重みを感じた。
 見れば、なんとアスフィアが、俺の足にすがりついていた。その顔は涙と鼻水でぐしゃぐしゃとなっており、元の整った顔の面影(おもかげ)微塵(みじん)も感じられない。

「お、お願いじまず……っ。命だげは、命だげわぁ……」
(……なんというか……汚い)

 アスフィアの涙と鼻水のブレンド汁が俺のズボンにどんどん吸収されていく。

(これは新手(あらて)の攻撃だろうか……。今すぐにでも離れてほしいんだが……)

 俺の思いとは裏腹に、アスフィアはその手を放す素振りを一切見せない。

「な゛んでも……なんでもじまずからぁ……っ」
(なんでも……か……)
「ならば神器をいただ――っと、いや、すまない。……何でもない」

 俺は途中まで出かかった欲望に自ら(ふた)をした。

(ちっ、これ(・・)では意味がないんだったな……)

 力により強引に奪い取った神器の所有権は、元の神に帰属する。神器の入手が困難を極める最大の要因がこれだ。どのような手順・手続きを踏めば、神器の所有権が正式に神から俺へと移転するのか、未だ正確には掴めていない。

(しかし……過去の経験上、暴力に訴えて得たものは全て失敗に終わった……)

 実際アスフィアのように、俺に敗北し泣きながら命乞いをした『神』も極少数だが、存在した。そのときは対価として、神器を頂戴したのだが、不思議なことに道具一覧(アイテムウィンドウ)に入らなかった。その後カード化は諦め、実体化したまま持ち歩いていたのだが、その神器はある日忽然(こつぜん)と消えてしまった。
 その後、以前の所有者である神を少し(・・)強めに問い正したが、神器の行方(ゆくえ)は知らないようだった。

(あれはもったいないことをした……)

 俺がシミジミと過去の苦い記憶を想起(そうき)していると、遠目に大勢の観客がこちらへ向かってくるのが見えた。アスフィアがひたすらに後退し、当初闘っていた位置から大きく移動したため、慌てて追ってきたのだろう。

「はぁ……仕方ない。いろいろと面白いもの見せてもらったことだし、きちんと()びるなら、今回だけは見逃してやろう」
「ほ、ほんど……っ!?」

 アスフィアの目にほのかに希望に灯が灯る。

「あぁ、ちゃんと詫びる気があるならな」
「あ゛るあるっ――ありまずっ!」

 そういうとアスフィアは、俺の足から離れ、無駄のない動きで土下座の体勢へと移行した。

「――調子に乗っで、オ゛タクとか言って……ずびばぜんでした」

 ゆっくりと丁寧に頭を地に付けるアスフィア。そこにかつての尊大な態度は、一ミリたりとも存在しない、今まで積み上げてきたもの全てを放り投げるような、かくも綺麗な土下座だった。

(……誰もそこまでやれとは言っていない)

 その頃、折悪(おりわる)く大勢の観客がこの場へと到着した。

『はぁっ……はぁっ……。――おい、あの狂人(きょうじん)がいたぞっ!』
『そうかっ! アスフィア様はどこ……に……っ!?』
『……おい……あれ』
『どげ……ざ……? あの尊大で傲慢で自分勝手なアスフィア様が……?』
『負けたのか……。神が……人間に……』
『しかし……仮にもこの街の頂点である女神が、土下座して命乞いなんて……』
「せ、先輩……」

 アスフィアの姿を確認した観客と女神セイラが、大きく狼狽(うろた)えているのがわかる。

(衆人環視の中でこのような醜態を晒して……。彼女は今後この街の女神としてやっていけるのだろうか……?)

 まぁそれは置いておくとして……。問題はアスフィアの謝罪が大きくポイント(・・・・)を外していたことだ。

「はぁ……そうじゃないだろう?」

 俺が謝って欲しいのはそこ(・・)ではない。

「えっと……その……。――あたしみたいなゴミムシが、ドラ様に楯突いて……申し訳ありませんでした」
(そうじゃない。誰もそんなことは望んでいない)
「俺が何に怒っていたのか、忘れたのか? ……最後のチャンスだ、よく考えろ」

 俺は愛刀の柄に手をかけ、最後のチャンスを与える。まさに死の淵に立たされたアスフィアは、涙を流すことすら忘れ、顔面蒼白になりながら必死に解答(こたえ)を模索する。

「え、えっと。あれがこれで、えっと。だから……そのっ……」

 そしてついに何かに思い至ったのか、アスフィアが小さく声をもらした。

「……あっ」

 そこからの行動は早かった。

「――あたしのようなゴミムシが、ドラ様の至高の宝物(アイテム)を愚弄したことを、どうかお許しください」

 今までのどの土下座よりも雄弁で、いっそ品すら感じさせる至高の動き(ムーブ)だった。

「そこまで卑屈になる必要は全くないが……まぁいいだろう。――今回だけは特別に許してやる」
「ほ、ほんとにっ!?」

 さっきまでの沈痛な表情はどこへやら。アスフィアは希望に満ち溢れた顔をしている。

「あぁ、人間誰しも間違うことはあるからな」
「う、うんうんっ! まさにその通りっ! さっすがドラっ! わかってるぅっ!」
「――ただし、二度目はないぞ?」

 次は一切の手心も温情もない、即座にその首を刈り取るつもりだ。

「も……もちろんよっ! 口が裂けても、あんなことはもう二度と言わないわっ!」
「そうか、ならいい」

 アスフィアがホッと胸を撫で下ろしたそのとき、横合いからセイラが申し訳なさそうに話しかけてきた。

「あ、あのぅ……。この場合、勝敗はどうすればいいんでしょうか?」
「そうだな……俺もアスフィアも生きていることだし、『引き分け』でいいんじゃないか? ――その方がそちらも(・・・・)都合がいいだろう(・・・・・・・・)?」
「ありがとうございます。……本当に助かります」
「ふぇ、何が?」

 俺の意図するところを敏感に読み取ったセイラは丁寧に一礼し、全く理解でてきないアスフィアは首を傾げた。
 建前上アスフィアはこの街の頂点だ。それが1対1の決闘で『敗北した』となっては、今後の街の統治に大きな支障が出るだろう。しかし、これが『引き分け』ならば、その影響は比較的小さなものになる。形式的なものだが、勝敗という『結果』は非常に大きな意味を持つのだ。

(――と言っても、泣きながら俺に土下座した場面を、しっかりと見られているからなぁ……)

 この対応がどれほど意味を持つかはわからないが、間違いなく女神セイラの俺に対する好感度は上がったことだろう。彼女とは、今後とも是非仲良くしていきたい。――そしていつの日か彼女の持つ神器を俺のコレクションに加えたい。

(……まぁ俺自身、勝敗に強い(こだわ)りはないしな)

 大事なのは『勝つか負けるか』ではなく、『殺すか殺されるか』だ。
 俺がそんなことを考えていると、セイラが観客にも伝わるように凛とした声で、『結果』を宣言した。

「それではアスフィア様対テオール=ドラさんの決闘は――引き分けとします」

 俺はチラリと観客の反応を窺う。

『引き分け……? いや、これはどう見ても……』
『あぁ、アスフィア様の……いいや、アスフィア(・・・・・)の負けだ』
『おいおい、どうなっちまうんだこの街は?』
『……俺、アスフィアクラスタ抜けるわ』
『……私も』

 彼らがこの決闘に対し、大きな不満を抱いているのは一目瞭然だ

(……少し、申し訳ないことをしてしまったな)

 貴重な時間を割いて、こんな空き地まで足を運んでくれた多くの『血と死』に飢えた観客たち。しかして彼らは大きな不満を言うこともなく、暴徒(ぼうと)と化すこともなく、一人また一人とバースへと戻っていった。

(……なんという奥ゆかしさだ)

 気に入らないことがあれば、すぐに暴れ出すヴァルナの住人たち――特に俺の友人たちには、是非ともこれを見習ってもらいたい。
 観客たちが帰ったところで、突然アスフィアがペタリとその場に座り込んだ。

「先輩っ、大丈夫ですか!?」
「……うん、大丈夫。……ありがとセイラ」

 アスフィアは自らの両手を握っては開いて、開いては握ってを繰り返す。

「……生きてる。……うん、あたし……生きてるっ!」

 生の実感をひしひしと感じとったアスフィアは、勢いよく立ち上がった。

「さぁ、アスフィア宮殿に帰るわよ、セイラっ! ――それじゃね、ドラ! 出来ればもう二度と会いたくないけど!」

 そう言ってアスフィアは意気揚々とバースの方へと歩き始めた。

(切り替えの早い奴だ……)

 それに続いてセイラがこちらへ向き直る。

「それではドラさん、私たちはこれで失礼しますね。今日はいろいろとご迷惑をおかけしました」
「いやいや、こちらこそ、少しやり過ぎたかもしれない。すまなかったな(・・・・・・・)

 彼女はペコリと一礼し、アスフィアの後を追って行った。
 ふむ、俺はセイラにきちんと『謝罪した』。これでソフィとの約束も果たされ――あっ。

(……ソフィのこと、すっかり忘れていたな)

 彼女には<拘束の楔/バインド・ウェッジ>を打ち込んである。おそらく今もあの場所から動けていないはずだ。俺は駆け足で決闘の開始地点へと戻る。
 するとそこには、三角座りでジッとこちら――俺とアスフィアが移動した先を見つめるソフィの姿があった。

「ど、ドラさんっ!」

 俺の姿を認めたソフィが慌てて立ち上がる。

「すまない、少し待たせてしまったな」

 ソフィにかけておいた<拘束の楔/バインド・ウェッジ>と<守護の壁/ウォール・オブ・ガーディアン>を解除する。
 体が自由になったソフィは、慌ててこちらへ駆け寄ってきた。

「ぶ、無事なんですね!?」
「あぁ、見ての通りだ。心配をかけたな」
「……よかったぁ」

 ソフィの顔にあった緊張の色が一気に霧散していく。

「そ、それでアスフィア様は……?」

 恐る恐ると言った感じで、ソフィが問いかけてくる。

「彼女はきちんと改心して、俺に――いや、俺の宝物に詫びを入れた。まぁ初犯(しょはん)ということもあるし、今回だけは見逃すことにしたよ」
「『見逃す』ということは、やっぱり勝ったんですね……。人間が神に……」

 ソフィは大きく唾を飲み込んだ。そこまで驚くべきことではないが……。まぁその辺りの常識のすり合わせは、追い追いやっていけばいいだろう。

「さぁ、帰るか」
「はいっ!」
「少し遅くなってしまったが、帰ったらすぐに夕食にしよう」
「はいっ! ……はい?」

 良い返事を返したと思った次の瞬間、ソフィはガチリと固まってしまった。

「ん? どうした、ソフィ?」
「ゆ、夕食ってもしかして……アレ(・・)ですか?」
「あぁ、もちろん。栄養たっぷりの強化系の草の盛り合わせだ。言ったじゃないか、これからは毎日三食きっちりと食べてもらう、とな」
「い……い、いやぁぁぁああああああっ!」

 広大な空き地に、ソフィの悲痛な叫びが木霊した。






第一章:完結






そして――






――次回予告っ!

 長年溜めてきた『信仰』と市民からの『なけなしの信頼』を失ったアスフィア。彼女のとった驚きの行動とは!?
 そして圧倒的な力を誇るドラの蒐集家(コレクター)生活が今始まるっ!
 また養殖レベリング・強化系の草の摂取により、徐々に力をつけているソフィ。彼女の修業に新たに『厳しいアレ(・・)』が加わわってしまい……!?
 さらにさらにバースの街へと忍び寄る邪心軍の影っ!
 ドラにソフィ、アスフィアにセイラが交差するとき――物語は始まる。

次回:第二章???編 お楽しみにっ!
第一章完結、ご愛読ありがとうございました!
ページ下部より第一章終了時点の『ポイント評価』を入れていただけると、嬉しいです。

次回予告の通り、第二章のプロットは既に完成しております。
しかし、内心『この作風で続けていっていいのか?』という不安もあります……。
やはり読者の皆様に『おもしろい!』と思っていただける作品を書くことが一番なので、皆様の評価が高いようでしたら、このままどんどん書き進めていきます!
評価が低い場合は、一週間ほど時間をかけて第二章のプロットを見直します。

※面白ければ、ページ下部より第一章終了時点の『ポイント評価』を入れていただけると、参考になりますし、嬉しいです。

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